〈1-2〉 歓迎

その日は確か、ある日の放課後。

その教室は三年間にわたってお世話になったはずなのに、名前すらはっきり思い出せそうにない。

その日は、柴田先輩以外の有志メンバーと初めて顔合わせする日だった。
はっきり言って、めちゃくちゃ怖い。

有志メンバーについて、柴田先輩は
「例年体育祭で団長を務めた人が参加することが多いんだ。そして今年もそう。赤・青・黄・緑。全ての団の団長が参加している。あとはその友達、かな」

つまり、いわゆる体育会系男子(および女子)が自分の上司として君臨する。帰宅部としてイキっていた自分にとって、正直一番関わりたくないと思っていた人たちであり、また関わることもないだろうと思っていた。

そんな人たちがこれから向かう教室の中にいる。
そう思うと自分の不安もMAXすら飛び越えていきそうなほどだった。

一応、何かあったら柴田先輩がなんとかしてくれる、という信頼はあった。
先輩はクリエイターであり、エンターテイナーだった。
自分も偶然、中学生の時からエンタメ系の映像を作っていた経験があり、強い興味を惹かれていた。
そういった中高生は少ないだけに、先輩の話す内容や、立ち振る舞いでなんとなく、自分との共通点を見出すことができたのだった。

そんなこんなで、勇気を出して今後の「仲間」が待つ教室へ・・・。

結果から言うと、非常に歓迎された。
人数はだいたい6人ほど。自分たちを含めて8人ほどだったか。
聞くとテニス部、ハンドボール部、サッカー部、軽音部部長、などなどのかなり「濃い」メンツ。
みんな身長高くて凄かった(語彙力)・・・。
一人だけ女子がいて、彼女は確かその年の体育会、緑団の団長だったはずだ。部活は陸上部・・・だったような・・・。

メンバーは自分の上司というより、別部署のメインメンバー、もっと言えば「表舞台の人」という感じだった。
自分が属するのは「映像班」と呼ばれるもので、有志メインメンバーが出演する映像を制作するときに欠かせない存在として重宝される役回りだった。

おまけに、そんな事情すらも関係なく、先輩たちは本当にいい人だった。
ただひたすらに、「有志というコミュニティたった一人の後輩」である自分を可愛がってくれた。

もはやほとんどのやり取りは忘れてしまっているが、一つだけ覚えていることがある。
それは、自分の名前を名乗った時だ。

先輩の一人が
「え?鈴木?
・・・じゃあ福くん!福くんね!!

唖然とした。
自分の名前は、名字は比較的ありきたりだが、名前の方は珍しく、後者が話題になることが多かった。というか普通、「鈴木」が話題になる自己紹介などあるだろうか。いやない。
それが、よりにもよって自分の自己紹介から「鈴木」のみを取り出し、当時流行っていた「マルマルモリモリ」の鈴木福くんを引っ張ってきて、自分のあだ名は「福くん」になったのである。

これは、本当に最後の最後までそうで、有志メインメンバーの方々に「玄徳」と呼ばれることはなかった。
ちなみに柴田先輩は、人の名前をあまり呼ばないタイプらしく、どちらも呼ばれた記憶があまりない。少なくとも「福くん」とは言ってなかったと思う。

こうして、嬉しさと困惑が入り混じった感情の中顔合わせは終わった。
当時の不安な自分を叱り飛ばしたくなるほどに先輩たちは優しかった訳で、今後はそういったエピソードを主に思い出す文章が続くと思う。

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