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異形者達の備忘録-30

欠けら

私はユリ、女子高生です。夏休みは、被災地でボランティアです。作業は、瓦礫の整理だ。皆で丹念に、宝探しです。瓦礫には、被災者の方達の大切な思い出が紛れています。欠けらでも、切れ端でも全部拾って洗います。

昼食後、瓦礫を運んできた自衛隊の方が、海岸線を見においで、5人トラックに乗せられるよ、と言ってくれた。ジャンケンをして勝った私達が乗せてもらいました。施設を出てすぐに、『自衛隊は帰れ』と言う横断幕を掲げる理解不能の団体が騒いでいた。戦争反対!とか軍靴の音が聞こえる!とか喚いているのだ。しかも走行の邪魔までする。腹が立ったが、自衛隊の人が、道を開けてください、危ないですよ、進みます。等と穏やかに話し、静かに進むので、大人しくしていた。が、5人共思いっきり睨んでやったけどね、

海岸に着くと、長く続く砂浜と水平線のダイナミックな視界に、感動した。私たちが、キラキラ光る海を見ていたら、地元の消防隊の人がやって来て、「ボランティアありがとうね」と頭を下げられた。私達も慌てて頭を下げた。「綺麗な海岸でしょう?でもね、ここには沢山家があったし、暮らしもあったんですよ、それが一瞬でノッペラボウになった。何も残っちゃいません、自衛隊の方が、水深ギリギリまで探して下さって、また先日は、あなた方が見つけてくれた息子の運動会の写真が、ねぇ、息子は今、ここに居ます」と言って、パスケースに挟んだ敗れた写真を見せてくれた。「見つけてくれて、本当にありがとうございます」ニッコリ微笑んで作業に戻って行かれた。強いなあ、なんて話し合っていたら、「3時間ぐらいで、トラックが出るからね」と声がかかった。でも私たちは話し合って、たった4キロで一本道だし、走って帰ろうよ、すぐ作業初めようよ、と決めた。それで「おじさーん! 走って帰って作業の続きするねー!」と言ったら、「おう! 頼んだよ、気をつけてなー」と言われた。

手を振って、走り出した私達は、気付けば全力で疾走していた。急げ急げと

汗まみれで着くと、ワンゲル部顧問の先生が、あれっどうしたんだお前達、と言うので、海岸線がノッペラボウだったこと、少しでも多くの遺品を見つけ出したいこと等言いながら、5人とも泣いてしまった。

夕方、瓦礫を乗せた自衛隊トラックが到着すると、またしても『自衛隊は帰れ』の横断幕を掲げるヤカラが湧いて出た。自衛隊の人にギャンギャン喚く

その時、同級生のヨシオが飛び出して行った。止めようと私達も飛び出した。結果、活動家の集団とワンゲル部15人が対峙する形となった。活動家の女性が「子供は引っ込んでなさい」と怒鳴った。被せるようにしてヨシオが「ああ子供だよ! 俺たちは高校生ボランティアだ。あんた達は、良い子をいじめに来たんだよ、ネットで拡散してやるからな」すかさず京子がスマホを向けた。私も言っちゃった。「自衛隊は、災害の最前線に居て、負けそうになっている人を守ってくれるんだよ、お前達こそ帰れ!クズ!」言いながら涙が出て、恥ずかしかったけど、友達も皆んな泣いてた。活動家も負けじとスマホを向けて来た。いつも大人しい幸子が「撮影しなさいよ!泣いている高校生ボランティアを撮影しているのを、撮影して拡散してやる!」泣いて抗議する高校生に押されて、活動家は撤収していきました。その際、慌てたのか先頭の女性がうっかり落としたスマホ、私もうっかり踏んじゃいました。「ウワッ!ごめんなさい、弁償します、直して返します、」彼女は「いいから、そのまま捨てて良いから!」と怒鳴りながら仲間に引きずられて行ってしまった。止めに入ろうとする大人達を、私たちの顧問がホールドしていました。

真夜中ごろ、私はある悪巧みを実行するために、1人 テントの隅っこで、衝立の裏に行った。いつも持ってるノートパソコンを開いた。例の活動家のSIMカードを読み込むために、アレッ パソコンが既に起動している。画面には例の活動家達が、暗い森でランタンを灯して集まっている。先頭にいた女性が、ちょっとこれ借りるわよ、トイレ行ってくるわ、と小さな明かりを持って、使用禁止のトイレに入って行った。用を済ませ個室の戸を開けると、目の前は海中であった。ヒッと小さな声が出た。そっと手を触れると、濡れた。戸を閉めて頭を抱えた。するとバンっと、戸が空いてしまい、水中から太い腕が伸びて来た。逃げ場は無い、腕を掴まれて水中に引っ張り込まれた。もうダメだ。と思った瞬間「早くしろってば、撤収するぞ」と言う仲間の声が聞こえた。そこは外の暗闇だった。

画面が戻り、私はカード内のデータを全部コピーした。

翌日、見回りに来た市役所の女性に、皆んなで昨日の出来事を話し、落とし物のスマホを渡した。「踏んじゃったし、来たら返そうと思ったけど、怖いから」と言っておいた。彼女は「後はこちらに任せて」と、受け取ってくれた。なぜかビニールの袋に入れて、どこかに電話をしていた。何でコピーしたか! 保険ですよ、ホケン!

朝ごはんは、納豆かけごはんだった。全員おかわりをした。勿論先生もだよ、そして、瓦礫の山に食らいついた。見つけてやる!

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