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シラスレビューの先駆者たち

プロローグ

georg : 『新エロイーズ』講義でシラスレビュー界に電撃参戦したオレは、その後立て続けに投稿したいくつかの長文レビューもそれぞれ一定の反響を呼び、さらには@Hazumaマイページのイチオシでも三度(黙示的言及も含めると四度!)にわたって言及されるなどして、一躍その名を知らしめた。このままいけば、レビュー界を制覇する日も近いだろう。ひっひっひ。ちょろいちょろい。
8eor8 : 調子にのるなよgeorg。
georg : はっ! 誰だお前は?
8eor8 : たかが数本レビューを書いたくらいで何をほざいているのか、この青二才が。mistunori氏を知っているか。一人だけレビュー本数が異常値を叩き出しているそうではないか。たぶん3000本ぐらい書いてるのだろう。シラス界の張本勲だ。
また、レビューといえば、Kamiyama_6hito氏がすでにシラスレビュー ノ ススメという記事を書いているな。必読だ。
georgよ。お前、いまだに「承認待ち」が少し長引いただけでどぎまぎしてるのを、オレは知ってるんだぞ。twitterでの反応が気になって「georgさん」という検索ワードでしきりにエゴサしてるのだって知ってるんだぞ。なぜ「georgさん」かと言えば、「georg」だけでは一般的な名前すぎて外国語のツイートばかり引っかかり、目当てのツイートが見つからないからだ。
georg : (赤面して沈黙)
8eor8 : ここらで一度、お前をシメてやる必要があるようだ。そこで今回は「シラスレビューの先駆者たち」と題して、名レビューを三つ紹介しよう。まだこのシラス台地が更地だった頃、これらの先駆者たちは手探りでレビューの可能性を開拓していったのだ。良いか、georg。お前はこれらの巨人の肩に乗っかった、ちっぽけな存在にすぎない。ゆめゆめ忘れるなかれ。

1. simesabaさん 「自戒も込めて、レビューではありませんし、動画の趣旨ともズレますが、視聴された方が何かしら不快な思いを残されていましたら、拙文ですが一読いただけると幸いです。・・・」

 名レビューの紹介なのに、いきなり「レビューではありません」というレビューを選んでしまった。
 この番組で一体何が起こったのか。私はこの番組を見ていないので知らない。しかし、とにかく何かが起こったのだ。そして、事件の中心にはsimesaba氏がいたのだ。
 しかし、この際そんなことはどうでもいい。このレビューではないレビューでは、カルチャーに対するsimesaba氏のアツい思いが吐露されている。私自身はマンガもそんなに読まないし、アニメもそんなに見ないし、いわゆる「サブカル」に対してそれほど思い入れはない。しかしsimesaba氏の文章を読んでいると、私の胸にもアツいものがこみ上げてくる。
 私には私なりに、アツく入れ込む対象が存在する。そしてそれは、今の世の中ではあまり流行らなくなってしまったものだったりする。だからsimesaba氏が、失われたものへの郷愁を感じたり、それを簡単に忘れてしまった人たちに対して怒りを感じたり、そしてややもすると自分もまた当時の熱を冷ましてしまったりすることに対して情けなく思う気持ちは、分かる気がする。

訳の分からない体温の低い詐欺師みたいな連中

 !!!

 本当にそうだ。そんな奴ばかりだ。私もそういう奴らが大嫌いだ!ちなみに私はシラスを通じて初めて、このカタカナの「アツい」という形容詞を知り、いまでもそれを使うときには文学的超自我との葛藤に打ち勝たなくてはならないのだが、ともかく、この「アツい」何かを忘れたら人間終わりだと思う。

2. iinchoさん「(以下、レビューとして掲載が難しければ、この前の部分だけで載せてください)・・・」

 これはすごい。
 シラスのレビューは、投稿したらすぐ掲載というのではなく、チャンネル配信者による「承認待ち」という時間が存在する。つまり、レビューには必ず配信者本人が目を通すということである。これには炎上防止などの利点がある一方で、批判的なレビューは書きにくくなるという欠点もある。
 iincho氏のレビューは、ご本人が認めるかどうかはわからないが、やはり番組に対する一つの「批判」であると私は思う。しかし、言うまでもないが、「批判」は悪質なクレームとは異なる。本人の立場を明確にし、番組との距離感を慎重に確かめたうえで発せられた言葉には、誠意がこもっている。
 よく考えてみよう。仮にここでいう「以下」の文章が削除され不掲載になったとしても、どのみち配信者にはその文章は読まれるのである。したがって、レビュー執筆者はそれが配信者の気分を害するかもしれないことを覚悟したうえで投稿したということである。もっと言えばそれは、このレビューを書くことによって自分は嫌われるかもしれないという覚悟である。

ゲンロンとシラスの、経営者もスタッフさんも、健康で楽しく長く(できれば仲良く)働いてくれるのが一番うれしい! ありがとう、シラス。ありがとう、シラス民。

 この一文を読めば分かるように、iincho氏はどこまでも気遣いの人である。このレビューも、書くべきか書かないべきか相当苦慮した末、ある種の義務感から書くことを選んだのだろう。
 またしても私はこの番組を視聴していないので、そこでどんな修羅場があったのかは諸々のレビューから想像するしかないのだが、ともあれ、iincho氏のこの決死のレビューに対して、私は拍手を送りたい気持ちである。番組概要欄を見る限り、iincho氏の思いは配信者に対して正確に伝わったようだ。めでたしめでたし。

3. zab_tonさん「イベントが終わってから2〜30分しか経ってない感覚だがもう3時間近く経ってる。・・・」

 厳密に言えば「先駆者」ではないのだが、印象に残っているので特別に選んだ。
 ゲンロンカフェが浦沢直樹の独壇場と化した言わずと知れた神回であるが、注目したいのはこのレビューの短さと、投稿までのスピード感である。本当に短いので、まずは全文紹介させてもらう。

イベントが終わってから2〜30分しか経ってない感覚だがもう3時間近く経ってる。目が覚めてしまい、眠気が来るまでと思いノートと鉛筆で3ページだけ描いた簡単な漫画。人生で初めて描いたそれを見ながら、物心ついた頃から描き続けてると言った浦沢直樹氏の表情を思い出す。何だか僕もちょっとだけ世界を変えられる気がしてくる。

 長文で説明的になりがちな私のレビューとは正反対の、朴訥とした感じのする文章だ。それが良い。
 そしてスピード感。番組が終了したのがam2:10(それ自体常軌を逸しているが)。そしてこのレビューが投稿されたのがam5:03。レビュー本文にも書かれている通り、わずか3時間足らずでのスピード投稿である。
 私だったら、たとえ同じように目が覚めて同じようにレビューを書いたとしても、とりあえずもう一度寝るだろう。とりあえず寝て、頭がはっきりした状態でもう一度推敲し、夕方ぐらいに投稿するだろう。でないと、何か的外れなことを書いたのではないかと心配で仕方ないからである。
 しかしzab_ton氏は違う。人生で初めて漫画を描いたその勢いで、そのまま初めてのレビューを書き(マイページを確認する限り、これが初投稿のはずである)、それをそのまま投稿してしまう。この潔さ!
 たぶんzab_ton氏は、良いレビューを書こうなどとは思っていない。ただ書いてみたくなって書いてみたのだろう。寝起きのせいか、simesaba氏言うところの「低体温」ではないが、低血圧気味の文章ではある。しかし、繰り返すが、それが良いのだ。思い切ったスピード投稿によって、zab_ton氏の嘘のない感情が、ここにそのまま冷凍保存されることになった。私は、燃えるようにアツい浦沢回を、それとは対照的なこの低血圧レビューとともに永久に記憶することになるだろう。

 ところで、勝手に低血圧扱いするのも失礼な気がしてきたので、誤解を避けるため、このレビューの内容の質の高さについても一言述べておこう。
 「何だか僕もちょっとだけ世界を変えられる気がしてくる」。この最後の一文が残す余韻は一体なんだろう。
 zab_ton氏は浦沢氏に感化されて舞い上がっているわけではない。なぜなら、もし世界を変えることができるとしても、それは「ちょっと」でしかないということを彼は知っているからである。しかもそれは、ただそういう「気がして」いるだけなのだ。
 しかし、これは浦沢回へのレビューとしては非常に本質的な部分を突いている。というのも、浦沢直樹のメッセージとは、世界はほんの小さな取るに足りないようなことによって良くも悪くも変わってしまうものだ、というものだったのだから。
 私だったら、たぶんここに書いたようなことを全部説明してしまう。その結果、ただクドいだけのレビューが出来上がるだろう。それを知ってか知らずか、zab_ton氏のレビューには説明がほとんどない。ぽつりぽつりとした言葉が無造作に並べられただけのような文章である。だから、どこか詩的な余韻が残っているのである。私にはこのようなレビューは書けない。

エピローグ

8eor8 : どうだった?レビューと一口に言っても、そのかたちは様々なのだ。georgにはgeorgのスタイルがあるのでそれで良いが、それが唯一ではない。お前はどこまでいっても一人の観客に過ぎない。しかし、良き観客でいることはできる。そのことを忘れず、謙虚にな。わかったか!?
georg : はい!

 (8eor8、去る。)

georg : 謙虚、義務感、批判・・・よし、オレはこれからも一生シラサーに媚びへつらい続けるぞ。



次回予告:「『観光客の哲学』から考える、レビューの極意」
お楽しみに!

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