56歳、会社辞めてシルクロードに餃子食べに出かけてみた④林檎の里で癒される、カザフスタン・アルマトイ
霍尔果斯を出発してまもなく列車は停止した。
私たちは国境を越えてカザフスタンに入ったのだ。
列車には迷彩柄のユニフォームを着たカザフスタンの国境警察(多分)が乗り込んできた。
ドキドキする。
いよいよ入国審査だ。
バスで中国からカザフスタンに入ると、入国審査で荷物を洗いざらい調べられて質問もたくさんされると聞いていた。
私たちのコンパートメントに長身の警察官が1人やって来た。にこやかに挨拶をし、バックパックを渡すように言う。
カザフの人は背が高い。
彼は私と娘のバックパックの口を開けて軽く中を覗き込み、すぐに返してくれた。
乗客は1人ずつ、使用していないコンパートメントに呼ばれた。パスポートを持って行くと、国境警察官が2人座っていて、パスポートを見せるように言う。
パスポートの写真と実際の私の顔がコンピューターの顔認証で一致すると、ただちに入国のスタンプを押してパスポートを返してくれた。
入国審査は以上。
質問も無し。
中国からの出国がしつこいぐらいだったのに、こちらはなんて簡単なんだ??
10人分の出国手続きはあっという間に終了し、列車は再び動き出した。
はじめにWikipediaで調べたタイムスケジュールだとアルマトイには明朝着くはずだったが、Googleマップで位置情報を確認すると、とても一晩かかるほど距離があるとは思えない。
でも夜行列車って、途中の駅でずっと停まってることもあるよなぁと思ったり。
中国人の車掌さんに娘がいつアルマトイに到着するのか聞いてみると「もうすぐ着くよ!」という答え。
やっぱりー!そうなんだ!
二晩かかるなんていうのは古い情報で、正確には一晩と半日。
2日目の夜にはアルマトイに着くのだ!!
私たちは明日の朝着くつもりでいたから、今夜の宿を予約していなかった。
慌てて車内からブッキングドットコムでホテルを予約した。
アルマトイ2駅に到着したのは深夜11時過ぎだった。
駅にホームはなく、車高の高い列車のデッキから飛び降りるようにして地面に降りた。
あたりは真っ暗で、足元もろくに見えない。駅舎の方に向かって歩いたが、出口には改札も何もなく、いきなり駅の外に出された。
ホテルは予約できていたものの、真夜中にこの重たい荷物を背負ってどうやってホテルまで行く??
カザフスタンの治安は良いと言う人と、銃犯罪や薬物犯罪も結構あって余りよろしくないと言う人もいた。
果たしてこのアルマトイ2駅の周辺は、アルマトイの中でも治安の良い地域なのかそうでもないのか??
朝明るくなってから到着するつもりだった私たちは、そこらへんまるでノーチェックだった。
とりあえず、タクシー呼んでみるか。
事前に東京でヤンデックスタクシーのアプリをダウンロードしてクレジットカードを登録しておいた。
ヤンデックスを起動させホテルの名前を打ち込むと、タクシーが何分で来るのか、いくらかかるのか表示されるので、オッケーなら確定させる。
車は駅前のロータリーにすでに居たので、数分でタクシーに乗り込むことができた。多分列車が着く時刻に合わせて駅で客待ちをしていたのだろう。
駅舎で両替せずにタクシーに乗ってしまったがクレジットカード決済だったので問題なし。車を呼ぶ時点でキャッシュかクレジットカードか表示される。ヤンデックスが使える国でも、エリアによってはキャッシュのみの場合もあるのでちょっと注意が必要だ。
私たちが泊まったカザフスタンホテルは、街のランドマーク的な立派なホテルだった。
アメニティも充実、ホテル内には何軒もカフェやレストランがあり、ルームサービスも頼める。
カオスな中華世界から、一気に西洋的文明社会に戻った気分になった。
フロントでもカフェでもロシア語だけでなく英語も通じるのでとても安心。
私たちはルームサービスでクラブハウスサンドを頼みミニバーのワインで乾杯した。
翌日は雨。私たちは街の中心街にあるモールへ出かけた。西安でもウルムチでも街歩きに疲れるとショッピングモールへ行った。
中華的カオスの中に身を置いていると、文明の象徴であるモールはオアシス、駆け込み寺なのだ。
トイレは綺麗だし、飲食店も清潔で安心。エアコンも効いてるしね。
西安でもウルムチでもトイレにトイレットペーパーが備えてあったのはモールだけだった。公共の場所のトイレはかなり綺麗で掃除が行き届いててもトイレットペーパーはまずない。トイレットペーパーホルダーはあるのに紙はないのだ。
中国に居る間は、命とパスポートの次に大事なのが、トイレで使う紙。いつも荷物の中のティッシュの在庫を気にしていた。
Dostyk Plazaは、アパレルやインテリア雑貨、フードコートのほかに大きなスーパーもあり、1日居ても飽きなかった。何よりも安全で落ち着く。もちろん清潔。トイレの使い方も皆さん綺麗。
中国に居る間は常に緊張していたのが嘘のようだ。
私たちはロシア風のインテリアのカフェテリアに入った。
たくさんの料理が並んでいるのだが、自分で取るのではなくキッチンの中にいるおじさんに皿に盛ってもらう制度だ。
お昼時でお客さんがたくさん居るのに中のおじさんは1人。
こっちはロシア語もカザフ語もできないのに、地元民と張り合って食べ物を手に入れなくてはいけない。
並んでいる料理の中にラグマンを見つけたので、大声でおじさんに「ラグマン!」と言った。通じた(笑)。中央アジアに来たぞー!
雨がやむ気配が無かったので、私たちはモールの中のスーパーで夕飯を買ってホテルの部屋で食べることにした。
スーパーのお惣菜売り場でマンティを発見!中はかぼちゃと牛肉だった。
熱々を食べたかったけど部屋には電子レンジはないし、レセプションに電話して電子レンジでマンティを温めて欲しいから取りに来てと、英語でお願いする気力はなかった。冷めてても、充分に美味しかったよ。
カザフスタンはそんなに物価は安くないけどお酒はやたら安かった。
ジャケ買いしたジョージアワインは500円ぐらい、1リットルのビールは100円ぐらいだった。
カザフの人たちは背が高く脚が長い。
日本人とよく似た顔立ちの人も多い。女性のメークは黒い眉とアイラインに真っ赤な口紅のはっきりした色づかいで、服装も黒や赤、金などパキッ!としたファッションが多かった。
国民の7割がイスラム教徒だがヒジャブをかぶっている女性はとても少ない。
人々の物腰は穏やかで、みな親切。態度も控えめだ。
わーわーわーわー大声で騒々しい中国の民とはえらい違いだ。
ほんの数日中国に居ただけなのにすっかり中国の皆さんのパワーにやられてしまっていた。
それだけ中国はものすごかった、いろんな意味で。いや、あれはあれで嫌いじゃないのよ。他人の迷惑って概念が無いからむしろ清々しい。だって悪意じゃないんだもん。
彼らの中には「スマホのマナーモード」という機能が存在しない。いや、スマホ自体にはマナーモードもミュートもあるんでしょうが、誰も使わない。どんなに混雑したバスの中でも常に大勢のスマホからピコピコとメッセージの受信音が鳴り、電話がかかってくれば躊躇なく会話が始まる。飛行機の中ではイアホン無しで大音量で動画を見ながら爆笑。周囲の人たちは特に咎める様子もなく、隣席の人は一緒になって動画観て笑ってた。
道路を渡るのも命がけで青信号で横断歩道を渡ろうとしても全然車が途切れないのだ。車が信号無視しているわけじゃないんだけど、右折左折の車が容赦なく突っ込んでくる。娘曰く「向こうも別に轢きたいわけじゃないんだから一旦渡ると決めたら止まったり引き返したりせずに強い意志で向こう岸まで進め!」。中国初心者にはなかなかハードルが高い。
車が来なくても安心できない。歩道も車道も関係なく縦横無尽に街を駆ける電動スクーター。彼らは音もなく背後から近づくので本当に怖い(笑)
それだけじゃない。
やはりウルムチはいろんな意味で緊張感のある街だった。
私にとっては言葉は通じないし、街のいたるところで安全検査。人々は行列に殺到し、どこへ行っても押すな押すなの大混雑。
ここアルマトイは街全体が公園のようだった。
瀟洒なカフェが並んでいて緑も豊か。ヨーロッパのような街並みだ。ゴミひとつ落ちていないし歩きタバコのオヤジは1人もいないし静か。中国と違って公園で大音量で踊っているグループなんか居ない。
西安の広場ではダンスどころか鞭の練習をしているおじさんが何人もいた。
車も人もちゃんと信号を守っている。横断歩道を渡ろうとしたら右折してきた車が停まってくれた(涙)中からドライバーが「どうぞ」と言っている。
なんてこと!車が道を譲ってくれるなんて!
国境を越えて来ただけであまりにも違う…。感動…。
アルマトイで私たちはすっかり癒されていた。
カザフ3日目は晴れた!
アルマトイに着いてから、ルームサービスとホテルの朝ごはんのビュッフェ、モールのフードコート、スーパーのお惣菜…と、大したものを食べていないことに気づいた私たちは、今日こそちゃんとしたレストランへ行こう!ということになった。
Navat
中央アジア好きならみんな大好きなレストラン。
何を食べても素晴らしく美味しかったけど、特にベシュバルマクは最高。
ベシュバルマクは平たい麺の料理で、味付けは羊の肉と野菜から出たダシに塩を加えただけ。麺にこのダシがよく染みてシンプルで味わい深い。中央アジアではお祝いの席で出されるご馳走だ。我々は奮発して馬肉の載ったベシュバルマクを頼んだ。カザフは馬肉が美味しい。
そしてシルクロード 4つ目の餃子チュチュワラ。チュチュワラとペリメニの違いがわからないんだけど、チュチュワラの方がずっと小さいってことなのかな?トマト味のスープに入っていた。
街のあちこちにサモサ屋さんがあり、学校帰りの子供達が買っていた。
街並みはヨーロッパみたいだけどやはりここはアジアだ。
私たちはバザールへ行ってみた。
外は雑貨や衣料品
食料は1階と地下。2階には飲食店。トイレを探して間違って2階へ上がり、引き返そうとしたらお店のお兄さんが追いかけてきて、「どうしたの?何を探してるの?」と英語で尋ねてくれた。
バザールの中はやはりアジアチックで、トイレが洋式ではなく、私たちが考えるところの「和式」。しゃがむタイプだ。入口でおばさんに小銭を渡すとトイレットペーパーを渡してくれる。
中央アジアには、朝鮮族の末裔が多く暮らしていると聞く。バザールにはキムチ売り場があった。
ぱっと見はピクルス売り場のようだが匂いはキムチ。スーパーのお惣菜売り場にも朝鮮風のサラダが何種類も並んでいた。
ナン(ノン)もある。
私たちは晴れている間にコクトベへ行ってみることにした。コクトベはカザフ語で「緑の丘」を意味する。標高1000メートルほどの山で、ロープウェイで簡単に山頂まで登ることができる。
「アルマトイ=りんごの里」
(アルマトイで買ったピアスとジャケットでカザフファッションの私)
カザフスタン最後の夜は名物の馬肉盛り合わせで晩餐。
楽しかったな、アルマトイ。私たちにとっては長い旅行の期間の中でもっともストレスフリーな街だった。
次の国、ウズベキスタンでは思いもよらない試練が私たちを襲う…(笑)
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