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ラスト・ダンスその3

修学旅行-告白

学年が変わって、俺たちは、ヨシオ・ツヨシと呼び合っている。ヨシオは、黒帯を取得し、空手部の部長になった。在学中に県大会優勝を目指して連日空手三昧だ。いじめが無くなった俺は、奨学金獲得に向けてそれなりに頑張っていた。行動に接点がなくなった俺達だったが、昼食時になるとヨシオが、売店のパンを入れた袋を投げてくる。「ツヨシー、餌だよー」「オー!サンキュなー」と受け取る。多少の期待感で中を見る。数はいつも5個、多いよ!と言っていたが、近頃はペロッと無くなる不思議! 定番のメロンパンと新種の惣菜パンだ。ヨシオは2時限目の終わりに早弁をする。そして昼チャイムと同時にダッシュで行って、パンを買い込むのだ。

前に、パンに埋もれてモグモグやってるヨシオの横で、きなこコッペをカジっていたら、へーそれ好きなの?って聞かれて、いつもこれしか取れないんだよ、って言ったのさ、そしたら「明日から、買って来てやる、まかせろ!」って、金も受け取ってくれない、ヨシオがそのために、父親の道場(彼の父親は空手道場をやっている)でバイトをしてたことを後から知った。俺は人に同情される事が嫌いだ。俺にだって小ちゃいプライドはある。でもまあ、ヨシオは別だ。俺がレジ袋をキャッチすると、彼はデカイ方の袋を抱えて体育館に走って行く、惣菜パンを食べていると、大人しそうな女子が来て、「田中君にパン貰ってるの?良いなあー」「あ、弁当持ってないの?」「エヘッ、さっき食べ終わった」「じゃあ、あげないよ!アレッ、栄子だよね?誰かと思ったよ」目の前に居るのは、陰湿いじめっ子の栄子だ。変貌している。「うん、黒髪に戻して、化粧止めたんだ」だってさ、女って怖いなぁ、別人だぜ!「田中君ってさあ、凄くカッコイイよね、この前台風が来たじゃん、あの朝見たんだよ、朝稽古かと思ったらさ、黄色い点字ブロックの上や周りの障害物を1人で除去してたの、駅の方からズーッとだよ、思い出したらさ、雪の日も、落ち葉が凄い日もやってたよ、1人でやってた。カッコイイよね」感動してたら、「ねえ、ヒョロ松!田中君ってさ、好きな娘居るのかなあ?」「知らん!俺は沢松だ!」「エヘヘ、デザートモーライ!」メロンパンが消えた。変わってネエ、アイツ、根性が腐ってる。体育館の方から、ドォリャー!とヨシオの気合が響く、

体育祭が終わり、修学旅行の時が迫った。厄介者の俺の授業料、修学旅行の積み立て金、それらを全部やってくれた両親に対して、本気で感謝出来る様になっていた。

旅行先は京都だった。二日目は自由行動だ。珍しくヨシオが顔を出さない、そういえば、運動部の連中が必勝祈願に行くと言っていたなあと思い、俺も大願成就のお守りでも手に入れようと、歩き回った。やっと手に入れて歩いていると、正面から栄子がフラフラと歩いて来る。元気無いなあ「おい、迷子か?」と、からかい半分に声をかけると、急に号泣!ダーッと涙を流し、驚いて固まる俺に、「バカ、ヒョロ松!」と叫んで、全力疾走で消えて行った。怖っ、沢松だってのに、ブツブツ言いながら歩き出すと、綺麗な川と、河川敷に座る田中義雄が居た。ヨシオらしくない姿に、ちょっと違和感を覚えながら、「おぉ、ヨシオ、お守り買っちゃったよ、お前も必勝祈願の・・・」何と言う事だ!泣いてる?気のせいか? イヤちょっと泣いてる。思わずティッシュを差し出すと。豪快な音を立てて鼻をかんだ。ティッシュを2つ使い切り、「ありがとう、スッキリした」俺が袋を出してゴミの始末をしていると、「初恋・告白・撃沈でスリーアウトチェンジだったよ」「栄子の事?」と聞いたら、「エ?弓道部のユリさんだよ、おにぎりの人さ」あー、そっちかと思い出した。栄子はその告白を見ちゃった分けか、「で? 何でお前が振られるの?俺は納得いかないよ」「お前い良いやつだね、彼女、部活のコーチと付き合ってるんだって、将来結婚するんだって、アハハ撃沈!」「あのコーチなら見たことあるよ、ヨシオの方が何倍も良い男だよ!」ヨシオはカラカラと笑い、「ツヨシ何でお前、男なの? ヨシッ! 何か食おう、必勝祈願のお守りもゲットするぜ」

そして、俺達は京都で、迷子になった。歩き疲れへとへとになり、やっと交番を見つけた!! すみませーん、迷子になっちゃって、ニコニコと近づいて来た警察官は、先生も一緒に? 京都は慣れないと分かりづらいからなあ〜、俺が、いえ、僕等同級生です。と生徒手帳を見せた。「いやー君デカイなあ!」赤くなって気持ちだけ小さくなるヨシオがちょっと可愛く見えた。

次回ラスト・ダンスその4

分かれ道につづく


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