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写真屋

二十六くらいのときに写真屋でバイトをしていた。商店街などでよく見かけるような写真屋で。外からでも店内が確認できる構造で、営業中はドアのような仕切りがない。
唯一、入口に空気が出るエアーカーテンが付いていたが、クリスタルガイザーの蓋のようなもので、心許ない。特に冬は寒すぎてバスケ部やサッカー部が着込むようなベンチコートを着て接客をしていた。

そんな寒い冬、自転車乗るときのヘルメットを被ったままの四、五歳くらいの女の子とお母さんが来店された。何度か利用していただいたことがあったので、慣れた手つきでお母さんは、携帯かデジカメで撮ったものをプリントする用に写真を選んでいて、女の子は、行儀良く待っていた。
プリント注文を待っている時も一応、接客中なので、ポケットに手を入れるわけもいかず、かじかんだ手をさすったりしていると、そう、それは起こった。
寒そうにしていたのに気付いたのか、その女の子が近くに来て、何も言わず両手でゆのちゃんの手を包んでくれるではないか!!!
その刹那、ズキューン!!って音が鳴ったくらい心を打ち抜かれた。
もう嬉しいやら恥ずかしいやらで女の子にその時に何を言ったかどんな行動をしたか覚えていない。ありがとうって、ちゃんと伝えただろうか。真っ赤になっただけじゃないかな。女優になったら超売れっ子になるだろうな。バイトしてきた中で、ベスト3に入るくらい衝撃で嬉しかった出来事。

何も前触れもなく、無垢の心でおもてなし出来る紳士でナイスミドルの大人にならなくちゃね、小さな女の子に大きな優しさを教えてもらいました。

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