心に負荷をかける…「逆境力」を身につけるために少しだけ無理をしよう #4 悲しむ力
不登校生・中退生のための私塾、「リバースアカデミー師友塾」を主宰する大越俊夫さん。著書『悲しむ力 深く悲しまない人間は幸せになれない』は、現代人に欠けている「悲しむ力」と「レジリアンス(逆境力)」の重要性について論じた一冊です。子育てはもちろん、仕事や人間関係に悩む大人たちにも役立つであろう本書から、読みどころを抜粋します。
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「面倒だから、しよう」
さてここらで、そろそろ本書のテーマである「悲しむ力」や「レジリアントな力」をつける方法に話を進めましょう。これには、いろいろな方法がありますが、経験上、一番簡単で効果抜群なのが「負荷」をかけることです。
簡単に言えば、少々無理をしてみるということです。「うそ、反対でしょう」と思われるでしょうが、「論より証拠」、ほんとうなのです。実例をできるだけ具体的に述べます。
理屈的には、「負荷」というのは、皆さんが考えているとおりの「余計なこと」「余分なこと」「よりしんどいこと」です。
「余計なこと」は余分でしんどくて逆効果ではと思いがちですが、あにはからんや実際はそうではないのです。「余分なこと」がその人の「逆境力」をグンと強くするのです。不思議なことですがそうなのです。
「もう少し元気になったら助言に従って、そのようにしてみます」という返事をよく耳にします。「やる気になったらそうしてみます」とか、皆さんも一度や二度は、こう思ったり、この言葉を口にされたりしたことがあるでしょう。
でも、最初はそんなに“乗り気”でなくても、思い切ってその一歩を踏み出してみれば(だまされたと思って)意外や意外、ほらほんとうに元気が出てくるのです。
いま巷でよく売れている本に、『面倒だから、しよう』(幻冬舎)というシスターの渡辺和子先生(ノートルダム清心女子学園理事長)の書かれた本があります。「楽だからやってみなさい」ではなく、「しんどいからしてみなさい」と諭しているのです。
この考えが「負荷」でなくてなんでしょう。
もっとダイレクトな「負荷」擁護論があります。プロ野球界のドン的な存在である野村克也氏が、近刊『野生の教育論』(ダイヤモンド社)の「あえて厳しい環境を与え、負荷をかけよ」の項の中で、「筋力は負荷をかけなければ強くならない。心も同じで、負荷をかければかけるほど強くなるし、かけなければ弱くなる」と書いています。
そして、この考え方で野村氏は「息子の克則を一人前の社会人に育てた」と胸を張っておられます。
この二冊の本が「レジリアンス」を意識していたかどうかは知りませんが、結果として見事にそうなっているのです。
「負荷」を受け入れる人は救われる
ゴードン・オルポート博士の「永遠に達成されることのない目標を追い求め、絶えず奮闘している人にのみ救いはもたらされる」という考え方は、治癒の四段階説でいうならば、
1、自然治癒、2、医療治癒、3、レジリアント的治癒、4、社会的治癒
の四段階目の“社会的治癒”にあたります。
ウチの塾で採用しているプログラムも、ほとんどがこの“社会的治癒”にあたります。
これは、いままで述べてきた三段階目の“レジリアント的治癒”の概念を前提にするものですが、この四段階目の治癒の一つの特色は、患者に“負荷”をかけることです。
つまり、“少々無理なことをさせる”ということです。
ウチでいろいろ催すプログラムは、すべてそうなっています(私は、こういう難しい理論を自覚せずに、ある種のカンで考案したのですが……)。
オルポート博士のこのコトバは、まさに、この理にかなっていると思います。
「達成できない目標」に目を向けて努力させることは、まさに一つの“負荷”です。しかし、そのことによってわれわれは「救われる」のです。
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