『リボルバー』編集者の想い
−文句なしの最高傑作、誕生。−
この度、原田マハさんの長編小説『リボルバー』を刊行いたします。
過去の代表作『楽園のカンヴァス』ではルソー、『ジヴェルニーの食卓』ではモネ、『暗幕のゲルニカ』ではピカソ。西洋の巨匠たちを自由かつ大胆に描いてきた原田さんですが、『たゆたえども沈まず』に取り組むまでは、偉大すぎ、過剰すぎてどこか敬遠していたゴッホ。しかし一たび関わってしまったら最後、その汲んでも汲みきれない魅力に取り付かれてしまったようです。
『たゆたえども沈まず』を発表してから4年、原田さんは寝ても覚めてもゴッホの魂とともにありました。現在はコロナでままなりませんが、一年の三分の一はパリに滞在。アムステルダム、アルル、サンレミとゴッホの足跡をなんども辿りました。パリからNYへ飛び、MoMAに「星月夜」を見に行ったことも。空いている時間は文献を読み耽り、気分転換にゴッホが愛したセーヌ川沿いを散策。ゴッホが生涯を終えた地、オーヴェール・シュル・オワーズでは「ゴッホが降りてきた!」とイタコ状態になったこともあったとか……。1460日、文献を読み、土地を歩き、考え、想像し続ける姿を側で見てきました。
「(ルソーもモネもピカソもゴッホも)本物の絵を見るのが本当は一番いいんです。言葉は不要です。〈アート〉を〈小説〉で表現するのは実はとても無粋なこと」と原田さんはよく言います。また、「小説世界を存分に楽しんでもらえるよう、歴史的事実とフィクションの境目がわからないように書いています。だからこそ、小説の紹介で「真実」という言葉は使ってほしくありません。実際に起きた出来事だと誤解されては困ります」というリクエストもいただきます。担当して15年、原田さんのアートへの敬意とスタンスを常に尊重してきました。けれど、『リボルバー』を読んだら、一瞬で吹っ飛んでいきました。これこそが「アート」、これこそが「小説」、これこそが「真実のゴッホとゴーギャンの物語」ですと断言したくなりました。
ちなみに……ゴッホとゴーギャンの物語と言いつつ、設定は現代です。主人公はパリの小さなオークション会社に勤める日本人女性・高遠冴。彼女の元に一丁の錆びたリボルバーが持ち込まれ、その謎を解いていくミステリーです。『たゆたえども沈まず』を読んでくださった方でも、180度異なるアプローチの本作に既視感はありません。未読でも、ゴッホやゴーギャンに興味がなくても、現代パリで奮闘する日本人女性の冴のひたむきさとたくましさ、謎解きのスリルに心を奪われること間違いありません。そして最後は一緒に唸っていただけるはずです。これこそが「真実のゴッホとゴーギャンの物語」だと。
原田さんは自著への感想をアーカイブに入れて、時折読み返し、元気をもらうそうです。もしよろしければ、AmazonやTwitter、Instagramなどで感想を教えていただけないでしょうか。コロナ禍でままらない日々をお過ごしの方がたくさんおられると思いますが、『リボルバー』をお供に、ひとときでも心安らぐ時間をお過ごしいただければ嬉しいです。
幻冬舎 第三編集局 壷井円