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覚めない夢

夢から覚めるための刺激を探していた。動くのは目だけ、夢の視界には一面にネムの木が群生している。淡い紫の丸い花が咲いている。夢の中では、前方から何か恐ろしいものが来るのが分かっている。ネムの木の枝がゆっくりお辞儀を始める。それが幅のある道を描いて此方に迫る。ネムの木に、触れている物の実態は見えない、もう手の届くところにいる。その時、右肘がビクッと動き、半覚醒した。目の前に展開するのは暗闇、ホットしたのも束の間で、再び眠りの底に落に引きずり込まれるのだ。

何処かから、微かに聞こえる薄っぺらいジンタは、商店街のセールかな?チンドン屋を追いかけてビラを貰う、子供達の声も、遠くに聞こえる。セピア色に薫る分厚いカーテンが揺れると、隠れていた、幼い娘からの始めてのプレゼント、粘土造りの灰皿のカラフルな事!手探りで探すが、タバコの無い事で、ああ! これも夢かと思い知る。夢の中で目を閉じて深く眠ろうとした。

目の前に光があって、ふと目覚めると、スリープ状態のパソコンがあり、ああ!うたた寝していたのかと、ボードに触れると何かの帳票が表示されている。入力ポインタのところにゼロを入れて見ると、部屋全体がブラックアウトした。停電か?それともこれも夢の続きか?試しに、腕を動かして見ると、目が空いた。

ハーッ!やっと抜け出せた。パジャマのまま居間へ行くと、老妻が暖かい緑茶を差し出して来る。ああ旨いなあ、と言うと、妻は笑って、そうでしょう、さあ!これ飲んだら、行きましょうね、と言った。そうだな、と答えた。

夕日が差し込む病院の一室、若い医者が「午後5時55分、ご臨終です」と遺族に伝えた。小さな孫を抱いた娘が、夫に「お父さん、お母さんに会えるよね?」と聞くと、夫は「そうだな」と答えた。

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