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モノへの愛情を巡るエッセー「数寄者」連載第ニ回「ラングリッツレザーのライダースジャケット」 by 沼尻賢治

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 今回はライダースジャケット、『Langlitz Leathers』(以下、ラングリッツ)の話をしたい。ラングリッツはアメリカ・オレゴン州ポートランドのレザージャケットのブランド……というより工房と行ったほうが正解かもしれない。なぜなら1947年の創業以来、今日においてもポートランドで1日6着という少量生産を頑なに維持している貴重なMede in USAのひとつ。愛好家の間ではキング・オブ・レザーとも称賛される特別な存在だ。

 僕がラングリッツの存在を認識したのは、1990年代の終わり、縁あってライダースジャケットの書籍制作を担当した時だった。その後、日本を飛び出し、アメリカで活躍することになるヴィンテージGeek(ギーク;下記注釈参照)のT氏初の書籍ということで、T氏の熱の入れようは半端ではなかった。当時、僕はまだ編集のヘの字も身に付けていなかったから、本当にお手伝い程度の関わり方しか出来なかった。

(注釈;英語の〝ギーク〟はオタクの意味と同時に、その道に精通し、偏愛している者の意味もある。車好きに使用する〝エンスー〟に近い感覚だ。対して一般的に〝秋葉原オタク〟といった感覚に近い〝オタク〟に相当する英語にはnerdがある。by 長谷川)

 出版社が用意した倉庫に、東京中の馴染みの古着屋からT氏が借り出したヴィンテージのライダースが集められ、一点一点を撮影した。T氏は嬉々として、そのライダースの希少性を語ってくれたが、正直、僕にはボロボロの革ジャンの山にしか見えなかった。

 出来上がった本の中にはアメリカやイギリスのヴィンテージのライダースジャケットが網羅されたが、その中でもラングリッツは異彩を放っていた。アメリカ・オレゴンに工房を構え、ベテランの職人が縫製、1日6着しか生産しない。限定生産のレアなライダース。数寄者の物欲をくすぐるワードだったが、その時はそれまでだった。

 しばらくして、僕はバイク(モーターサイクルなどと気の利いた呼び方もあるけれど、バイクということで)『HONDA Dream 50』を購入した(バイクの積もる話はいずれまた)。わけあって、ティーンの頃にバイクを乗ることがなかった。だから、この50ccの小さなバイクが初めての自分のバイクだった。

 さて、バイクに乗るようになると、忘れていた、くすぐったいワードが蘇った。そうだ、ラングリッツをオーダーしよう……甘美な心のささやきが聞こえた。


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