ベンチプレス競技 "8割ルール" の妥当性について

フィットネスブームだからなのか、TVでもベンチプレスの競技が行われる。

ルールは体重の8割の重量を何回挙上できるか、というものだ。しかし、 ここで疑問が浮かぶ。この重量設定は本当に適切なのだろうか、と。

そこで本稿では、ベンチプレス競技 "8割ルール" の妥当性について論じる。

自重に定数を乗じて挙上重量 (以下, 重量)となす、との一見公平なる体を認めつつも、釈然としないものを抱かざるを得ない由を演繹的に思索してみる。

そもそも、なぜ身長よりも何よりも体重を基に重量を算出するのだろうか。

(挙上行為は物理量としては仕事量と捉えられるので重量×挙上距離となり挙上距離は腕の長さで決まり、両腕を広げるとほぼ身長になることから、 身長は決して軽視されるパラメータ [変数] ではないはずだが・・・)

概ね18回以上の挙上を前提とすると、筋力 (瞬発力) よりも筋持久力の発揮が支配的となることから、当該競技は差し詰め "大胸筋持久力と気合" を競う 競技と言えよう。

気合は脳内物質による複合 "作用" で、質量に無相関とし捨象するとして、 大胸筋持久力は筋量に相関し、筋量は体重に最も相関するならば、簡易的 に体重を基にして重量を算出するのは、あながち間違いではなかろう。

問題は, 相関はあれど比例するのか, ということだ。体脂肪率等体組成の関係で大胸筋量が体重に比例しなければ、筋持久力が体重に比例すべくもない。
となれば当然、重量は体重に比例しない、との仮説が立てられよう。   これこそまさに筆者の直感的疑念の原拠を成すものであった。

そこで、体重と重量との関係を示すデータについて検索してみると、   図1にみる『1回挙上最大重量 (1RM) 基準』が見つかった。


<図1> 男子・ベンチプレス・1回挙上最大重量 (1RM) 基準

(出典:https://strengthlevel.com/strength-standards/bench-press )

初心者はトレーニング歴1ヶ月程度、初級者は半年以上、中級者は2年以上上級者は5年以上、エリートは5年以上かつ競技経験者と定義されている。

図1は例えば、体重100kgの平均的な初心者は、1回だけなら最大71kgの 重量を挙上できる、という負荷強度基準となる。

これは学術的なものではないが、随時更新されていて、現時点では179万件ものデータに基づいているとのことで、信憑性は十分高そうだ。

ただし、1発勝負の 1RM 基準をそのまま筋持久力の資料にはできない。 そこで、競技者の実力を見積もって、25RM に換算し (25回挙上できる最大重量で、図1の重量値の半分 [50%1RM] に相当) 8割ルールと最も近い上級者のデータセット (以下、基準ルール) を図2に示す。

<図2> 8割ルールと基準ルールにおける体重と重量の関係 (男子)

両ルールは体重75kgから乖離し、実測集計値に依拠した基準ルールにおける体重と重量の関係はノンリニア(非線形)となり仮説は帰納的に立証された。

体重が75kg以上の競技者にとって、8割ルールの方が基準ルールより重い 重量設定で不利となり、更に体重が重い競技者ほど不利の度合いが増大することが見て取れる。

図2は体重が 5kg 刻みとなっているが、中間値での重量も求められるよう 算出式を考えると、2次曲線がよく近似できるので参考までに示しておく。

<基準ルール (男子)>
設定重量 (体重75kg未満)=体重×0.8(8割ルールに一致)
設定重量 (体重75kg以上)=-
0.0017×体重²+0.9733×体重3.7724

例えば、体重 108.6kg の競技者の場合、基準ルールでは 81.878248 を得て 設定重量は 82kg となる。8割ルールだと 108.6×0.8=86.88 からの 87kg となり、なんと 5kg も不利になるのだ。これでは決してフェアとは言えまい。

体重75kg以上の場合、式はいささか長いが、競技者にあらかじめ体重を申告してもらえば、主催者は表計算ソフトを用い、競技者全員の設定重量を一瞬にして算出でき、なんら支障なく競技を開始できよう。

競技や大会ともなれば、何より公平・公正を期すべきではなかろうか。

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