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【GENT'S STYLE】偉大なる旅 コロナ禍旅行記2 世界最大規模の生地展ミラノウニカ

Text Yoshimi Hasegawa

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昨年夏のイタリア旅行から再び、イタリアに入国したわけだが、基本的に全員がマスク着用をし、商店やレストラン等に入る時は消毒とグリーンパスポート(ワクチン二回目接種が6ヶ月以内のものが有効とされる)の提示が求められる。日本のような温度測定はないものの、かなり厳密にこのルールは厳守されていた。

 ブースター接種もかなり進んでおり、私の周囲のイタリア人はほぼ全員が12月にブースター接種を終えていた。ナターレ(クリスマス)の前に接種を済まして安心して家族と集まりたかったからという人が多かった。いかにも家族との生活を尊重するイタリアらしい。前回の夏の二回目接種に続き、ブースター接種を済ませていないのは、またしても私だけで、「日本は先進国のはずなのにどうしたんだ」と周囲から訊かれる言われる始末である。

 話を聞くと、家族に陽性者が出た人もいたが、ブースター接種の効果なのか、ほとんどの人が自覚症状が無いか症状が軽いらしく、陽性となったら自宅隔離をし、毎日検査をして陰性になったら隔離終了とまるでインフルエンザのような扱いだ。以前からそうした傾向はあったが、感染率が高く比較的自覚症状の低いオミクロン株の流行からさらに加速して、「罹っても仕方ない、罹ったら家にいればいい」と思っている人が大半だ。

 予防できるところまでは最大限やり、あとは罹ったら家にいれば良いというメンタリティなので、罹っても隠すこともない。

 日本の閉塞感は鎖国に近い水際対策に加え、罹ったら自らの過失となり、自己責任を問われるといったメンタル部分への影響が大きいように思う。日本国内でもこれだけ蔓延しているのだから、水際対策自体が政府の税金と個人の時間の無駄遣いのように感じる。

 ところで、今回、イタリア出張の目的のひとつはテキスタイルの展示会第34回ミラノウニカだ。通常は3日間の開催だが、今回はコロナ禍のため、アジアやアメリカからの参加者が少ないことも考慮し、2月1日、2日の2日間に短縮して開催された。

 ミラノウニカとはなにか?

 一年に二回、フィレンツェで開催されるメンズファッションの世界的な展示会ピッティ・イマジネ・ウオモは、ファッション業界でない人でもその名を聞いたことのある人は多いだろう。ピッティ・スナップと題して、この展示会に集まる人々のイメージ画像は世の中にSNSにより広く流布している。

 ピッティにはイマジネ・ウオモ(メンズウェア)に加え、ピッティ・フィラーティという展示会もあるが、これは糸とニットの展示会でテキスタイルではない。対して、ミラノウニカはデザイナーや製造業者が最新のテキスタイル(ファブリック)のコレクションをサプライヤーから直接買い付けするための展示会だ。トレンドは洋服だけでなく、まさに洋服を構成する メイン素材のテキスタイルから始まっているのだ。テキスタイル産業はイタリアの基幹産業のひとつでもある。

 ミラノウニカはテキスタイル産業の振興を目的として、通常は二月と七月の年に二回、ミラノ郊外の展示会場“Rho Fiera Milano”ロー・フィエラ・ミラノで開催されている。六万平方メートルの広大な会場はイデア・コモ、イデア・ビエラ、モーダ・イン、シャツ・アベニューの展示会を統合したテキスタイル及び素材の展示会となっている。

 イタリアでいち早くリアル展示会を再開したのもミラノウニカだった。B-Bをターゲットとし、チケットは基本的に事前申請が推奨されている。ピッティのようにブロガーやインフルエンサーといった一般客の入場がないことから、感染者が出た場合、感染経路を追跡しやすく、企業間で管理がしやすいといった理由もあったように思われる。 ちなみにミラノ・ウニカの会場に入場するには六ヶ月以内に二度目の接種を終えた陰性証明書(グリーンパスポート)と欧州規格に基づいたFFP2といわれるマスク着用が必須となっている。

 前述のようにレストランもグリーンパスポートが無いと入れないので、二度目の接種を終えていない人はほぼどこにも行くことができず、仕事もできない。

 (このマスクが素材が通常のマスクよりかたく、展示会の間1日中着用していると、顔が痛くなってくる。展示会が終わり、ディナーの時は通常のマスクに替える人が多くみられたのも無理はない。)

 テキスタイルの見本市には他にもドイツのファブリック・スタートや上海のインテーテキスタイル上海などがあるが、規模や影響力から鑑みるに、このミラノウニカとパリで開催されるプルミエール・ヴィジョンが世界最大規模のテキスタイルの展示会といえるだろう。

 影響力の大きさから日本企業も積極的に進出している。一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構、独立行政法人日本貿易振興機構主催でThe Japan Observatoryとして日本のサプライヤーの参加をサポートしているのだ。  2022年-2023年、春夏シーズンのトレンドはポストコロナを見据えた自然素材と再生可能素材といったサスティナビリティをさらに追求したもの、さらに天然素材でありながらより快適な機能性を持つものといった素材自体の機能性向上を計ったものなどが多くみられた。このように、その製品の製造工程で環境や生態系に不可は無いのかといった持続可能性(サスティナビリティ)、その原料がどこからきて、どのように作られ、製品となって消費者のもとへ届いているのかといった追跡可能性(トレサビリティ)は世界市場の製造業では不可避のものとなりつつある。

 ミラノウニカのパヴィリオンのひとつがイデアビエラである。イデアは理想、ビエラは高級毛織物の産地であるピエモンテ地方ビエラ県の州都ビエラから、周辺に世界的な毛織り物メーカーが集中しているためビエラで開かれた展示会を意味している。

 ミラノとトリノの中間に位置する人口約5万人の小都市ビエラが実はイタリアの織物産業の生産能力の約50%を担っている。ヨーロッパでは毛織り物商人(Drapers)は古来より富裕な職業であり、ビエラも例外ではない。

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