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京町家との格闘をお話ししてみなさんと一緒に考えます

その17町家をつくり守ってきた職人の技-7・板金

板金について
 板金は野丁場(ビルなどの建設現場、対は町場)では大活躍です。軽くて加工しやすく、運搬可能な範囲で長尺化することで雨仕舞がよく、屋根勾配を緩くすることができ、かつ施工効率も優れ総合的に経済性が高いです。熱膨張や電蝕(異種金属間の電位差による腐食)に注意して素材を厳選すれば耐久性も期待できます。工場などの屋根はほとんど金属板になりましたし、いまや本葺きに似せて半永久的をうたうチタン瓦まであります。
 町場でも近代町家には屋根、外壁、戸袋、軒蛇腹などに銅板が使われます。京町家では表に見えるのは樋ぐらいですが、裏流れの下屋や水廻り棟の屋根などに見られます。銅板の一文字葺が多いですが、この頃は酸性雨の影響で緑青が安定せず腐朽が早いので、ガルバリウム鋼板を使うことが多くなりました。裏側の樋はコスト上で銅樋でなく塩ビ樋にすることが多いですが、樋は掃除や劣化を放置すると軒端の木部を腐朽させるので、20数年ごとに取替えることを前提にすべきです。あるいは雨落ち溝を設け樋はなくすのも選択肢のひとつです。
 外窓敷居や須負(すおい・下屋と2階壁の取り合い部の幕板上の頂部)に銅板水切りを見かけますが、木との間に水を抱き腐朽を促進するため避けたほうがよく、あくまで木の取り合いで水切りを図ることが基本です。同様に2階の軒が高い総2階型で、袖壁や腰壁にタイル柄の鋼板を張る昭和の町家もありますが、雨仕舞上も問題ですが外観意匠上も難があります。2階壁が高すぎて「かしき」(出桁を受ける腕木)で軒を深くしても腰壁を守り切れないのです。改修時にこれをどうするかは悩ましい問題です。須負と窓長押の腰壁を杉板張りにすることぐらいしか思いつきません。
 立派な町家で表に塩ビ樋に取替え、しかも劣化して軒樋が波打っていたり、鮟鱇が外れかかっている事例を見かけます。経済上の事情は分かりますが京町家の表の樋はこだわってほしいと思います。2階が低い厨子2階では上屋は樋をやめるなどの工夫をして、板金師の腕の見せ所であり、余計な飾りのない機能美の京鮟鱇にしてほしいところです。

1. 仕上りと特徴
1) 仕上り(完成品)
・屋根葺き材:平葺き、立ハゼ葺き、瓦棒葺き、一文字葺き
・屋根葺きの補助材:谷、唐草、水切り、雨押え、棟包み、せき板
・樋:軒樋、集水器(鮟鱇、ラッパ)、呼び樋、縦樋
・材質:銅板、溶融亜鉛メッキ鋼板、カラー鉄板、ガルバリウム鋼板、ステ 
 ンレス、ジンク(亜鉛板)、チタン、その他
・飾り金物:木口巻、沓巻、破風飾り、斗巾、エブリ板(門脇の塀の端部の止 
 め板など)の笠木

2)特 徴
 現代の京町家では下屋や付属屋などの勾配の緩い屋根、屋根の谷部分や水切り及び樋等に板金が使われている。薄い板状の素材で曲げや切断などの加工が容易で、素材そのものは水を通さないため、建物を水から守るために便利に使われている。ただし、遅かれ早かれ錆びによる腐食は免れず、錆びにくくする工夫と、錆びた場合のやり替えなどの対処を考えておく必要がある。銅板などの高価な材料から鉄板などの安価な材料まで多種の素材があり、表面処理はメッキや塗装など多種多様な材料がある。

2. あゆみ
 銅や鉄などの板状の素材は飾り金物などに古くから使われていたが、高価な材料のため一般には普及していなかった。京町家で屋根や樋に板金が使われるようになったのは明治以降、金属の圧延技術の進歩により安価に製造できるようになってからである。現在は瓦屋根でも谷や水切りには板金が使われ、勾配の緩い付属屋の屋根は板金で葺かれることが多い。また、樋についても、軒樋・縦樋は竹、鮟鱇は木の板で作られることが多かったが、現在では板金で作られることが多い。近年、塩ビ製の樋が普及しているが、これも板金職の範疇である。

主な道具

3. 道 具
1)切る
・金切鋏(かねきりばさみ) 
 ペリカン、直刃(すぐば):長い直線や大きな曲線を切る 
 柳刃(やなぎば):反刃(そりば)、曲線、直線両用    
 エグリ刃:ドリルやポンチより大きな丸穴を開ける 

2)曲げる
・折り台:板金を置き、スチールの角に合わせて拍子木で少しずつ叩いて折  
 り曲げる。 2~3mmのハゼを折ることも出来る。
・拍子木:樫の木の角材。
・刀刃(かたなば):直線で折るため、板金の折り線に沿って当てて使う。ス  
 チール製、ステンレス製がある。長さ600mm、幅70mm、厚さ3mm程度。 
 2面は刃状に削られ、鋭角になっている。
・つかみ:短い材をつかみ込んで曲げる。
・バッタ:薄い金属板を折り曲げる道具。ハゼを折る。最低4mm。2回折り  
 返しの場合は最低8~10mm。
・ロールバッタ:現場で金属板の胆部を長く直線状に折るための道具。
・菊しぼり:先の細いペンチのような形状、しわを寄せながら軒樋の端部を 
 塞ぐ。

4.加 工
1)曲げ
・直角(矩):直角に折る。直角より少し緩い場合は生矩(なまかね)とい
 う。
・むだ折り :板の端部が平面のままでは強度が無く扱いにくいので、腰を持
 たすために縁をすこし折っておく。160°程。(幅9~10mm)。
・半つぶし :むだ折りをさらに押さえ、180°まで折る。
・つぶし:半つぶしを隙間がなくなるまで折りつぶす。
 2)ハゼ
・ハゼ、出ハゼ、巻ハゼ、タテハゼ、その他のハゼ。
 3)かしめ
・鋲、ボルト、ナット。
 4)ハンダ付け
・鉛とスズの合金でできたハンダをハンダゴテの熱で溶かして金属板どうし
 を接着する。
 5)接着
・金属用接着剤
・塩ビ用接着剤
 
5.材 料
 建築につかう板金は材質によらずほぼ一定の厚みで、厚さ0.35mm(#29)前後が扱いやすい。これより厚いと加工しにくく、曲げたときヒビが入りやすく、仕上がりも悪い。錆びなどに対する耐久性は0.4mm(#28)と実質的に変わらない。
1) 銅 板
・定尺は旧来1尺2寸×4尺(尺2・365×1212mm)であったが、1尺5寸
 ×4尺(尺5・455×1212mm)もある。長尺の銅板は巻いてあり癖がとれ
 にくい。長尺の幅は尺2(1尺2寸)、尺5(1尺5寸)、2尺、メータ
 ー幅(1m)がある。長さは何メートルでも特注できる。6つ切りは長手
 に2つ、短手に3つに切る場合と、長手に6つに切る場合とがある。前者
 を使うことが多く、葺き足が75mm程で美しく見える。長く使う場合は吊
 り子を細かく入れる。
 2)鋼 板
・トタン板:亜鉛メッキ鋼板。亜鉛には犠牲防食作用により、鋼板を腐蝕か
 ら守る働きをもつ。安価で扱いやすい。
・カラー鉄板:亜鉛メッキ鋼板の焼き付け塗装品。
・ガルバリウム鋼板(GL鋼板):アルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板。鋼  
 板のうえに、アルミニウム55%、亜鉛43.4%、シリコン1.6%からなる合金
 のメッキを施し、アルミニウムの長期耐久性と亜鉛のもつガルバニックア 
 クショ ン(犠牲防食作用)、更に自己修復作用を合わせもたせたもの。使
 用環境により、亜鉛鉄板(Z27)の約3~6倍の耐久性が期待出来る。
・カラーGL鋼板:GL鋼板の焼き付け塗装品。塩害に強い。
・耐摩カラーGL鋼板:カラーGL鋼板の高級品。塗装の種類により耐久性
 が高い。現在、板金屋根の多くで使われている。
※GL鋼板は切り口の鋼板が錆びてもメッキ面に錆が進行しない。
※メーカーの塗膜保証(10年保証)は出荷した製品の状態での保証であ
 り、板金の加工がされたものは免責となり、意味がない。
・ステンレス:カラーステンレスとして使われることが多い。谷樋などに使
 われる。ステンレスシンクに使われるものより焼き鈍しにより柔らかい。

屋根等外部の板金

6.屋根の葺き方
・平葺き:屋根勾配は3寸5分以上。
・一文字葺き:屋根勾配は2.5~3寸以上。できれば3寸以上。
・縦ハゼ葺き:屋根勾配は1寸8分以上。最低3%の勾配があれば葺くことが
 可能。
・瓦棒葺き :屋根勾配は1寸8分以上。

京町家の樋

7.樋
1)軒樋、縦樋、呼び樋、這い樋(敷き樋)
・銅製樋:伝統的意匠。酸性雨の影響で昔ほどの耐久性はない(昔は不純物
 が多く、錆びにくかった)。銅板だけだと50年ともたないため、意匠上銅
 板を見せたい場合はステンレス版と銅板を熱融着させたものを使う。
・塩ビ製樋:安価のため普及している。2~30年で交換。
・アイアン:パナソニックの製品。塩ビ製樋の内部に鋼板を入れて補強した 
 もの。鋼板は保護されているので錆びないが、切断部分から錆びる。
・樋受け:樋の熱膨張を拘束しないように保持する。
・軒樋受け(鶴首、打込):固定方法;垂木に木口打ち、垂木にそば打ち、前 
 板に打つ前打ち。
・竪樋掴み金物:でんでん
2)集水器
・京鮟鱇:蝋付けの仕方2種。
・ラッパ(ラッパアンコウ):シンプルで美しい。
・角形

8.伝えたいこと
 
伝統木造建築は木と土と紙が主要な材料でありますが、直接水がかかると長持ちしません。そのため屋根で覆い軒を延ばします。屋根には瓦を使いますが、谷部分、樋、水切りなど、雨水が特に集中する部分は水を遮断する素材として板金が使われます。現代の建築板金には既製品として形状を加工されたものも多いですが、役物などが多数必要となり、結果的にはあまり能率的ではないことも多いのです。板金の職人の手によれば、平らな板金であらゆる部分を手作業で成形加工することが出来、建物ごと、部分ごとに機能的にも美的にもふさわしい形状とすることができます。屋根や樋など目立つ部分でもあり、工業製品が普及しても、現場で加工し取り付ける職人の技術は欠くことができません。
 
語り手:橋爪均(板金師)、林田憲和(板金師)、荒木正亘(大工)

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