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好きだった恋人のことをなぜ「ブス」だと言うの?…野宮真貴×燃え殻 #2 大人になる方法

ピチカート・ファイヴのボーカリストとして、「渋谷系」ムーブメントを巻き起こした野宮真貴さん。現在は文筆家としても活躍しており、『赤い口紅があればいい』『おしゃれはほどほどでいい』などの著作があります。『大人になる方法』は、そんな彼女が下積み時代を赤裸々に語った対談集。お相手は、小説家・エッセイストの燃え殻さんと、クレイジーケンバンドの横山剣さんです。その中から、燃え殻さんとの対話を抜粋してお届けします。

*  *  *

音楽は「タイムマシーン」

野宮 好きな音楽ほど、聴いた瞬間に、「懐かしい」ではなくて、当時の自分にタイムスリップしますよね。映画や漫画、小説に比べて、音楽はタイムマシーンとして、ストレートに作用すると思う。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』のなかで、燃え殻さんが香りのことを書いているじゃないですか。香りも記憶を呼び覚ますという点で、音楽と似ているタイムマシーン。

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燃え殻 小説を書くときに、匂いの描写は絶対に入れたかったんです。街を歩いているときに、ふと漂ってきた匂いや、ふと耳にした音楽に、記憶を引き出されてハッとする。文章のなかに、匂いやBGMを足していく作業はしました。

野宮 意図的に。

燃え殻 はい。悲しんでいるシーンで、アイドルのポップスが流れたり。

野宮 燃え殻さんの書く文章と、小西(康陽)さんが書く歌詞がちょっと重なりました。「ハッピー・サッド」や「サンキュー」、「Baby Love Child」も。

燃え殻 楽しいことと悲しいことは背中合わせという感覚ですよね。僕は、楽しいときに「このパレードはいつか終わる」って先回りして、悲しくなっちゃうんです。渋谷系とか、カフェブームとか、裏原宿とか、面白い現象が起こるたびに「終わる! 享受しなきゃ!」って思ってました。

野宮 その感覚は、燃え殻さんの文章から伝わります。

私は生まれつきの美人じゃない

燃え殻 野宮さんの本を読むと、野宮さんは自分のことを「生まれつきの美人じゃない」と書かれていてびっくりしました。

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野宮 私は逆に、燃え殻さんの本を読んで、かつてつきあっていた大好きな恋人を、「ブス」と表現することにショックを受けました(笑)。

燃え殻 それ、各方面からすげえ怒られましたし、ツイッターのトレンドに出るくらい炎上しました(苦笑)。

野宮 女性からすると、「ブス」という言葉はけっこう傷つきますよ。私も器量がよくなかったので。でも、幸運にもスタイルは意外とよかったのよね(笑)。

燃え殻 知ってます(笑)。

野宮 長所は与えてもらえた。それでも、後ろから追い越しざまに私の顔を見た男性から「チッ」と舌打ちされるなんてことは何度も経験してますから。

燃え殻 え? 本当ですか?

野宮 だから「ブス」という言葉は、なかなかのインパクトがありますよ。

燃え殻 その彼女が、自分で「私、ブスなんだよね」って言う子だったんです。今考えると、彼女は自信があったんだと思います。

野宮 きっとそうですね。本当のブスはブスって言えないものね。私も、すごく傷ついた経験があるから、自分では絶対に言えなかった。

もちろん燃え殻さんは、相手への愛しい気持ちがあるから「ブス」と書いているというのはわかるんですけど、「ブス」という言葉はやっぱりインパクトがある。大人の男性には女性をいつも褒めてほしいです(笑)。

燃え殻 はい……すみません。

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