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ジョージア料理に恋して⑭トビリシマダムのクリスマス

こんにちは、ジョージア美食研究家あきです。
ジョージア料理に魅せられてジョージアの食文化を紹介しています。
札幌で日本唯一のジョージア料理専門の料理教室を主宰しています。

クリスマス、いかがお過ごしですか?

記事を書いているのは2022年12月23日。
いわゆるクリスマスイブイブだ。

日本人はなんでも前倒しが好き。特に季節は先取りしたい民族なんだと思います。
日本では、12月24日のクリスマスイブがクリスマスのクライマックスで25日の朝には気分としてはクリスマスは終了している。
商店街でもコンビニでも早々とクリスマスの飾りは撤去され、街はお正月準備にすっかり切り替わってしまう。

日本にもクリスチャンの方はいらっしゃるけれど、キリスト教の国ではないので大半の日本人にとってはクリスマスは宗教行事ではなくハロウィーンやバレンタインのような「季節の風物詩」のひとつ。
だからキリスト教徒にとってクリスマスが始まる25日には次の季節の行事・お正月に興味が移ってしまうというわけですね。

日本のクリスマスの過ごし方は、時代によって変わってきたけれど本来のクリスマスの過ごし方とはかけ離れているに違いない。
(ちなみに我が家のクリスマスケーキは大雪のためキャンセルになってしまい、ケーキもチキンも無いアラ還のクリスマス)

キリスト教を国教にしている国ではどんな風にクリスマスを過ごすのか?
私はトビリシに住むタムナさんに電話をかけてあれこれ聞いてみました。

私とタムナさん(タムナさんはジョージア人のガイドさん)

クリスマスは1月7日

ジョージア政府の統計によるとジョージア国民の約8割がキリスト教徒です。
ジョージアはキリスト教を国教に定めた国としてはアルメニアに次いで世界で2番目に古く、その歴史は4世紀にまで遡ります。

ジョージアの国教はジョージア正教です。
カトリック、プロテスタントというのは聞いたことがあるかと思いますが、私たち日本人にとって正教会というのはあまりなじみがありませんよね。

以下は日本正教会のHPからの引用です。

正教会は東方正教会とも呼ばれます。ローマ・カトリック教会やプロテスタント諸教会が西ヨーロッパを中心に広がったのに対し、キリスト教が生まれた中近東を中心に、ギリシャ、東欧から、ロシアへ広がりました。

 20世紀になり共産主義革命による迫害を受け、多くの信徒や聖職者が世界各地に散らばっていきましたが、その結果西ヨーロッパやアメリカをはじめ世界各地に教会が設立され、西方教会しか知らなかった人々にも伝道されるようになりました。現在では移民や亡命者の子孫だけでなく、カトリックやプロテスタントからの改宗者たちも大勢出るようになり、欧米主導の現代文明の行き詰まりとともに停滞する西方キリスト教に新鮮な刺激を与えています。

日本正教会HPより

正教会はジョージアだけでなくロシア、ウクライナ、セルビアなど主に東欧諸国に信者が多いのですが、旧ソ連に含まれる地域が多かったため、引用文にもあるようにソ連時代は迫害を受けてきた歴史があります。
ジョージアも例外でなく、ソ連時代は宗教的な行事が禁じられたため、年末年始の祝い方にその名残があります。

ジョージアではクリスマスを1月7日にお祝いします。

ユリウス暦とグレゴリオ暦という言葉を覚えていますか?(世界史の授業で習いましたよね)

ユリウス暦はその名前の通りユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)が制定したと伝えられるいわゆる旧暦です。
ユリウス暦は実際の太陽の1年間と誤差があったため、改良版として制定されたのがグレゴリオ暦、新暦です。現在の私たちの社会は基本はこのグレゴリオ暦を使用しています。
しかし、ジョージア正教ではグレゴリオ暦ではなくユリウス暦で正教の祝日をお祝いします。

ユリウス暦の12月25日が、すなわちグレゴリオ暦の1月7日に当たるのです。

ソ連統治下では、クリスマスを祝うことが禁じられた代わりにソ連邦内の各国で新年、年越しは盛大に祝っていました。ここで言う大晦日と元日は私たちが使用している暦、グレゴリオ暦の12月31日と1月1日です。

年越しを盛大に祝う習慣はソ連が崩壊して30年以上経った今でも残っているので、ジョージアでは1月1日にお正月を祝い、その約1週間後の1月7日にクリスマスを祝うのです。
ご家庭によっても違いますが、年越しは賑やかに過ごしクリスマスは宗教的な行事なので敬虔に過ごすという傾向のようです。

クリスマスの準備はいつから?

こう質問するとタムナさんの答えは「1年中考えてる!」
ジョージアの主婦にとって新年とクリスマスの準備は大仕事なので、1年中頭から消えることは無いと言うのです。
実際に準備としての買い物は秋口の胡桃の買い出しから始まります。
後半でご紹介しますが、ジョージアの新年・クリスマスの料理とお菓子には胡桃を大量に使います。
タムナさんの家では毎年胡桃を2キロぐらい買います。
年末が近づくと胡桃の価格が高騰するので、10月の終わりか11月の前半の良い胡桃が市場い出そろった頃にまずは胡桃を買いに行くそうです。

市場に並ぶ胡桃。西ジョージアでは胡桃よりヘーゼルナッツが多い。

お買い物と併行して12月に入ると家の大掃除と飾り付けをします。
タムナさんにクリスマスで1番楽しいのは何?と聞くと「新しい飾りをクリスマスマーケットで買って部屋を飾り付けること!」だそうです。
トビリシの街にはクリスマスが近づくと街中にクリスマスマーケットの屋台が登場するのです。

そういった準備とは別に、ジョージアの人々には宗教的な意味でとても大切な準備があります。

それは、断食です。
簡単に言うとクリスマスやイースターなどの祭日の前はある一定期間、肉や魚など動物性の食品を食べません。
しかし、これはダイエットではないので単に食べるものを制限するのではなく、心身ともに清めて大事な祭日に備えるという意味なのだそうです。

祭日によって断食期間は異なる

ジョージア料理には肉や乳製品のメニューが多いのですが、断食期間中はどんな食事をしているのでしょうか。
もちろんサラダなど普段の野菜料理や肉を入れないスープがテーブルに並びますが、肉に代わる栄養源なる食材がジョージアではよく食べられています。

ジョージアの市場で売られている乾物の豆

豆(ロビオ)です。

トビリシのレストランで食べたロビオ

豆料理の代表が煮豆「ロビオ」。
もう1つが豆をあんこのように潰してパン生地で包んで焼く「ロビアニ」。

山岳地帯ラチャ地方で食べたロビアニ

12月17日の「聖バルバラの日」には、ジョージアではこのロビアニを各家庭で焼いて家族揃って食べます。これもクリスマスに向けた準備のひとつ。

クリスマス・新年のご馳走

ご家庭によって違いはあるかとは思いますが、タムナさんのお宅では新年もクリスマスも同じようにご馳走を作ってお祝いをします。
胡桃を大量に使うメニューのひとつめがゴジナキ。これはスイーツです。

Medea Gotsiridze-Kojimaさんのゴジナキ

ゴジナキは胡桃とハチミツと砂糖だけのシンプルなお菓子。
胡桃を刻んでローストし、煮立てたハチミツと砂糖を絡めて板状にのばして包丁でひし形に切ったら出来上がり。
見た目は雷おこしのようだけどあんなに硬くはなくて食べやすい。ジョージアは胡桃もハチミツもとても美味しいので出来上がるゴジナキも美味しいのです。

写真はジョージアのものではなくフリー素材

ジョージアでお祝いの席によく登場するのが、子豚の丸焼きです。
中世の西ジョージアでは決して豚を食べることはなかったそうなので、おそらく豚は割と新しい時代に東方(アジア)からジョージアにもたらされた食材なんだと思います。豚の丸焼きはベトナムやフィリピンなどアジアの国でも食べられている料理ですよね。
庭にバーベキューの設備がある田舎のお宅ならまだしも、トビリシの団地住まいでこんな豪快な料理を準備するのはなかなか大変なはずです。
トビリシでは年末が近づくと豚を丸ごと焼いてくれるお店が登場します。
自分で市場で好みの豚を買ってきて好みの味で下ごしらえをしてお店に持ち込むと、約束の時間までに豚を焼いておいてくれるんだとか。

最後のご紹介するのが、サツィヴィという鶏肉の料理です。

Medea Gotsiridze-Kojimaさんのサツィヴィ

ジョージア語研究者の児島先生の奥様メデアさんのご実家にお邪魔した時にメデアさんからサツィヴィを教えていただきました。茹でた鶏肉に胡桃とスパイスをたっぷり使ったソースをかけた料理で、ジョージアではお正月、クリスマスには絶対に欠かせないご馳走です。

サツィヴィの「ツィヴィ」というのはジョージア語で「冷たい」という意味で、この料理は冷たくして食べるのです。
出来立ては温かいのになぜわざわざ冷たくして食べるのでしょうか?
しかもお正月もクリスマスも真冬の寒い時期です。冷たい料理が嬉しい季節ではありませんよね。

私はメデアさんにもタムナさんにもサツィヴィを冷たくして食べる理由を聞いてみましたが、おふたりとも「子供の頃から当たり前だから考えたこともなかった」と言います。
他の人に質問すると「だってサツィヴィのツィヴィは冷たいって意味だからよ」と禅問答のような答えが返ってくるばかり…。いや、意味は知ってるけど冷たくして食べるからツィヴィってつけたんであって、ツィヴィって名前だから冷たくして食べるってことじゃないでしょ…。

私の立てた仮説は、「お正月やクリスマスは親戚だとか何かと来客が多いので作り置きができて冷たいままでも美味しいお料理を出すようになった」というものだけど、これに賛同してくれるジョージア人はこれまでいなかったのであります。

一説には、ジョージアは昔から戦いの多い国だったので、火を使わなくてもすぐに食べられる料理が重宝されたというのですが、私はどうも腑に落ちていないので、次回ジョージアに行ったときにもう少し聞き込みをしてみようと思っています。

サツィヴィのレシピ

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