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好きな実話怪談五選

世はまさに大怪談師時代。
お笑い芸人さんからミュージシャンまで、様々な人が自らが体験、あるいは取材した「実話怪談」を語ったり、怪談が聴けるバーがあったり、毎年怪談師のグランプリが開催されたり…
もはや人の数の何百倍も怪異が語られている今日このごろ。その無数の物語の中から、個人的に大好きな実話怪談を五話、タイトルと話者、簡単な感想を紹介していこうと思います。
もちろん、私自身まだまだ勉強不足。あらゆる怪談師に精通しているわけではありませんので、もしもおすすめのお話があれば、教えていただけると嬉しいです。

①「置屋」中山市朗氏

現時点で個人的に最も怖い話。
恐怖は理解の外から来るモノだとするなら、この話は終始、何が起こっているのかがわからないのが恐ろしい。それなのに、関係者に訪れるのは、最悪の結末であることが、はっきりと示されています。
前半と後半で、物語の軸が変わるのが魅力。

著者の中山市朗氏は「新耳袋」でお馴染み。
新耳袋と出会ったのは中学校の図書室だっただろうか。
大きなお身体に、真っ黒なスーツ姿。
その印象のまま、数十年経った今でも第一線でご活躍されています。
実際に怪異の起きた場所へ体当たり取材をする企画で、老齢の身体が嘘のように率先して「山の牧場」を猛進していたのが印象的。
刺激的な歴史研究も有名です。

新耳袋終了後は、「怪談狩り」シリーズと称して、実話怪談集を発表していて、今作はその内の一冊に収録されています。
読んで震えあがりました。

「怪談狩り 禍々しい家」(角川ホラー文庫)収録

②「黄色いゴムボール」西浦和也氏

悲惨な話である。
登場する人物全員、尋常ではない悲劇に見舞われている。哀しみと恨みが煮こごりのようにかたまった物語。
途中から、タイトルのおぞましさに身を仰反ること必至。

著者である西浦和也氏の語り口は、優しさで溢れていて、それがまた怖さに拍車をかけます。
新耳袋にも収録されている大作「迎賓館」や、京都幽霊マンション騒動の当事者であり、実話怪談史というモノがあるのなら、必ず名前が挙がる方。YouTubeチャンネルでも聴けるので是非。

この恐ろしくも悲しい話を読むと、一線を越えてはならないという自戒と、怪異への畏怖を抱かずにはいられません。
しかしこの世には、その一線を越える人があとを絶たず…

「西浦和也選集 獄の墓」(竹書房怪談文庫)収録

③「ぼーだーの動画」かぁなっき氏

「禍話」を本格的に聴きだしたのは最近のことですが、かぁなっき氏の軽妙な語り口、そして話の恐ろしさとその多様性に現在絶賛大ハマり中です。
怪談ではなく「怖い話」を集めたというこだわりを軸に、因習系の印象が多い余寒氏の怪談手帳、廃墟大好き女史の甘味さんの話などの百花繚乱ぶりを誇るのが禍話。
その中でも、映像系の怖い話も異彩を放っており、この話はそれらのきっかけとも捉えられるのではないでしょうか。

触れてはいけない世界に片足を入れた時の不安や気持ち悪さがじわじわと侵食していく感覚が味わえます。
禍話の聞き手である加藤よしきさんがお気に入りとして選んだ際に聴いた後日談で、私は小さな悲鳴をあげてしまったんです。なかなか無いですよ。おじさんが悲鳴をあげるなんて。

商業目的以外で二次利用が許されている「青空怪談」と銘打たれている禍話。
noteでもリライトとして有志の方々により文章化されていますので、是非。

願わくば、『黄色いゴムボール』をぼーだーなる人物が所持していないことを祈るばかりです。

④「ナンダローネー」朱雀門出氏

朱雀門出氏の怪談は常軌を逸している。
あちら側の理屈をそのままぶつけてくる怪異の数々。類を見ない独特の世界観。
怪談集の名は「脳釘怪談」
その名の通り、脳に釘を打ちつけられるようなインパクトがある。

この話に出てくる存在も、場所も、その後の出来事も、この世がバグったとしか思えないほどの脈絡のなさです。
幽霊譚を超えた、異次元譚ともいうべき話。
ほんとにこれ、ナンダローネー。

「第五脳釘怪談」(竹書房怪談文庫)収録


⑤「虫の声」ファンキー中村氏

大学生時代にネットラジオでよく聴いていた「不安奇異夜話」当時まだ世間に浸透していなかった怪談師達が集まって、怪談を語り合う。
その主催を務め、自身も豊富な実話怪談を持つファンキー中村氏。
中村氏の語る怪談には、怪異に対する深い慈しみを感じます。ただ怖いだけではなく哀しみが伴うのは、怪談の多くが悲劇のうえで成り立っているのだと改めて気づかせてくれるからでしょう。

中村氏の怪談は強烈な話が多く、この話も恐ろしく凄まじい現象が起きています。
自身の体験談であるが故の説得力と表現力で、追体験しているような気になるのも、怖さに拍車をかけています。

以上、どれも有名ではありますが、お気に入りの実話怪談五選でございました。

この瞬間も、どこかの誰かが新しい怪談を語ったり、あるいは、新しい怪異に見舞われているのかもしれません。
どんな怪談に出逢えるのか、これからも楽しみです。出くわしたくはありませんが。


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