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【書評】米田衆介「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?」

今回は米田衆介「アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?」の書評となります。全7章構成で、

第一章 「アスペルガー者」とはどんな人たちなのか
第二章 アスペルガー障害の本質
第三章 さまざまな症状とそれが生じる理由
第四章 個人差と環境による適応の違い
第五章 さまざまな不適応とその対策
第六章 アスペルガー者をどう支援するか
第七章 アスペルガー障害を生きのびるということ

という章立てになっています。大まかに分けると、第一章~第三章では、アスペルガーを持った人の具体的なエピソードの紹介と、アスペルガー障害の中核的特性・周辺的特性、そこから生じる様々な症状などが説明がされます。

次に、第四章~第五章は多くの障害特性を持ったアスペルガー者が社会生活を送るなかで起こす不適応とその対策についてです。

そして、第六章はアスペルガー支援(ソーシャルスキルトレーニングやデイケア)の実際の様子が紹介、第七章はアスペルガー者の世界の見え方についての考察となっています。

では、各章の要点を、紹介してみましょう。

第一章~第三章 アスペルガー障害の本質と諸症状

第一章はアスペルガー障害のある人たちのエピソードの紹介です。具体的には、次のような特性を持った人たちが描写されます。

・曖昧な指示を理解できない
・表面的にでも相手に合わせることができない
・ある部分に注目すると他との関係がわからなくなる
・ひとまとまりの行動や動作の学習効率が悪い

ここでは、アスペルガー障害の対人コミュニケーションの問題に加えて、仕事における作業効率(の悪さ)の問題も同様に取り上げられています。

アスペルガー症候群について扱った本の多くは、前者のコミュニケーションの問題しか話題にされないのが普通ですが、この本では、一章をはじめ全体を通して、後者の作業能力の問題もしっかりフォローされているのが参考になります。

第二章では、著者は認知心理学の知見に基づきながら、自身の「情報処理過剰選択仮説」を用いて、アスペルガー障害の本質を説明します。

情報処理過剰選択仮説とは、複数の並列的な情報処理において、特定の処理のみが優先されてしまて、他の処理が抑制されてしまうことが、アスペルガー障害の本質ではないかと考える仮説です。具体的には、以下の3つの特性で説明されます。

・シングルフォーカス特性:注意の対象が一度に一つだけ
・シングルレイヤー特性:同時・重層的な思考が苦手
・ハイコントラスト知覚特性:白か黒かという極端な感じ方・考え方

特にシングルフォーカス特性は、自閉症の世界的研究者ウタ・フリスのいうところの「弱い中枢性統合」に該当する部分だと思われます。DSM-5で言えば、同一性保持集中度・焦点づけの限定性などに関わる概念ですね。

"このシングルフォーカス特性は、自閉症やアスペルガー障害では必ず発現する特性です。いわゆる「木を見て森を見ない」特性も、部分と全体の間で柔軟に注意を切り替えられない結果であると考えられます。"
引用元:米田衆介(2011)『アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?』講談社 p.71


第三章では、アスペルガーの特性から生じる症状(困りごと)と、そうなる理由が説明されます。具体的には、「話を要約できない」「曖昧な指示が理解できない」「相手を怒らせてしまう」「ミスや失敗が何を引き起こすか分からない」といったことが取り上げられます。


第四章~第五章 アスペルガー者の社会不適応とその対策

第四章はアスペルガー障害の特性による影響で、社会参加を困難にする要素(信念、知能、環境)について論じられます。具体的には、自己の過大評価により無謀な目標を設定すること、言語性IQと動作性IQの関係性、競争的な職場はアスペルガー者には不適切である、といった事柄です。

第五章では、社会的能力や作業能力などに関する不適応への対策が述べられます。社会的能力に関しては、損得や慣習の問題として解決策を提示するというやり方、作業能力に関しては、職場で当事者が作業に迷うことのない環境設定をするというやり方が示されます。


第六章~第七章 アスペルガー者へのリハビリ、アスペルガー者にとっての他人の心

第六章は成人アスペルガーに対するリハビリテーションの一環として、SST、当事者会、就労支援、デイケアなどが紹介されます。

第七章(終章)では、アスペルガー者の最大の困難である「人の心の理解」についての考察になります。著者はアスペルガー者が人の心を理解できない理由の根本を、次の原則に求めます。

①:情報処理の過剰選択性
②:①の結果、他人の要求や意図にしたがう行動様式の未発達
③:②の結果、人の心を実感をもって共有できない世界の見え方の違い

以上が要約になります。

最後に、アスペルガー者が定型発達の人の心を理解しようとする努力について、興味深い比喩があったので紹介しておきましょう。

"たとえが悪いかもしれませんが、健康で豊かな狩猟採取生活を送っている部族に入り込もうとしている人類学者が、大地の精霊の働きについて心の底から理解しようと苦闘する姿を考えれば、だいたい似ているのではないでしょうか。"
引用元:米田衆介(2011)『アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?』講談社 p.246


こんな人にお勧め

・自分がアスペルガー障害なのかどうかを知りたい人
・周囲のアスペルガー者への対応を考えている人
・アスペルガー障害について「膝を打つような」説明が欲しい当事者




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