見出し画像

遊園地吉喜珍[ショート・ショート集]

①「遊園地に行きたいっ!」

「叔父さん、遊園地に行きたいよぉ!」

お正月。実家に集まった我が一族。その中で生意気盛りの男子中学生が俺に駆け寄る。可愛い奴め。しょうがねぇ、連れてってやるべ。
とりあえず、行く前に弟夫婦に断りをいれなきゃな。
「おい、お前んとこのガキが遊園地に行きたがってるから連れて行ってやるよ」
「バカやろう!兄貴!俺んちのはまだ中学生だぞ!」
「わかってるよ。何を言って…」
「夜の店はまだ早いって言ってんだよ!」

おいおい、俺も流石に朝っぱらから大人の遊園地には行かねーよ!

②「貴族来店」

レストランにて。支配人が皆を集める。
「今日は海外からはるばる、現在を生きる貴族にして王族にして神々の末裔とかなんとかいう凄い方が、なぜだか知らんがこんな場末の遊園地に来られるそうだ。皆、粗相のないようにな」

現れたのは、まさに貴族っぽい姿をした男性。
黒服を着た、まさにボディーガードっぽい男達に囲まれている。店内のテーブルが半分埋まってしまった。

支配人が自ら注文を承ることに。もちろん、黒服が前に立ち塞がるままで。
「では、コーヒーをいただこうかな」
「かしこまりました。ホットとアイス、どちらがお好みでしょう?」
「ハッハハハァー!キミ!それは愚問だよ。豆の薫りを充分に堪能することができるのはホットの方だろう!キミ!」
黒服達も一斉に笑う。窓が揺れる。
「…かしこまりました。では」
「あ、キミ!ところでキミ!豆は何を使っているんだねぇ?キミ!」
豆はもちろん、みんな大好き市販のお手軽なやつである。当店ではぜーたくに二袋をポットに入れております。
そんなことまで、支配人は知る由もなく。
押し黙る支配人。
「まぁ、良い。戯れであるからね。キミ。さっさと持ってきなさい。キミ」
支配人の眉間は八を通り越して三角と化している。

「お待たせしました。ホットコーヒーでございます」
震える手で黒服一号にコーヒーカップを渡し、二号、三号を通して、ようやく主の前へ。
「ふむ…キミ。それでこれはどうやって回るんだね?」

堪忍袋の尾がキレた支配人の目が回るほどの大暴れは、回るコーヒーカップ何周分かしら。

③「ジェットコースターラブロマンス」

恋に生きる私もついに三十路。
今日こそ決めてやるのよ。
なんてたって、彼はなんたら病院の跡取り息子。
今日の遊園地デートで、晴れて交際大喝采よ!

数日後。
居酒屋にて。
幼馴染の腐れ縁といつものさし飲み。
「で、どうだったんだよ。例のお医者さんは」
「ダメ、全然ダメでしたぁ」
「優しくて、誠実な人だって、とろけた顔で言ってたのに」
「優しすぎるのよ。順番待ちしてても、後ろの人に前をどんどん譲っちゃって、人気のアトラクションまで結局五時間待ったのよ」
「お前には全く優しくないのな」
「でも、誠実な人だった。順番で待ってる時も、仕事のこと、医療のこと、将来のことなんかを話してくれて全然退屈しなかったし」
「じゃあ、良かったじゃん」
「でもダメよ。あの男、やけに写真を撮って携帯をいじってるから、なにしてるか聞いたら、外出時は、お母様に一時間ごとに写真付きでメール報告を義務づけられてるんだって」
「それは、ヤバいな」
「でもね、彼、家族をホントに愛してるんだなって感心しちゃったの。お兄さんや弟さん、二人の妹さんに従兄弟さんや叔父さん、父方の祖父母さんも母方の…」
「じゃあ、良い奴だったんじゃん」
「でも、あいつ。絶叫系がダメなんだって。
ジェットコースターも乗れない奴に用はないわ」
「…俺は、ジェットコースターも家族も仕事も好きだけどな。あと、お前も」

そういえば、アンタとも、いろいろあったよね。
再び浮かび上がっていくこの気持ち。
どうかこのまま、昇り続けて…

④「広告塔プロジェクト会議前ミーティング」

第七会議室準備室。
男が二人。顔を突き合わせていた。

「さて、次の会議の議題である、我がショッピングモールの広告塔をどうするかという企画だが。
私は、観覧車を建てるべきだと思うんだ」
会議では先立って、店長による提案が出されていた。それは、「ランドマークになる程の大きさで、展望台になるようにお客様も登れて、景色が移り変わり、座ってくつろぎながら楽しめるもの」
観覧車しか考えられない。
このプレゼンで私の意見が通れば、昇進は間違いない。副店長代理補佐とかいう何とも言えない立場ともおさらばだ。
副店長代理補佐第五秘書が答えた。
「いや、副店長代理補佐、それはイメージが悪くなるかもしれません。観覧車は車輪。そこから、我が店の営業は火の車と想起されるかもしれませんよ」
うぅむ。副店長代理補佐第五秘書のクセに一理あるような。
ならば。
「それじゃあ、観覧車は四角にしよう。で、回転しない。いうならば只の展望台だ」
「それは良いですね。四角は隙のなさを感じますし、動くことがないのも、動かざるごと山の如き我がショッピングモールの強靭な地盤を感じざるを得ません。これで次のプレゼンは決まりですね。副店長代理補佐…いや、副店長代理」
「あっはっは。そう呼ぶにはまだ早いよ。副店長代理秘書くん」

会議の結果。
副店長代理補佐以外の役職者のプレゼンした、観覧車の建設が決定した。

私は副店長代理補佐代理に降格。
あの秘書のせいだ。ちくしょう。だからアイツは、副店長代理補佐第五秘書のままなんだ。

⑤「夢の国!マッチョランド!」


やぁ、マッチョ!
ここは夢の国、マッチョランド。
ボクは案内役であり、人気者であり、ボディビルダーでインストラクターの、マッチョ君だ!
んー!マッチョ!!

さて、これからみんなに、
夢のようなトレーニングを楽しんでもらうよ!
でも、そ、の、ま、え、に、マッチョ!
これから愛すべき筋肉に刺激を与えるんだ。
今のままではせっかくの筋肉もションボリマッチョしてしまう。だ、か、ら、ストレッチをするよ!さぁ、身体の筋肉を伸ばすんだ!十分三セット!んー!マッチョ!!

さて、身体も柔軟になったところで、トレーニングアトラクションだ!!
さぁ、一面に広がるアスレチック!
各所に設置されたトレーニング器具!
身体を追い込み、心を豊かに!
んー!マッチョ!!

身体もあったまってきたね!
休息も大事だよ。
さぁ、ここに座って。
ん?地面じゃないかって?
ハッハー!よく目を凝らしてごらん!
ほら、見えてきただろう?
空気椅子ってやつが!!
さぁ、座ってくつろいで!鳥のササミを食べよう!んー!マッチョ!!

おや、なんだか賑やかな演奏が聴こえてくるよ。
器具が軋み、筋肉が動き、気合と歓声が織りなすハーモニー…
ご覧あれ!あれこそ、筋肉マチョリトカルパレードだ!!
レジェンドクラスのボディビルダー達が手を振っているよ!
…いや、違う!振っているのは、
プロテインだー!!
んー!マッチョ!!

〜プロモーションビデオより抜粋。

⑥「親子」


「ママー!なんであのメリーゴーランド、お馬さんだけじゃなくて、他の動物さんもいるのー?」
「ねー、いろんな動物さんがいて、楽しいねー」
「ママー!あれ、木でできてるよー」
「あれは、三角木…え!?」
「ママー!なんか、おじさんがお馬さんになってるよー」
「見ちゃいけません!なんなの!ここ!
もう…興奮してきたわ!あなた!
今夜は、寝かさない!!」
「ママー、妹がいいなー」
「娘よ、お前、色々わかってるな?」

⑦「遊園地で…いきたいっ!!」

やれやれ、今朝はまいったぜ。
弟の誤解のせいで、俺が中坊を大人の遊園地に連れて行く奴だって親戚一同に思われるところだった。弟の奥さん、俺のこと軽蔑しきった目で見てたな…
あぁ、なんだか、むしゃくしゃするしムラムラしてきたぜ。
実は近場に良い店があるのを知ってるんだ。
さてさて、今年一発目、楽しみましょうかね。

…マジかよ。なんで待合室に弟がいるんだよ。
「おい!」
「げっ、兄貴」
「てめー、奥さんという人がいながら…」
「違うんだ!これは、その、我が息子が大人になったら行くであろうこの店を、事前調査に…」

だったら俺に任しやがれ!


お粗末様でした。

※Xにて、天野蒼空さんによる、#読む遊園地 に参加した作品です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?