見出し画像

何度も聴きたいロック名盤をご紹介 ⑩

アーティスト:エルビス・コステロ&ジ・アトラクションズ
名盤:パンチ  ザ  クロック

1983年に発表されたエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのアルバム。全英1位、全米24位を記録しました。
TKOホーンズをホーンセクションに迎えた全体的に派手なサウンドが特徴ですが、当時コステロ自身は、表面的で深みがなく
また80年代的なサウンドであるという理由で、本アルバムには批判的な見解を述べていました。
このアルバムからは「 Pills and Soap」、「 Everyday I Write the Book」、
「 Let Them All Talk」がシングルカットされました。
「 Pills and Soap」はサッチャー政権に対するプロテストソングで「エルヴィス・コステロ」ではなく「ジ・インポスター」名義でリリースされ、
イギリスのチャートで16位を獲得し、「 Everyday I Write the Book」もイギリスで28位となりスマッシュヒットしました。
70年代後半、吹き荒れるロンドン・パンク・ムーヴメントの主要バンド達と同時期にデビューしながらも、パンク勢とはまた別種のエモーショナルかつ難解な歌表現やクセの強いメロディで
人気を博したエルヴィス・コステロであるが、パブ・ロック出身ということもあり、そもそも過去の音楽に対する造詣が深かった。
このアルバムは、コステロのキャリア前半の中でピークであり、ポップソング満載のアルバムである。

  1. "Let Them All Talk"
    このアルバムにおいて大々的にフィーチャーされているTKO Hornsがリードする、ブラス・セクションを前面に押し出したナンバー。アルバム一発目の景気づけとしては最適であると思います。
    ある意味、完璧なポップ・ソングとも言える。

  2. "Everyday I Write The Book"
    PVのコミカルさが話題となってチャートで健闘した。イギリスの映像コンテンツは皮肉と社会風刺と自虐にまみれた作品が多いのが特徴ですね。
    こちらもサウンドのカラフルさを狙うため、珍しく女性コーラスを起用し、終盤のヴァ―スなど明らかにCostelloのヴォーカルを喰ってしまっています。

  3. "The Greatest Thing"
    通常の8ビートと違う変則リズムが印象的で、こちらもTKO Horns全面参加です。ここからアップテンポのナンバーを続くがアルバム全体の彩りとしては、ここに入れて正解ですね。

  4. "The Element Within Her"
    ミドル・テンポのポップ・ソングでありながら、どこか憂いが感じられるのは、BeatlesっぽいCostelloの多重ヴォーカルの力が大きい。

  5. "Love Went Mad"
    こちらもミドル・テンポの軽くて聴きやすい、やはりBeatlesテイストの濃いポップ・ソングです。
    ここまでサウンドの軽さばかり伝えているけど、Costelloの場合、英国人気質に満ちた、皮肉と自虐を交えたダブル・ミーニング多用の歌詞もまた、魅力の一つです。
    この曲も自虐に満ちて捻じれた恋愛観をテーマとしているのだが、そのにじみ出るドメスティックさが、自国での安定した人気なのでしょうか。

  6. "ShipBuilding"
    A面ラスト、ここでガラリとサウンドのテイストを変えてきます。当時、イギリスの政治状況においては最重要課題だったフォークランド紛争、それに伴う造船所に残された家族の悲哀をテーマとしており、当時Costello自身、「今まで書いた中で最高の歌詞」と自画自賛しています。
    悲惨な状況をウェットにならず、シニカルに淡々と描写した詞とメロディ、そしてシンプルなサウンドとが相乗効果として、独自の世界観を構築しています。
    このトラックに参加しているChet Bakerのトランペットの響きについては、よく語られていますが、このサウンドの柱である、Steve Nieveのピアノも評価したいです。
    SteveもCostello同様、この頃はまだ30代だが、この表現力の凄みは半端ない。

  7. "TKO (Boxing Day)"
    しんみり締めたA面から一転、B面は再びTKO Horns再登場、1.と同じようなサウンド・コンセプトであり、入れ替えても誰も気づかないんじゃないか、とまで思ってしまうほどです。

  8. "Charm School"
    ミドル・テンポのナンバーがうまくなっている。それは同時にAttractionsの成長の証でしょうか。

  9. "The Invisible Man"
    ちょっと控えめにTKO Hornsが参加しています。これだけ印象が強いのに、まったくソウル臭さを感じさせないのも珍しいかも。

  10. "Mouth Almighty"
    サウンドのトータリティを重視した音作り、と言えばそれまでだが、B面はプロデューサー主導のサウンド・デザインであり、これでもかというぐらいのポップソングの連続である。

  11. "King Of Thieves"
    ストリングス導入によって、ドラマティックさを入れたナンバーです。

  12. " Pills And Soap"
    曲調がガラッと変わって、シリアスさを強調したナンバーです。当時のサッチャー政権をあからさまに批判した、昔で言うプロテスト・ソングでアルバム・コンセプトとはかなり乖離した曲です。
    その政治的な内容にもかかわらず、UK16位と好成績を記録しています。そういった経緯があったからこそ、アルバム収録されたのでしょうが、こういった堅苦しい曲がヒット・チャートに並んでしまうことから、当時のイギリスの政治・社会状況の深刻さが窺えます。

  13. " The World And His Wife"
    またまた一転して、最後は大団円、本編は12.で終わりですが、これだけアンコールのような扱いの、何だか冗談みたいな曲。日本では名邦題『コステロ音頭』として有名な、とにかく楽しくて踊りたくなるナンバーでリズムは盆踊りそのものです。
    しかし、何故かここでのCostelloはアルバム中で、最も気合の入ったヴォーカルが聴ける曲でもあります。

以上が今回のアルバム評となります。ロック入門の一助になればと思います。ご参考になればうれしいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?