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『青野くんに触りたいから死にたい』最新話までの感想

椎名うみ『青野くんに触りたいから死にたい』(講談社・アフタヌーン)を最新62話まで読んだ。

つらい、

単行本10巻から始まった青野くんの過去編だが、青野くんが育った環境のむごさが、私たち読者や優里ちゃんが見てきた、あのやさしい表情をする青野くんを作り上げたのだということが切ない。

青野くんのお母さんも、優里ちゃんと同じく一重で素朴な顔立ちなところとか、椎名先生はシンプルで綺麗な線を描くから、少しの機敏も逃さないくらい感情が伝わってきて苦しい。

青野くんのお母さんは以前から登場していた悪霊としての姿よりも、人間として、青野くんたちのお母さんとして表情が描かれた方がより恐ろしい。
青野くんのお母さんの、子ども大人的な性格や不安定さには元来のものがあるとは思うが、最愛の夫を亡くし二人の子供を一人で育てなくてはならない苦労や、母親というしがらみ、男に性欲処理の相手として愚弄される姿には同情の気持ちを抱く。しかし青野くんや弟・鉄平が子どもであるからになおさら逃れられない苦しみの中にいると思うと、四つ首様や黒青野くんよりも恐ろしくおぞましいのがこの母親であるように思える。

宇佐見りんの『くるまの娘』において、他人から見たら福祉や警察の介入が必要な「機能不全」な家族でも、子が親を見捨てられない、第三者の冷静な視点では説明できない絆が親子の間に良い意味でも悪い意味でも存在しているのだということが提示されているが、青野くんの場合もそうだったのではないだろうか。

11巻最後の「そうして2人きりになった」は、現在軸の優里ちゃんと青野くんだけでなく、弟を祖父母に預けた後に幼い青野くんとお母さんの2人きりの生活が始まったことを表している。しかしその後のふたりの結末を思うと、何もできなくて仕方がなかったとは到底思えないのである。

「健全」な家庭で育った藤野くんが発する言葉は、普通でいられない人たちをときに傷つけるけれど、わかってもらえない苦しみまでまるごと肯定してくれる優里ちゃんが、青野くんだけでなく美桜ちゃんや大翔くんにとっての救いなんだろうな。



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