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京町家との格闘をお話ししてみなさんと一緒に考えます

その13町家を作り守ってきた職人の技-3・瓦

瓦について
瓦が町家に葺かれるようになったのは江戸時代後期ですが、江戸では幕府の奨励によって18世紀初めから普及します。京の町衆は江戸の町民のように聞き分けがなく、普及するのは19世紀に入ってからです。また江戸や大坂のような平瓦と丸瓦で全体に土を載せる本葺きではなく、簡略(桟瓦)葺きで土を谷部分のみに敷く筋葺です。柱が細い京町家でももつようにしました。外観意匠を優先したとも経済的合理性(ケチ)をとったともいえます。瓦が葺かれたことで町家が防火上と地震(比較的軽く有利)や風害(板葺きより飛びにくい)などにより防災上も完成した形になりました。
 阪神淡路(兵庫南部)大地震のときに伝統構法の瓦葺きが建物被害を大きくしたといわれました。前述したように郊外や淡路島は別として神戸中心部には戦災で伝統構法はほとんどなかったのです―当時は伝統木造と在来木造(建築基準法(1950年)以降)の区別はあいまいだった―。それを受けて瓦屋は危急存亡の時と慌てました。㈳全日本瓦工事業連盟(全瓦連)が中心になって、実験などの試行をして地震にも台風にも強い防災瓦葺の仕様を作りました。土は載せない、瓦は全数釘打ち、棟は釘や銅線で全数止などです。
本当にそれでよかったのでしょうか。ゆっくり揺れる地震は町家のキラーパルス(共振しやすい揺れ方)ですが、揺れて瓦がずり落ち身軽になり、キラーパルスよりもゆっくりとした固有周期になることで、倒壊を防ぐ効果はあるはずです―瓦が落ちてきて危ないですが、町家はベチャとはいかないので慌てずゆっくり逃げればよい―。瓦が舞い上がるような台風はまれです。3年前(2019年)の19号台風は京都を直撃しましたが、風通しのよい郊外では棟瓦が崩れたりケラバなど一部が捲れたりしましたが、中心部の町家の瓦は飛んでいません。また竜巻やダウンバーストの突風で捲れるのは軽い鉄板葺きも同じことです。さらに部分の瓦が傷んだ時に差替えが困難です。そして土を載せずにケラバや軒を美しく仕上げることも技術的に難しいのです。
京町家の瓦葺きは板葺き石置き屋根と同じで、軽さを守りながら飛ばされないバランスの取れた屋根葺き材であり、美しさを兼ね備えた屋根であることをうったえるとともに、地域特性を配慮すべきだったと思います。

京町家に使われる主な瓦

材料と特徴
1.瓦の形状―京町家で使用する主要な瓦
・平部:地瓦(桟瓦)、蔵は本葺き
・軒:鎌軒(かまけん・唐草、無地)、石持(こくもち)、一文字、石 
 持ち一文字、万十(まんじゅう・型抜きでなく手作り)
・けらば(螻羽):袖瓦、平袖、深袖、刻み袖
・棟瓦:伏間(ふすま・紐丸、素丸)、京箱(明治以降)、巴丸
・鬼瓦:京海津(かいず)棟鬼、京覆輪(ふくりん)棟鬼、京覆輪隅
 鬼、御所型鬼
・取り合い部:熨斗(のし)瓦

2.その他の材料
・南蛮漆喰:糊が濃い漆喰で、防水目的に瓦を重ねるときに用います。京町家はもともと土だけでした。比較的新しい京町家では白が多くつかわれています。面戸(棟熨斗や下屋熨斗と地瓦取合の隙間)抑えや雀口(軒口)の詰め仕事は本来瓦屋ではなく左官の仕事です。
 
3.瓦の特徴
 現在日本の伝統木造家屋で一般に使用されている桟瓦は江戸時代の初期に発明されました。以来多雨多湿で台風などの豪雨に頻繁に襲われる、日本の気候風土に合わせて改良が繰り返されてきました。その結果以下のような特徴をもつに至り、日本における屋根葺き材として最も優れた材料の一つになりました。
・雨仕舞: 通常の雨の場合は表層に雨水を流しますが、台風や強風を伴う豪雨の場合など非常時は瓦の下に水が廻り、雨漏りは下葺き材料で二次的に防ぐ必要があります。ただし京都は土葺きでも筋葺のため、瓦相互と下葺きの間には隙間があり、下葺きの上を雨が流れやすくなっています。また雨が上がれば容易に乾燥するため下葺き材料を痛めにくいのです。 
・施工性:瓦はある程度の重量がありますが、一枚一枚は持ちやすい大きさで施工が容易です。また、一部の差し替えも容易です。
 ・耐久性:瓦そのものは焼き物で100年以上の耐用年数をもちます。風雨や地震などで瓦がずれることがありますが、部分的な補修で瓦そのものの耐用年数を活かすことが可能です。
 ・美観性:瓦の形状は必要から生み出された機能美をもっています。鬼瓦や軒先などは自由度がありますが、京都では装飾は最小限にとどめられ、シンプルな美しさが求められます。

板葺きから瓦屋根へ

あゆみ
1.瓦の伝来
瓦はおよそ6世紀の末に朝鮮半島から仏教建築とともに日本列島に伝えられました。「日本書紀」に崇峻天皇元年(588年)百済から来朝した瓦博士が飛鳥寺の瓦を焼いたとの記述があります。
 現存する日本最古の瓦は元興寺(がんごうじ)極楽坊の屋根の一部に葺かれているもので、昭和34年に床下に保存されていた古瓦を再度利用したものです。前身の法興寺(飛鳥寺)で使用されていたものと考えられ、行基葺(行基瓦)といわれる形式です。古代の瓦が長持ちするのは焼成温度が1千度を超えていたためと考えられますが、高温焼成によりねじれやすいので不良品も多く、製作に手間がかかりました。近代の瓦はそれより低温で焼かれているため不良品は少なく能率的であるが、耐用年数は古代の瓦ほど長くありません。

2.桟瓦の発明と普及
瓦は古来、高級品で、寺院や権力者などの特別な建物にのみ使われていました。現在使われている桟瓦は1674年、近江の西村半兵衛が三井寺満徳院の玄関に使用したのが初めといわれています。オランダ瓦とよく似ていて、それが伝わっていた可能性もあります。桟瓦は水仕舞(防水、水はけ)の性能が高く、製作、施工ともに容易で経済的であり、防火性能が評価されました。(1720年(享保5年)幕府は瓦葺き禁止令を廃止し瓦葺を奨励するとともに、火事の後の建て替えに瓦葺きを強制したり、拝借金(奨励金)制度を武家だけでなく町家にも適用するなどして、土蔵造り・塗屋・瓦屋根化を進めました。それによって葺き替えられた瓦は本葺きです。しかし京の町衆は京都町奉行のお達し(形式的)に率直には従わず、瓦葺きに変わったのは天明大火(1787年)の建て替え以降で江戸に遅れること約100年、しかも土蔵造りでも塗屋でもなく瓦は簡略葺きでした―土蔵は江戸時代初めから本葺き―。中心部の町家は元治元年の鉄砲焼け(蛤御門の変)で焼尽して建て替えられたものですが、それを含めて近代に引き継がれた町家の屋根はこの幕末の形です。

3.土葺の否定と引掛け桟瓦の普及
 阪神淡路大震災(1995年)で瓦屋根の木造家屋が多数倒壊し、土葺による屋根の荷重が原因の一つとされました。その結果、全国的に土葺が否定されて(全瓦連のガイドライン)、引掛け桟瓦葺が主流になりましたが、土葺は瓦が安定するなどの長所があり、再考が望まれます。


余話1-瓦のあゆみあれこれ
・瓦の進歩は特許で確認できる:雪止瓦は明治時代に発明され、平 
 板瓦は明治45年に発明された。
・モースの瓦研究:明治16年の3度目の来日の後、世界中を回って
 あらゆる瓦をスケッチして明治25年に世界中の瓦の本を出版。 
 瓦の種類と葺き方が網羅されている。『ON THE OLDER FORMS
 OF TERRA-COTTA ROOFING TILES』
・新しいものが良いわけではない:唐招提寺の鴟尾は江戸時代のも
 のを使用している。明治時代に作られたものは焼成温度が低いた
 め劣化して使えなくなった。1000年以上前のものは焼成温度が
 高く、耐用年数が長いのに、劣化や耐用年数だけを見て使わない 
 ことが多いが、それは間違っている。
・強風対策の工夫:沖縄の瓦は動線や釘などで止めていない。台風
 で飛ばないように漆喰で塗り固めてある。そのことによって強風
 で建物が捻じれ瓦相互がずれても漆喰の柔軟性で追従できる。



瓦の葺き方

瓦の葺き方と特徴
 桟瓦の葺き方には土葺工法と引掛け工法の2種があります。
1. 土葺工法
 土葺工法は瓦の下に土を置き、その上に瓦をおいて固定する伝統的な工法です。土葺工法には筋葺き(筋置き)とべた葺き(べた置き)の2種に分けられ、京町家は筋葺です。一般的にも筋葺が多く。特に中部、関西、四国地方では現在までよく使われてきました。京都の土蔵はべた葺きですが簡略瓦(桟瓦)でなく本葺きです。
 筋葺きは桟瓦の谷の裏部分に葺き土を置きます。葺き土の高さを調整することで野地や瓦座の状態に対応でき、反り(そり)や起り(むくり)など屋根の線を調整しやすいです。
 べた葺きは桟瓦の裏側全体に土を置きます。土蔵ではそうしますが土を多量に必要としますし、重くなるため京町家の主屋根ではほとんど見られません。大阪地区、和歌山地区では最近までべた葺き工法が多く用いられていました。
 筋葺、べた葺きのいずれにしても野地むらの修正が容易で、反り、起りなど屋根を好みの線で葺くことができます。瓦にねじ(捻じれ)がある場合でも瓦の安定と納まりが良く、屋根の美しさを強調することができます。引掛け桟瓦で土置きをしない場合であっても、唐草(軒瓦)、螻羽(けらば)、棟は土をおいてきれいに納めるようにします。「土揚げ3年土盛り5年」といいます。
 地葺き用の葺き土は荒土に藁苆(わらすさ・長さ60㎜程度)を混入し良く練り合わせたもので、適当な粘着性と腰のあるものが良いです。葺き土は水合わせをしたものを寝かせ(発酵)て数回練り合わせをします。粘土質が強い場合は砂を混入することでひび割れや収縮を防ぎます。
 拭き土の量は一般の筋葺工法では拭き土の幅を120㎜(4寸)位とし、高さは60~90㎜(2~3寸)くらいとします。野地の状態が良い場合は桟瓦の尻を野地につけるように葺きます。
 桟瓦を葺くときに瓦と瓦の間に葺き土が咬むことがありますが、雨漏りの原因にもなり安定も悪くなるので、斜め上から差し込むようにするのが良いです。このとき桟瓦の尻の部分で葺き土をしっかり押さえるようにします。
 棟用の葺き土は水が回りやすいので、面戸(熨斗と瓦の隙間)に漆喰(南蛮漆喰)を塗るか面戸瓦を使用するなどの工夫が必要です。寒冷地においては、桟瓦は3枚目ごとに#18以上の被覆銅線で緊結しました。軒瓦、袖瓦、棟瓦とそれに接する桟瓦は全て緊結してきました。現在は全数釘打ちとなっています。
 落ち棟屋根(下屋)等の壁際には捨て谷(瓦の下の樋上の板金)を入れますが、利き巾いっぱいの桟瓦を入れるのがよいです。やむをえず7分程度になる場合は壁際に雨水が侵入しないように壁際側を上げて納めます。

引掛け桟瓦葺の事例

 
2. 引掛け桟瓦工法
 野地に引掛け桟(桟木・12×24ミリ以上、急勾配の場合は18×36ミリ以上)を打ち、引掛け桟瓦の尻を引っ掛けて葺きます。すべての桟瓦が桟木によってとめられ、ずりおちることをふせぎます。これまでは、桟瓦は3枚目ごとに銅釘やステンレス釘(長さ50~65㎜、太さ#10~12)で緊結しました。野地の凸凹は飼い木で調整します。軒、棟、螻羽など特殊部分には土を使って安定を図り、全て被覆銅線や銅釘、ステンレス釘で固定しました。2000年以降は「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」及び建設省告示1458号により実態上「防災瓦」にすることが必須になり、全ヶ所全数緊結となっています。
 土葺きに比べて軽量となり、屋根荷重が崩壊の原因とされた阪神淡路大震災以降に普及が促進されました。土葺にくらべ葺き足(流れ方向の並び)をそろえることが容易で、施工技術の習得が容易です。一方桟木に直接瓦を止めるため高さの調節がききにくく、野地の精度が要求されます。また野地に桟木を直接打つと暴風時に瓦の裏に侵入した雨水が桟木で止められ水が溜まり防水性に欠けるため、流し桟を打ったうえに桟木を打ち、野地の上を雨水が流れるようにします。
 引掛け桟瓦が主流になりましたが、軒、螻羽、棟を美しく仕上げるためには土葺工法の長所も取り入れ、土を置くようにします。
 土葺工法、引掛け桟瓦工法のいずれも、差し葺工法と被せ葺工法がありますが、京都は差し葺工法です。差し葺の方が仕上げの線を基準とすることができ、調整がききやすく美しく仕上げることができます。
 
3. 施工の要点
・瓦の補修:同じサイズではなく大きめのサイズを切って使うようにします。
・隅棟の雨仕舞:隅棟は半端な瓦ができて水が棟に入りやすいので、水仕舞いに注意して入念に施工します。
・美しく葺く:瓦屋根は風雨から建物を守るという機能が最大の役割ですが、仕上りの美しさも大きな長所です。全体を見上げた時の瓦一つ一つの点と線が美しさを形成します。そのため割り付けがうまくいかないときは全ての瓦を欠いて調整していました。また下地そのままの形ではなく、瓦を土に置くときの抑え加減で線を出します。捻じれた瓦は交互に使うことで誤差を消して、水の流れを読みながら葺くようにしていました。
 
4.下葺き 
・杉皮葺き:土葺の下地として最良です。土となじみがよく、濡れても腐りにくく、通気性が良好で乾きやすいです。一方水が溜まる部位(谷部など)では浸みて漏ることがあるため注意が必要です。また一部が傷んでもその部分だけ補修することができます―瓦をすべてめくった場合はトントンは全面やり替えになることが多い―。
・杮(こけら)葺き:通称トントン葺き(トントンとも)といい、土居葺きともいいます。材料は槇(まき)、椹(さわら)、杉材の薄い板で寸法は厚さ1.2㎜、幅100㎜、長さ240~270㎜程度です。葺き足(働き・流れ方向の見える部分)は長さの1/3以内で重ね葺き(3枚重ね・断面が3枚)し、2足おきに細かく小羽釘(小羽板を止める竹釘)またはステープル釘(タッカ打ち)で止め付けます。京町家では最も一般的に使われてきました。下葺き材料として杉皮葺きより耐用年数は短いですが、安価で通気性があり乾きやすく、杉皮同様土とのなじみがよいです。元来水割り(切り目を入れて水に打たせて割る)や手割りの剥ぎ板であったが現在は機械剥ぎ(スライス)が使われています。割板は木理に沿った剥ぎ板で、機械剥ぎに比べて水がしみにくく流しやすい(水はけがよい)です。トントンは水が溜まるような部位では浸みて漏ることもありますが、傷んだ部分だけを入れ替えて補修することができます。これに変わるものとしてスライス板をミシン縫いしてロール状に丸めた巻きトントンといわれる製品もありますが、木表を上にしなければいけないところを木裏、木表がばらばらであり、薄くて割れやすく、漏れやすいです。
・アスファルトルーフィング:防水性能が高く、材料が安価、施工が容易で短時間で施工でき、熟練を要しません。防水性能の補償は10年までで、それ以降の耐用年数は不明です。部分補修は一部可能ですが、上から重ねるだけのため、端部から毛細管現象で雨水が侵入する恐れがあります。また土とのなじみはよくありません。また通気性が乏しいため、一度入った水や湿気が逃げにくいです。さらに屋内の暖かい湿った空気が棟の裏側に集まりシート裏面に結露を生じ野地を腐らせたり、雨漏りのような状態になることもあります。それを防ぐためには換気棟などの対策をとる必要があります。透湿ルーフィングは湿気を透過するので、ルーフィングにする場合は、価格は少し高くてもこちらを採用するべきです―鋼板葺の場合は透過した湿気が鋼板裏面で結露するので、通気層を設けるなどの対策が必要―。

5.瓦屋根の勾配
 一般的に4寸勾配(10行って4上る)が瓦(桟瓦)屋根に適した勾配です。流れが長くなれば勾配をきつくする必要があります。緩くても3寸5分以上にはする必要があります。京都では引き通し3寸8分にして起りをつけることで、雨量の少ない棟付近で3寸5分程度、雨量の多い軒部分で4寸5分程度にして棟が高くならないように(柱を短く)工夫をしています(本稿⑤参照)。4寸勾配では六四版(64枚/坪)で30枚まで(約6.4m)が流れ方向の安全限度とされています。京町家の下屋は3寸5分程度の勾配が多く、瓦は80枚が使われます(小さい瓦ほど勾配の戻りが大きい―緩くなる)。雨は漏りやすいのですが、上屋(主屋根)との見た目の釣り合いと、主屋根の軒が被っていることを前提にしています。

6.瓦の種類など
・瓦のサイズ:使う場所によってサイズや仕上げを変えます。坪当たりの枚数で53A(8.75寸×7.75寸)、56(ごんろく)、60(8.2寸×7.1寸)、64(ろくし)、72、80、100枚などがあります。京町家の上屋では64(8寸×7寸)が一般的です。下屋は80枚(7寸×6寸)が一般的で72枚も使われます。
・瓦割付:棟や軒などの瓦の割付は図面上で打合せをすることが一般的です。左右の割付は桟芯(谷芯間または働き芯間・六四で242㎜)で割り付けます。下屋(落ち棟)と2階の壁の取り合いには瓦の桟芯が壁面になるように割り付けます。64は半間(関東間1間の半分・3尺・910㎜)でも間半(まなか・京間の半間・約1000㎜)でも割り付けがしやすいです。棰の割付も瓦の割付と同時に考える必要があります。
・面取り瓦:面取り瓦は主に下屋に使われ、面取りのない瓦は主屋根に使われることが多いです。
・磨き瓦:京瓦の特徴であり、きめ細やかで美しいです。また持ちもよいですが、手作りで希少な瓦になっています。
・給水率:JIS規格では吸水率が5%以下のものを使います。しかし昔の瓦は、吸水率は高くても特に問題はありませんでした。今の燻(いぶし)瓦(還元焼成・蒸し焼き)では新品はJIS基準通りですが、表面の燻が落ちると吸水率が上がります。磨いてある燻瓦は強くて長持ちしますが、現在はほとんど製造されていません。
・耐寒瓦:凍てに強くするために高温で焼成したものを指します。塩焼き瓦など (三州、明石、石州など)がそれにあたります―現在は製造されていません―。ただし役物は変形を防ぐため低温で焼成されるために凍てやすかったです。
 かつて白梅町(今出川通)寄り北は、淡路瓦は使わない、といわれていましたが今では焼成温度が高くなり大丈夫です。


余話2-瓦の生産と流通
・瓦の価格:昔は瓦一枚作るのにかかった手間の3倍がその瓦の値段といわ
 れた。しかし仕上げ方によって千差万別。
・京瓦:かつて京都は日本一の瓦の産地だった。品質が良く川越で使われた
 こともある。しかしもともとは重くて運ぶのが大変なので使う場所の近く 
 で作っていた。
・瓦の生産流通:昔は水運などの交通利便の良いところが瓦の産地になりま
 した。また製造業者が施工もしていた。
・独特な瓦
1.藤岡瓦(群馬県)は達磨窯で手作りの風合いが喜ばれた。値段は普通の瓦
 の2倍で、給水率が高いため苔が生え、材質は柔らかい。燻が剥離して
 「剥離瓦」といわれた。大きさもばらばらで現代の瓦と逆の方向を向いて
 いるが、味わいがある。かつては60軒以上もあったが、今は1軒を残すのみ。  
2.天龍寺様(出入)の瓦は岐阜の坂井の瓦です。石英を多く含む土で耐火度
 が高いため、高温で焼き締めた。肌は悪いが焼きは良く耐寒性も高いが、
 多少捻じれていた。今は作っていない。



余話3―あれこれ
・瓦の前の屋根:中世から近世のはじめにかけては板葺きだった。
 椹などの割板を使い、竹や丸太を井桁に組み交点に石を置いた板  
 葺き石置き屋根だった。江戸時代中頃には杮葺きに変わった。京
 都町奉行所が瓦葺きを指導するが、これは瓦の下地でこれから瓦
 を葺くと言い逃れした。
・シリコンコーキングによる瓦のずれ止め:かつて瓦の漏れを止め
 ると称して、瓦の合わせ目にシリコンシーリングをする業者がい
 た。シリコンは瓦のずれを止めても雨漏りは止まらない。むしろ
 シリコンが肌別れして毛細管現象によって水を吸い上げて漏りや
 すくかつ乾きにくくなる。瓦は一枚一枚に「あき」があることで
 水が切れるようになっている。ご注意を。


伝えたいこと
 現代に伝わる町家の屋根の瓦は風雨から建物を守り、施工も保守も容易で、長持ちし、しかも美しいです。総合的にみて最良の屋根材料と考えられます。イニシャルコストを比べるとより安価な材料はありますが、ランニングコストを含めれば最も経済的といえます。また時間がたち古びることで、より味わいを増して愛着のわく材料です。
 
語り手 松田等(瓦師)、光本大助(瓦師)、荒木正亘(大工)


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