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ビジネス法務・2024年7月号

ビジネス法務・2024年7月号が発刊されたので興味深かった記事をいくつか紹介します。

【特集1】各法令における個人情報保護法のエッセンス

2024年7月号では、「各法令における個人情報保護法のエッセンス」という特集で、民法・消費者関連法・会社法・労働法・競争法・刑事法というそれぞれの法分野における個人情報保護法の関連性が解説されています。

特に消費者向けにITサービスを提供する企業にとっては、個人情報保護法に則った個人情報の取扱いは必要不可欠です。

もっとも、ビジネスに適用される法律は個人情報保護法だけではなく、様々な法律を横断的に検討するスキルが求められることから、今回の特集は、企業法務に携わる際に個人情報保護法と関連する法律を整理するのに役立つものでした。

民法と個人情報保護法の関係

民法は、私人間(個人・法人)の社会生活に一般的に適用される原則ルールを定めた法律です。

歴史的に「ヒト」(債権)「モノ」(物権)「カネ」(契約)を対象として発展してきた規律と言えます。

そのため、無体物である個人「情報」は、伝統的な民法が想定していた概念ではありません。

このように比較的新しい概念である「個人情報」が、民法との関係でどのような取扱いを受けるのか、という点は教科書にも詳しく書かれていないため、今回の記事は興味深かったです。

消費者関連法と個人情報保護法の関係

消費者関連法と個人情報保護法は、事業者に対して弱い立場にある「個人」を守るために立法された法律であるという点で共通項を有しています。

消費者関連法には消費者契約法をはじめ、特定商取引法、消費者裁判手続特例法等多岐にわたりますが、個人情報保護法とこれらの法律の関係を理解することは、消費者を真に保護するという点で非常に重要です。

昨今では、SNSの拡散力や高まる消費者意識のもと、消費者を軽視した企業のレピュテーションが一瞬にして崩れてしまう事例も散見されます。
法務部員としては、消費者に加え自社を守るという観点からも、消費者関連法と個人情報保護法のコンプライアンスは万全としたいところです。

会社法と個人情報保護法の関係

今回の特集で個人的に最も学ぶことが多かったのが、会社法と個人情報保護法の関係です。

株主総会のシーズン(6月)が近くなり準備に追われている法務部も多いと思いますが、多様な個人株主が想定される上場企業では、株主管理や株主総会の運営において個人情報保護法に則った慎重な業務が求められます。

さらに、個人情報保護法の求める管理体制の不備は、経営リスクを招来するとともに取締役等の法的責任にもつながることになります。

企業法務に携わる者として最もよく触れることになる会社法と個人情報保護法の関係を整理するのに今回の特集はお勧めです。

【特集2】契約書レビュートレーニング

契約書の作成・レビューは法務部員として最も基本的かつ重要な業務の一つです。

特集2では、「契約書レビュートレーニング」として、業務委託契約書・秘密保持契約書・取引基本契約書・販売店契約書・人材紹介契約書といった企業法務においてよく目にする契約書の典型的な契約条項についてのレビューポイントが解説されています。
契約書を初めて目にする企業法務の初心者にとってはじめの一歩として役立つ特集です(私も部下の法務部員にこの特集を読んで勉強するように薦めました)。

私の経験上、契約書のレビューにおいては、契約書の一つひとつの条項を丁寧にチェックする「ミクロ」の視点と、ビジネス全体の観点から契約書をレビューする「マクロ」の視点が重要だと考えています。
後者については、具体的に以下のような観点をもって契約書をレビューするように心がけています。

  • ビジネス上その契約から自社が得るべきものは何か?(契約書は自社が最終的に得たいビジネス上の利益を確保できているか)

  • その契約は経営上どのように位置づけられているか?

  • 契約交渉にあたって契約相手とのパワーバランスは?これまでの取引実績はあるか、それとも初めての取引相手か?

  • 自社と契約相手の不履行リスクは現実的にどの程度あるか?

  • 時間をかけて契約条項を交渉できるか、取引開始を優先させなければならないか?(ビジネスはスピードが命。取引の開始が重要な意味を持つなら必要最低限のチェックで取引開始を優先させるという選択肢もありうる)

契約書における条項一つひとつを丹念にチェックすることはもちろん重要ですが、「木を見て森を見ず」の状態にならないように注意しなければなりません。
なぜなら、契約書はビジネス(取引)を法律的なルールとして書面化したものであり、契約書を構成するビジネスそのものを「マクロ」の視点から理解した上でなければ、契約書を深い意味でチェックすることはできないからです。

契約書のレビューをする際には、今回の特集で学ぶことができる「ミクロ」の視点だけでなく、「マクロ」の視点も忘れないようにしたいものです。

【新連載】労務コンプライアンス最前線「第1回 近時の法改正状況と2024年問題」

労務コンプライアンス最前線として、「近時の各種労働関係法令等の成立・改正の状況や社会状況の変化をふまえたうえで、企業としてどのような対応が求められるかについて解説」する新連載が開始されました。

労働法コンプライアンスは企業経営において守らなければならないポイントです。
例えばIPOを目指す会社は、打刻や未払い残業代の有無といった労働法上の論点は厳しくチェックされますし、公開企業でなくとも、労働法の不遵守は労使紛争リスクを増大させることとなります。
特に、労働判例は当事者となる企業名が判例名称に付されるため(例えば「トヨタ自動車事件」など)、労使紛争が民事裁判となった場合には不名誉な記録が後に残り続けることになります。

労働法は頻繁に法改正がなされ、情報のアップデートを積極的にしていかなければならない分野の一つであるため、この新連載は、最新の労働法規制を学ぶために役立つものとなりそうです。

まとめ

2024年7月号のビジネス法務では、今回取り上げた記事以外にも、「株主総会準備・運営におけるダイバーシティー障がい者、外国人、LGBTQをめぐる視点」という多くの企業が準備に追われている株主総会に関するトピックや、「責任追及を見据えた従業員不正の対処法 【最終回】業務外での犯罪行為」といった不慮の従業員トラブルへの実践的な対処法といった、企業法務パーソンにとって役に立つ記事で構成されていて参考になるものでした。

日々の仕事をこなしながら最新の知識を身に着けるのは大変ですが、ビジネス法務では個人情報保護法からM&Aまで幅広いトピックがカバーされています。

忙しい法務パーソンこそ、毎月のビジネス法務で最新の法律論点をアップデート習慣化することをお勧めします。


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