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異形者達の備忘録-34

絆(二部作)

眠り続ける友人は、時折り、閉じた瞼の下で、眼球が動いているのが確認できる。彼は、兎和鉄郎(とわてつお)と言って、去年オカルト同好会から、ワンゲル部に転部してきた男子でした。

私はユリ、女子高生です。トワ君との出会いは、1年生の夏、私達はキャンプ訓練で、顧問含め15人でワイワイとテント設営に悪戦苦闘しました。夕方、水汲みから帰った男子が上流に大きな廃墟があり、そこで、同級生の兎和鉄郎(とわてつお)が、1人でキャンプしていると言うのだ。彼は、1年生なのに「オカルト同好会」を立ち上げ、会員だってもう10人ぐらい居るらしい、結構話題の人物だった。

顧問の冴子先生がとても心配して、夕食のカレーライスを一緒にどうかと、伝令を出した。トワ君は速攻で、伝令について来た。「すいませーん!ご馳走になります。」ペコリと頭を下げる。彼が言うには、廃墟でキャンプすると言ったら、同好会の皆んなが辞めちゃって、1人で来たんだって、そして彼は、カレーライスから3日後に入部して来た。

その彼が1人で廃墟へ行って、3階の床を踏み抜いて地下まで落下してしまい、自分の携帯で救急車を呼んだが、搬送中に意識を失い、術後に今の状態になってしまったと聞いた。私が友達の京子とお見舞いに来たのには、理由があった。それは、彼が何故廃墟に行くのかを、聞いていたから、それをご家族に教えに来たのだ。目覚めた時、責められるだろう彼を、少し援護したかったのです。

鉄郎君には、喘息のお姉さんがいて、そのため動物を飼育することが困難だった。でも、中学2年生の塾帰りに、子犬に出会ってっしまった。雨の中で震えながら彼の足元に寄ってきた。体を拭いてやって、灌木に傘をさして、上着で包んでパンを置いてきた。

当時父親は忙しくて家にいなかったし、母親は姉の看病で手一杯であったため、さっと夕食を済ませ、保温のボックスと食料を持って、夜分にそっと家を出た。居なくなっていたら諦めよう、でも居たら絶対面倒見てやる。

チビ助は待っていた。子犬にコテツと名前をつけた。それ以来家族に内緒で外で飼っていた。コテツはドンドンと大きくなり、数ヶ月後にはすっかり大型犬になった。本当にデカくて、風貌はサモエドのようであった。困った彼が目を付けたのが廃墟だった。ここなら山の中だし、自転車で毎日来られる。そして1人と1匹は山を走り回り、川の水で遊び、コテツはますます大きくなり、彼自身も1日40キロ自転車で往復して体格が良くなった。

犬の毛を家に持ち込まない様に、毎日念入りにブラッシングをして、コテツはピカピカだった。

台風一過の朝、テレビのニュースが、大雨とダム放流を流していた。人的被害は無かったというアナウンスと、映し出された風景の中で、彼等の廃墟が床上浸水していた。

彼は、衝撃を受けた。  だって、コテツを地下に繋いでいたから、

家族に何て言ったか覚えていない、適当な嘘をついて、着替えだけして飛び出した。彼の目の前には、まだ足首ほど水が残る地下があり、コテツはどこにもいなかった。

俺が、コテツを殺してしまったと鉄郎くんは言っていました。

続きます。



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