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異形者達の備忘録-20


人感センサーライト

私はユリ、中学生です。駅ビル7階のお蕎麦屋さんでアルバイトしてます。

帰りはいつも自転車です。田舎なので、駅の周辺は明るいのですが、少し離れるともう真っ暗です。通りの街頭は神社を境に極端に数が減ります。でも神社を過ぎれば我が家まで、後5分です。今日も神社まで来て、暗い道の先を見た。

すると、暗い道の先からこちらに向けて、パパパッと灯りがついたのです。どうやら各戸口に付けられた人感センサーの明かりだと気がついた。そして、太めの猫ちゃんが走って過ぎて行った。イタズラ猫め、と思いながら帰った。

部屋に落ち着いて、カルピスをチビチビやりながら、人感センサーって、猫にも反応するのかな? なんて考えながら、ノートパソコンを開いた。今日も地図が開いている。日光のあたりだ。高い山からバスが崖下に転落している。大惨事だ。次に、新聞記事が画面いっぱいにアップされ、見出しに○○小学校の修学旅行バス崖下に転落!の文字が見える。

場面は変わって、重苦しい空気の中、合同葬儀が行われ、マタニティ姿の若い母親が泣き叫んでいる。並んだ棺の小ささに、参列者達は、只々泣いた。

それでも時は過ぎ、全ての葬儀が終わり、部屋には若い夫婦が帰って帰って来た。

夫はげっそりと痩せた妻に言った。「なあ、君のご両親の家に引っ越そう。俺も行くし。」と言って、6ヶ月のお腹を撫でて、「この子のためにも、そうしよう」妻は愛猫のコロンを抱きしめて、ウンウンと頷いた。「軽く準備して、すぐ出よう、引っ越しとかの細かなことは、後から全部俺がやるから、君には少しでも早く、ゆっくり休んで欲しいからね、コロンを連れて、休み休み行こうね」暗くなって来て、静まり返る田舎の街を2人と1匹を乗せて、車は静かに出発した。15分ほど走ると、一番近いインターで一旦停車し、身重の妻を気遣い軽い食事を取った。妻が暖かいお粥を食べてくれたので、少し安心した。車の横で、コロンをキャリーから出して、ご飯をあげると、あっという間に完食した。それを見て久しぶりに微笑みあった。するとコロンは、歩き出してしまい、インターの柵をスルリと抜け、一度振り向いてニャアーと泣くと、高速道路脇の緑地を一目散に走って行ってしまった。「どうしよう!コロンまで居なくなっちゃったら、私」と、又泣き出す妻に、「大丈夫だよ、コロンは多分家だよ、ほら。この辺にはよく来たじゃないか、コロン覚えていたんだよ、仕方ない!一旦帰ろう、コロンも一緒に連れて行くんだから、帰ったらチョコンと玄関にいるさ、」そう言って車をUターンさせました。

ご遺体の搬送が全て済み、崖下に横転するバスは、未だそのままになっていました。日が暮れ、辺りが暗闇に包まれると、横転したバスが二重になり、半透明のバスが、スルスルと崖を上り、峠道を走り出したのです。

我が家に着くと、やっぱりコロンは。玄関にいた。キャリーを持って降りようとすると、妻が通りの前方を指差しています。見るとそこには、半透明のバスがあった。バスから薄い小さな影がいくつも降りると、バラバラに家に入っていく、すると人感センサーがパッと付き、「ただいまー」の声がすると、「今!○○の声が!」と、そこいらじゅうで騒ぎが起こった。2人の家の方から、「あー、コロンただいまー」の声、さっきブレーカーを落として行ったから、人感センサーは作動していなかった。慌てて帰った2人は電気をつけ、妻は「タケルー! タケルちゃん!居るのー?」と声をあげる。夫が「オイ、これを見ろ!」2人が玄関で見つけたものは、小さな可愛い鈴のついたおもちゃと、安産祈願のお守りだった。しっかりと、物として存在していた。コロンは早速お土産のおもちゃで遊び始めている、鞄から真新しい位牌を出して、小さなお仏壇に戻し、2人は、ここで暮らして行こうと決めた。

誰も戻って来なかったバスは、運転手さんが1人、こちらに白い手袋を振って、発車すると、暗い道に消えて行った・

おしまい


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