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渕に住むー赤いイワナ-4

第4章 夏休み合宿中止

ある土曜日早朝、山の祠の祭事があるからと、ナツを先頭にイッチの親戚の神主さんとチョット不気味な祠に向かった。鬱蒼と茂る高い木に囲まれてかなり暗い山奥、祠のあたりだけ差し込む光で明るい、いかにもご利益ありそうな、ありがたい祠に手を合わせ夏合宿の無事を祈って、祠周辺の大掃除をして、お供物を備え、また手を合わせた。神主さんに挨拶し、登って来る朝日にウキウキで、俺らの教室に帰った。昼食用のカレーの準備をしていると、いつの間にか前田ユカリが来て、隅っこに座っていた。俺達はいつも通り無視だ。やがてカレーが出来上がると「オオーいい匂いだ、飯に間に合ったぁ!」と担任でオカルト部顧問の先生が飛び込んで来て、皆で和気藹々とカレーランチにした。すると携帯をいじっていた前田さんが来て「あたしもカレーがいいんだけど」と言うのだ。先生が「あなたはドナタですか?」と聞いた。「カレー食べるって言ってるの、ドナタって意味分かんないんだけど」と言う前田さんに先生がキレた、そして教室に関係ない人は出て行ってください!と一喝した。すると彼女は「分けわかんないこと言ってると、駐在呼ぶよ!」と言って、携帯電話を開いた。先生が「勝手にしろ」と言って、俺たちと一緒にカレーの後片付けをしてくれた。筏で食器を洗っていたナツが「アレッ! 先生、岩魚がいっぱい寄って来た」と声をあげると、筏に飛び乗って、縁を覗きながら先生は「ナツ講師、今日は午後から魚釣り実習の許可頂けませんか?」とナツに聞いた。許可します!とナツが言うので、皆それぞれ、竹藪から竿を選び、白毛虫とか虫を選んで糸に括り付けた。先生の合図で、釣り大会開始!虫が苦手のイッチとジロウは淵の手前の岩場で、岩を退けて手掴みしてた。岩魚を捕まえて玉網(タモ)に入れたジロウが、急に苦しみ出した。イッチが、おい誰か吸入器取って!と大声を出して、俺はすっ飛んでカバンから吸入器を取り出し、タオルでグルグル巻きにされた二郎の口を開き、吸入器でシューとやった。すぐにジロウは落ち着いて「ごめん、俺ハシャギ過ぎた、ハー腹減った」と言うので、岩場に火を焚いて岩魚を塩焼きにした。魚を二匹も食べたジロウは、すっかり元気になって、ナツに小突かれていた。先生!食い過ぎ!と皆に笑われ先生は、もう三匹も食ってた。俺は五匹食ったけどね、

先生が「今日は、皆一緒に帰ろう、今、お家には電話入れるからな」と、気付けば前田女子は帰ってしまい、日はすっかり暮れかかり、暗くなって来ていた。

先生が「大輔のお父さんが軽トラで来てくれるそうだから、急いで片付けー!」と言うので片付けていると、爆音と共に3台のバイクがやって来た。例の道場にいた3人の大学生だ。先頭のバイクの後ろに前田ユカリが引っ付いている。先生がバイクの前に仁王立ちし、その後ろに先生より頭ひとつでかい俺、俺の横にリョウの持って来た将棋台を翳しブン投げる気満々のナツ、俺達とバイク組が睨み合う後ろから、親父の軽トラが来て、窓から首を出した俺の親父は「ドケ!退かないと、乗り揚げっゾ!」と怒鳴りあげた。驚いたバイク組は、バイクを降り、ゾロゾロとバイクを押して軽トラの横をすり抜けると、轟音と共に山を降りて行った。あの時、振り向くとジロウが吸入器をピストルみたいに構えていたのにはチョット笑った。親父の軽トラ助手席にナツ、荷台に先生と俺達が、西瓜(スイカ)や真桑瓜(マクワウリ)の間に座り、送ってもらった。

午前10時に母の声で飛び起きた。ヤバイ! リーダーの絶対命令/毎朝8時集合を破ってしまった! 握り飯を頬張り家を出たのは11時少し前だった。

淵の手前から揉めている大声が聞こえて、自転車を放り投げて駆けつけると、バイクが見えた デカイ奴がナツの左腕を掴み上げていた。そいつに体当たりをしてナツとそいつの間に立った。ヒョロイ奴がまあまあ見たいに寄って来たのでぶん殴ったら、大きい奴に吹っ飛ばされた。口の中を切ったらしく血の味がしたが、吹っ飛ばした奴に組み付いた。ナツが「ダイ逃げな!そいつ黒帯よ!」と叫んだが、すでに組強いて何発も殴りそいつは血を吐いていた「なあにが柔道じゃ!農家舐めんな!」と言いながらさらに腕を取って乗っかった 俺は画体が良いんだデブとも言う。すごく動けるデブだ。

見れば、カズが伸びていてナツが起こして座らせている。 
ひっくり返っている奴を放っておいて、腰を抜かしてゼイゼイしているジロウに吸入器を渡した。ジロウは泣いていたが元気だ。
そこに、イッチとリョウとユウタと駐在さんが自転車で来た。内心、3人で行かんでもと思ったが、3人とも顔に青タンできてるし、寝坊した俺の方が悪い!

駐在さんはナツに、乱闘騒ぎとは何だ!と怒鳴りつけた。何処に居たのかヒョロイ奴が「お父さん 言われたとおり僕等指導に来ただけで 急に突っかかって来たんですよ」すると駐在さんはナツに急にバシッとビンタした。俺達6人は思わず止めに入ろうとしたが、父親が吹き飛んでた。すごい勢いでナツが引っ叩いていた。そして「へえーアンタがコイツ等に指導を頼んだんだ、この場所も教えたんだ、この小役人!」駐在さんは顔を真っ赤にして「親に向かって」とまた手を挙げたがそれは俺が止めた。カズが「コイツ、俺達に暴力を振るったんだ。ナツは皆の命の恩人だぞ」駐在はため息をつくとナツに向き直り「お前は未だ何も分かっちゃいないんだ 柔道は奥が深い、教えを乞うて損は無い、勉強だって教えてもらいなさい! 君等も宿題を見てもらえるぞ」ナツは「大変残念だけど、駐在の言うことは聞けない、たった今、夏合宿は終了する。解散します」と言った。6人に否屋は無かった。ナツがそうするなら、俺らもそうする。駐在とバイク組を残し、俺達は一緒に下山した。

次回につづく

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