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【読書感想】生命式/村田沙耶香

「コンビニ人間」をはじめ、「地球星人」、「丸の内魔法少女ミラクリーナ」、「殺人出産」といった村田沙耶香の本を読み虜になり、今回手に取ったのが「生命式」であった。
殺人出産とともに購入した本であり、どちらとも現在の世界とは異なる世界が舞台となっていることから、セットで読んだことによる衝撃はすさまじかった。

まず読み終わった際に感じたのは、変化への恐怖だ。正常は発狂の一種という言葉が頭から離れない。正常とは、たまたま多数で世界に認められた発狂なだけであり、ころころと変化する。その変化がもたらすものは新しい発狂であり、一昔前には糾弾されていた意見が、いとも簡単に本能として元から人間に備わっていたもののような扱いをされる。私は、その変化に順応していく自信がない。

ただ、「生命式」や「素敵な素材」は現在の世界とは異なった世界での物語だ。もちろんこれからこれらの世界のように世界の正常が変化したりもするだろう。
だが、それに比べて「素晴らしい食卓」や「パズル」、「街を食べる」、「孵化」などでは、世界は現在の正常なままで登場人物の発狂が目立つ。しかし、登場人物それぞれの世界の正常はやはりそう簡単に覆らないものである。時として周りを巻き込みながら自らの正常を守るような姿勢を感じられる。
そうすると「殺人出産」の佐藤早紀子が気の毒に感じる。世界の正常に自分自身の正常が否定され、守り切ることもできないのはとてもつらい。

私は、いま生きている世界で自分とは異なる正常を信じて生活を営む人の存在を忘れずにいようと思う。共感はしあえないと思うが、どうかあまりお互いを傷つけることなく生活ができればいいと思う。相手の世界を傷つけることなく寛容であり、同時に自分の世界を守り切れるくらい冷淡な人間になりたいと感じた。

現在、世界と上手く共感のできている私の正常が世界の正常ではなくなってしまうのがとても怖い。だが実際に世界が変容していけば、私の世界もとても脆くあっけなく崩れてしまうのかもしれない。その時までわからないが、今書いているような感想文も何年後かに読み返すと、自分が全く別の自分に感じるだろう。恐怖も感じるが、自分の変容を体感できることがとても楽しみだ。まだ20年も生きていない私の世界はどんな発狂に染まっていくのだろうか。

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