児童虐待対策について

またも子供の虐待死だ。詳報を知るにつれ、胸が掻き毟られる思いに苛まれ不覚にも涙したのは筆者だけではあるまい。  不憫だ・・・ 不憫過ぎる

本稿では, 野田小4女児死亡事案を通して, 児童虐待死対策について論じる。

一昨年の7月、被害女児(以下, 女児)の父親の家庭内での狼藉振りを親族から相談され、沖縄県糸満市は2度面談設定したがキャンセルされ、家庭訪問も転居準備を理由に拒否され、夏休み中にそのまま転居されてしまった。
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面談や家庭訪問を避けるのは、虐待過程における、実態把握を恐れての  典型的行動様式の一つといえる。この時点で最大限、疑念を強めるべきだ。
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市から虐待の確認を依頼された小学校では担任教師が「夏で半袖半ズボンが多い時期で、手足に見える範囲ではアザなどは見当たらなかった。背中などは見ていない」と、徹底した虐待確認は事実上、何ら為されず、

校長は「身体測定でアザなどは確認できなかった。暴力を訴えたとも聞いていない。当時のアンケートは残っていない」と全く信憑性に欠ける物言いに終始した。実際、新聞社が沖縄での取材で、女児の父親の暴力と体に複数のアザを目にした、とする女児友人の証言を得ている。

市は県の児童相談所(以下, 児相)にも相談しているが、支援体制の確立を助言するにとどまり、以降、市と児相との接触は一切ない。

沖縄での市, 児相, 学校の初動が全くもっていい加減であるうちに転居されてしまったがために、転居先の千葉県野田市への申し送りは行われず、情報は断絶してしまった(なお転校翌月の10月、要保護児童対策地域協議会が千葉県警野田署に提供したリストには女児の名前が掲載されている)。
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虐待を隠匿するために転居する、というのは虐待“死”事案で見られる特徴で虐待継続の執念の表れでもあり、最悪の結果を迎える前兆とみるべきだ。(昨年3月の5歳女児死亡事案も香川県から東京都目黒区へ転居していた)
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転校2ヶ月後、学校で定期的に行われる “いじめにかんするアンケート” 調査での女児の回答翌日、県柏児相に一時保護される。本事案で唯一まともな 対応だったが, それも2ヵ月足らずで解除となり, 年末親族の元に戻される。

しかも、解除は学校には伝えず、父親からの連絡で学校は知ることとなる。(市へは伝えており、そこから学校へ伝わることをあてにした節が伺える。)解除後、児相は父親とは一切接触していない(保護中は8回面会)。

年が明け、すぐに同市内の別の小学校に転校するも始業式から欠席。市教育委員会と学校、父母の三者面談が持たれたが(児相は都合により、市児童 家庭課は父親との関係悪化を理由に不参加)、そこで父親はアンケートを 威圧的、恫喝的に要求するに及ぶ。

一旦は女児の同意なしを理由に断るも3日後に父親は女児に同意書を書かせアンケコピーを手にするに至った。その間に、子供を保護する際には、すぐに父親に情報を開示することなどを約束させる “念書” まで学校に書かせた。

本来なら鬼畜親にアンケを渡すなぞ虐待を熾烈化させかねず、愚昧の極みだ(そもそも、アンケは市情報公開条例の不開示情報にあたり、条例違反だ)が、父親の剣幕に負け、アンケコピーを手渡した際、市職員は
「(父親の怒りを遣り過ごせたという)安心感をもった」そうだ。
そこにはもはや, 私心のみ有りきの, 女児を顧みる心情の片鱗さえ伺えない。

女児は、大人達に裏切られ、孤立無援の中、絶望に打ちひしがれていたことだろう。 心中察するに余りある・・・

それからおよそ丸一年, 女児は何も訴えることなく, 冬休み明けから欠席したまま先月末、自宅マンションの浴室にて父親にシャワーで冷水を浴びせられ首まわりを両手でわしづかみにされ・・・ 息絶えた。
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以上が概要だが、接触忌避・転居・転校・親の威圧的態度が特徴的である。これらが複数重なるほど緊急度は高まるとみるべきも、       

「直ちに対応すべき事案とは考えなかった」との県警発言や、
アンケ手渡しからの一年間の各機関の閑散たる対応にみられるように
危急性認識の欠如が随所に見受けられる。

その原因は、情報の記録の不備、非共有ならびに伝達、連携不徹底である。

情報記録については、児相とその管轄自治体間で児童虐待情報を共有する ための “共通リスクアセスメントツール” なるものがある。本事案で
糸満市と県中央児相との間で、果たしてこのツールが機能していたのか、
二者の接触頻度から推して、極めて疑わしいと言わざるを得ない。
(もし機能していたというのであれば、ツールデータを後に野田市へ
提供しているべきで、情報断絶は決して生じ得なかったはずだ。)

どんなに優れたツールでも、使わなければただのゴミだ。何の意味もない。ツール使用の義務化は必須だ。

また、このツール名の“共通”というのは飽くまで児相とその管轄自治体との間での話であり、管轄自治体を超えるとフォーマットが異なることがある。

虐待事案に転居が伴う場合、リスクが跳ね上がる傾向がある以上、全国で 共通化されていなければ、高リスク案件にこそ、ツールが機能不全となってしまう。

本事案のように、職員の資質やミスにより、情報断絶が生じ得ないように するためにも、全国の児相、自治体でリアルタイムにモニターできるよう、ツールをオンライン化し、統一することもまた必須だ。

情報伝達については、全方位的伝達体制の確立、義務化が急務だ。
フローチャートを策定し、当事者はもちろん、自治体、児相、学校に加え、警察、病院等の関係諸機関とは常に双方向で、しかも一定期間、一定回数の連絡を義務付けるべきだ。

「〇〇が先方に連絡するだろう」などという他力本願的意識を打ち砕く  システムにしなければならない。各機関、“放射状伝達” 体制をとるべきだ。

本事案では、仮に警察と柏児相との連携がとれていれば、女児氏名がリストアップされていることから、沖縄の中央児相へ問い合わせて事情を把握でき転居後の情報断絶は回復し、アンケを待たずして、より迅速な対応がとれただろう (アンケを経なければ、それを手渡したり念書を書かされたりという大失態も生じ得ず, 後の展開も大きく異なったものになると考えられる)。

一時保護に成功した後の対応もまた遺憾の極みだ。基本的に子供はどんな親でもかばうもので, 暴力を受けていることを外部に話さない。実際, 友人には父親と喧嘩したとは言えど、アザができる程のひどい暴力を受けている旨は一切話していなかった。

その健気な子供が暴力を受けたと告白し、実際に体に傷が認められた場合、
“一時” でなく長期に保護、つまり親から隔絶すべきだ。
頻繁に子に外傷を負わせるような親が、恒久的に暴行をやめる道理がない。

それでも、もし解除するなら、頻回に子供と接触し詳細なる身体検査も同時に実施しなければならない。さもなくば即、死に繋がるとの念を抱きつつ。

解除時期の判断も大事だが、解除後の対応は、それ以上に重要なのだ(そう考えると、柏児相が解除後、父親と接触しなかったことは信じ難いことだ)。

児童虐待の特徴の一つである、鬼畜親の威嚇、恫喝行為への対抗手段の獲得も重要だ。これはモンスターペアレント対策と同様にワークショップ形式での研修を繰り返し行うことで、周章狼狽した挙句の大失態を回避できよう。

法的な問題だが、民法の中の親の懲戒権を認める規定の削除は急務だ。  アザができるほど子供を叩いていいわけがない。
怒り心頭に発した際には、叩く代わりに抱きしめたい。

最後に我々の対応も大切だ。本事案でも父親の怒号と何らかの打音、女児の叫声を耳にした近隣住民がいた。こうした場合、児相や警察への通報は勿論のこと、可能であれば「あの、お宅から悲鳴が聞こえたのですが。」と、
たびごとに幾度でも訪れたい。
たとえ一時的であろうと、幼子の痛みが和らげば、それでいい・・・

本来なら最も温かく安心できる家の中の、灯が落とされた一室で、
たった一人、寒さと恐怖で身を震わせ、頬に涙を這わせ、
地獄のような日々を送っている幼子が今現在 ― そう、今の今だ! ― 
存在しているという事実を忘れてはなるまい。

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