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#1 平成ネット史 永遠のベータ版

はじめに


この本に「ログイン」してくださり、ありがとうございます。

本書は、NHK Eテレで、平成31年(2019年)正月に2夜連続で放送された特別番組『平成ネット史(仮)』と、東京・渋谷と大阪にて開催された、番組派生イベント「平成ネット史(仮)展」をもとに、書籍化にあたり大幅に追加取材を加えたものです。

日本のインターネットは、平成7年(1995年)11月に発売されたマイクロソフトのOS「ウィンドウズ95」の登場をきっかけに、私たちの日常に一気に広がりました。通信環境や回線の通信速度が上がるにつれて、文字、写真、音声、動画を駆使したサービスが生まれ、ネット特有のコミュニケーションやカルチャー、ビジネスが生まれていきました

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そして、平成20年(2008年)7月に発売されたアップルのスマートフォン「iPhone」によって、インターネット環境は劇的に進化を遂げ、いまも世界を同時に巻き込みながら発展を続けています。

番組のゲストのひとりで、評論家の宇野常寛さんは、取材のとき、「インターネットだけが、平成を語れる」と表現しました。バブル崩壊、リーマンショックなど度重なる経済的な苦境の時代である「平成」と、阪神・淡路、東日本という2度の大震災に見舞われた災害の時代である「平成」にあって、私たちが唯一、明日への夢や将来への希望を抱けた存在が「インターネット」ではなかったか、ということを言い当ててくれました。

そんな平成らしさを象徴する存在である「インターネット」をどう番組にまとめていくか。簡単に語り尽くすことができない膨大な情報をどう整理してお伝えするか。

そこで、番組では、視聴者の皆さんのインターネットにまつわるエピソードや思い出、ご意見を番組ツイッターや番組ホームページなどで募集し、皆さんと一緒に番組を作り上げていくことを心がけました。

それは、私たち制作者と同じく、そしてそれ以上に、皆さんがインターネットの生き証人であり、「自分たちで作り上げてきた」という意識が強いのではないかと感じたからです。そのため、番組タイトルも『平成ネット史(仮)』と(仮)の文字を入れました。皆さんが作ってきたネットの歴史に「完成版はない」「永遠にアップデートし続ける」という意味を込めて、です。

通常「歴史」といえば、私たちの祖先、もしくは、どこかの誰かが、過去に培ったちょっと縁遠いものであるというイメージがあります。

ところが、インターネットの歴史は、話が異なります。インターネットの歴史は現在進行形で動いているものであり、その歴史に自分たちが明らかに関わっています。「歴史上の人物」が過去の人ではなく、現在も生きていて、むしろ現役バリバリでこの世界の先端を走っています。

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本書の執筆中も世界では目まぐるしく大きな動きが起きています。新型コロナウイルスの世界的大流行です。この破壊的危機が世界を襲う中、インターネットの世界では、これまで以上にデジタルシフトやオンラインシフトが加速しています。「Zoom」や「Clubhouse」「フォートナイト」といった新たなサービスやエンタテインメントから、新たなカルチャーやムーブメントが世界同時に起こり始めているのです。

インターネットはまさに、いまを生きている私たちが、作り上げている歴史だといえるのです。

番組収録当日。スタジオに続々と出演者が集まる中、ゲストのひとり、メディアアーティストの落合陽一さんが、さりげなくつぶやいた言葉がありました。

「さあ、歴史上の人物の登場を待ちましょうか」

 その人物は、番組にも出演してくださった「平成のインターネット」を象徴する方のひとりです。その「歴史上の人物」からのメッセージで、この本の幕を開けたいと思います。
 どうぞ最後までお楽しみください。

NHK『平成ネット史(仮)』取材班を代表して
チーフ・プロデューサー 神原一光

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平成ネット史 NHK『平成ネット史(仮)』取材班

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