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ビジネス法務・2024年4月号

ビジネス法務・2024年4月号が発刊されました。
この記事では、IT企業の法務部員として、いくつか気になった記事を紹介します。

【特集1】独禁法・競争法の最重要テーマ20

独禁法の下でこれまで法執行の対象となりやすかったのは、大規模小売業をはじめとする伝統的なビジネスです。
もっとも、最近では、「食べログ事件」において独禁法違反が争点とされるなど、IT企業においても独禁法コンプライアンスは重要な法分野となっています。

この記事のサブタイトルにもある、「苦手意識を克服!」というのは、IT法務でも独禁法・競争法は重要な法律である一方、なかなか時間をとって勉強する機会がないという意味で言い得て妙だと感じました。

今回の特集「独禁法・競争法の最重要テーマ20」は独禁法の最新論点を抑えるのに有益な情報が盛りだくさんでした。

例えば、「デジタル分野におけるプラットフォーム規制」の記事では、EUにおけるデジタル市場法(Digital Markets Act:DMA)が紹介されています。DMAは、巨大プラットフォーム事業者を「ゲートキーパー」として指定し、プラットフォームにおける自社サービス・商品の優遇やアプリ内の課金方法の制限といった様々な義務を課すものです。
TikTokを運営するBytedance等は、「ゲートキーパー」指定に対して異議を申し立ましたが、EUの裁判所(EU General Court)から棄却される決定を受けるニュースがちょうど2024年2月に出されています。

加えて、この特集では、フリーランス新法、ステマ規制といった論点についても取り上げられており、現状の独禁法・競争法をつかむのに役立つ特集となっています。

【Lawの論点】「フェアユース」と生成AIをめぐる著作権法制度の検討

データの著作権、UI/UXを知的財産権としていかに守るか、そして、AIの著作物性をどう考えるか、といった論点のように、IT企業の法務においては、著作権法に関する正確な理解が不可欠です。

特に、生成AIサービスが爆発的に普及している現代においては、生成AIの利用において著作権法の検討をしなければならない場面等に数多く直面します。

この点、2023年の文化庁のセミナーにおいては、情報解析を目的した著作物の利用は、原則として適法であるとされました。

さらに、直近において文化庁が編纂した「AIと著作権に関する考え方(素案)」に関する意見募集が実施されるなど、議論は活発化しています。

しかし、この記事では、著作権30条の4の解釈を深く掘り下げ、生成AIの利用における日本の現行・著作権法の解釈と限界が論じられています。
つまり、文化庁が主張する通り、著作権法30条の4に基づき生成AIの利用においては著作権侵害にならないとは限らないことが丁寧に解説されています。

人間により創作された絵画や書籍といった伝統的な著作物の保護を目的として発展してきた旧来の著作権法が、生成AIという新たな技術との衝突に対して難しい対応を迫られていることが改めて分かります。

一方で、フェアユース制度を採用するコモンローの国々の著作権法のほうが、生成AIといった新たな制度への対応に関しては優れているようです。

この点で、わが国が立法を含めて今後どのような対応をしていくかを注視することが、IT企業の法務においても重要になるのではないでしょうか。

営業秘密をどのように保護するか

2024年4月号のビジネス法務では、「従業員の不正から営業秘密を守る」というテーマでいくつかの記事が目立ちました。

特集1において「営業秘密の持出し」が独禁法・競争法の観点から、また、新連載「不正調査実務とフォレンジック」も従業員の情報持ち出しをはじめとする不正をいかに調査するかという観点から、実務解説「内部者による企業情報の持出しに関する最新実務対応」では関連する法規制の横断的な解説がなされており、連載「責任追及を見据えた従業員不正の対処法」第4回でも「営業秘密の侵害」が取り上げられていました。

IT企業における重要な資産のひとつである営業秘密に最も容易にアクセスできるのは従業員です。
そして、営業秘密の「情報」という特性上、従業員の不正な持出しによって一度漏洩してしまうと、その証明も被害の回復も非常に困難であるという特徴があります。

自社の営業秘密の保護と漏洩の予防ができているか、そして、万が一のトラブルが起きた場合の対策は十分かという点を見直すために、これらの記事は非常に役立つものでした。

まとめ

ここで取り上げたトピックのほかにも、【特集2】2023重要判例まとめ・前編は昨年の重要判例がとりあげられており、大変参考になりました。

日々の仕事をこなしながら最新の知識を身に着けるのは大変ですが、ビジネス法務は、AIと法律上の論点から最新判例まで幅広いトピックをカバーしています。
忙しい法務パーソンこそ、毎月のビジネス法務で最新の法律論点をアップデート習慣化することをお勧めします。


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