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ラスト・ダンスその1

あらすじ
寄らば大樹の陰で、意識した人、寄ってみたら、その大樹に心惹かれてしまう、一緒に居られれば良い筈なのに、クルクルと踊る相手は別の人、それで良い筈なのに翻弄される心、やがて来たラストダンスの時間、もうフロアには誰もいないのに、音楽は鳴り止まない、そんな恋の物語。

決意

俺は中学1年生の時に家出をした。決して帰らないと覚悟を決めての家出だった。小学校から続く陰湿ないじめが原因だ。中学生になってエスカレートした。俺は別区角の中学校へ行きたいと両親に頼んでみたが、聞いてもらえなかった。同じメンバーによるいじめは継続されてしまい、学校で起こる全ての悪事、その嫌疑が俺にかかった。先生も、家族も信じてくれない中で、限界になってしまった。

色々詰め込んだリュックを担ぎ家をそっと出たのは、深夜0時過ぎ、最終列車に乗り込んだ。そしてすぐ後悔した。乗客は俺1人、やっぱり降りようと思っていると、タタタタタ軽快な足音で1人が、階段近くの後方車両に乗り込んで来た。すぐドアが閉まり、発車した。どうしよう、取り敢えず終点まで乗って、そして朝になったら、仕事を探そう・・・・無理だよ!・・涙が止まらないよ、せめて誰にも目撃されない事が救いだった。タオルで顔を覆って泣いていると、タッタッタッタと後部車両から近付く足音が、さっきの奴だ嫌だな、どうしよう、俺、こんな所で酔っ払いに絡まれて、死んじゃうのかな?と思って、タオルの中で声を出さずに泣いていると、頭の上から「沢松、泣くな」と声がした。目の前に同じクラスの田中義雄がいた。彼は空手の大会にそなえて、走り込みをしていて、俺が大荷物を持ち、駅に入っていくのを見つけ、慌てて追いかけて来たと言った。「何があったんだよ」と、ドカッと隣に座り込む、反動でボンっと浮かぶ自分が悔しい、タオルで嗚咽を隠しながら、ポツポツと話した。

田舎の1駅は長い、次の駅に着くまでに、何とか家出に至る説明を終えた。田中の「全部のいじめから守ってやる。だから帰ろう、」に説得され、俺の一大決心は潰えた。俺たちが、改札を出ると駅は消灯された。真っ暗なロータリーで、俺のリュックを背負い「さあ歩くぞ、」と言う田中に、タクシー乗り場の公衆電話を取り「タクシーで行こうよ、俺、金あるからさ」と言うと、彼は小さく「ワアッ カッケー」と言った。タクシーの中で、何度も守ってやると言われ、すっっかり目が腫れた俺も、少しだけ前を向ける様な気がした。田中の手を借りて、2階の窓から、家族に気付かれない様に、帰る事ができた。

翌日から、田中は本当に助けてくれた。いつものグループが、早速俺に目を付け、「あれー!沢松!目が腫れちゃってますねぇ、どうしたのかなー」と言って取り囲んだ時、スッと側にきて、「おぅ! 沢松、ン!どした?」と俺の肩に手を置く、それだけで男子は、おはよう!なんて言って散って行く、面倒なのは女子達だった。「えーっ!やだーぁ。沢松君って、田中君と親しいんだ。へー」なんて言うし、声も1オクターブ高くなってる。田中は「うん、俺たち親友だよ、沢松は俺の相棒なんだ」と言い、俺は感動した。続けて「沢松に聞いたんだけど、栄子ちゃんお金取られたんだって?」「ああ、あれね、やだ、私の勘違いだったの、それを、沢松に言おうと思ってさ」クッとなる俺、「それよりさぁ、田中君って身長どれくらいあるの?」「えっ、192センチかな?」「凄―い!かっこいい」見れば田中は赤くなっている。

田中は強い、田中は良いやつだ、そして田中は、女に弱い!凄く弱いんじゃ無いかな、しかし、以来いじめはピタリと止んだ。

次回、団扇(うちわ)につづく



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