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食べることの喜びは、口の中ではなく、ほとんど頭の中で生まれている

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Hey! What's up people~!? 鎌田です。それでは編集者目線で気になった本をご紹介させていただきたいと思います。

今回はこちら、食べることの喜びは、口の中ではなく、ほとんど頭の中で生まれていることを教えてくれる。しかも重要なのは「皿の外」にある要素だったと驚きに満ちた書籍「おいしさの錯覚 最新科学でわかった、美味の真実」です。

かつて食の科学は、研究するに値しない、それどころか科学ですらない、と学者たちからみなされていました。

学者として食に興味を示したのは偉大な物理学者として知られる、今は亡きニコラス・クルティくらいだったそうです。

著者自身が、「ザ・ファット・ダック」のキッチンで観察し、慎重にテストした結果を踏まえて考えた理論を披露しても、学者たちはにやにや笑うばかりでした。

著者曰く、まるで、「科学は俺たちに任せて、あんたは料理だけしてればいいんだ」と言うかのように冷ややかなものだったそうです。

とはいえ、料理人のほうも大差ないのだとか。卵をかき混ぜているときも、それが凝固プロセスとは無縁であるかのように振る舞っていたそうです。

確かに!私も毎日のように卵を割っているような気がしますが、そんなこと気にしたこともないですもんね。

しかし、本書の著者であるチャールズ・スペンスは違います。チャールズは分野の枠組みを超える好奇心をもって、狭い視野に捕らわれていないんですね。

それでいて科学的な厳密さを失わないチャールズと出会ったときに、私が自分のキッチンでテストしたアイデアの多くを、彼も自分のラボで調べたことがあるとわかったそうです。

そこで、目で見て、耳で聞いて、においを嗅いで、手で触れて、口に入れる食べ物に対して、人はどのように反応するのか、著者らは協力して研究することにしたそうです。

その成果をまとめたものが、本書となっています。

食べ物に対する人間の反応について、著者は人が食べ物に対して、舌や鼻だけで反応するのではないと述べています。

つまり私たちの脳と感覚のあいだには対話が存在しているということになるのです。

その対話を仲介するのが、私たちの心で、その食べ物が好きか、好きではないかを心が教えてくれるのです。

脳が私たちの感情的な反応を支配しているということで、食べ物と人間の反応の関係をともに研究するガイド役として、チャールズほど、うってつけの人物はほかにいません。

私たちの誰もが他人とは完全に異なった味覚の世界に生きているという主張に始まり、「ナイフやフォークは食べ物を皿から口へ運ぶのにもっとも適した方法なのだろうか?」という疑問にいたるまで、ページをめくるたびに、あなたはさまざまな考えに遭遇し、自分なりに考え、視野を広げることは間違いないでしょう。

私は科学によって、食事が口の中だけで行われているのではないことを学べば、私たちが食べ物から得られる喜びは、想像以上に私たちの主観に左右されることがわかります。

本書を読むことで、あなたも「ガストロフィジクス(食の最新科学)」のすばらしい世界に足を踏み入れることになると思います。

本書は2008年にイグノーベル賞栄養学賞を受賞したチャールズ・スペンスが、受賞から9年を経たのち、長年にわたる研究の成果を凝縮し、満を持して発表した書籍『Gastrophysics』の日本語訳です。

イグノーベル賞とは、医学、物理学、文学、経済学などの分野で世界にインパクトを与えるほどの偉大な功績を残した人物に、多大な賞金とともに贈られる賞ではなくて、どちらかというとばかばかしくて、ときには低俗とすら思えるような研究を真剣に行い、私たちの生活に役立つかもしれない業績を残した研究者に授与される賞のことです。

ちなみに、 賞金は出ません。それどころか、受賞者が授賞式に出席するための移動費や宿泊費も自腹だそうです。

本書からの引用になりますが、これまでに受賞した研究のなかには、にわかには信じられないような内容のものも含まれていて、たとえばストリップの女性ダンサーがもらえるチップは排卵期でもっとも多く、月経期でもっとも少ないことを証明した研究や、空のビール瓶と未開封のビール瓶を頭に打ちつけたときの衝撃を比較し、どちらのほうが凶器として危険かを調べた研究などがあるそうです。

ちなみに、中にビールが入っていようがいまいが、頭蓋骨を骨折させるだけの衝撃があるので、どちらの瓶も危険な凶器になるそうだ。この研究は,平和賞、を受賞した。2016年には、検査時に意図的に排ガスを減らすことに成功したフォルクスワーゲン社に化学賞が授与されている。

これなどは、本家のノーベル賞に対するパロディとして始まったイグノーベル賞らしい、スパイスのきいた皮肉と言えるでしょう。

マスメディアは、イグノーベル賞を受賞した研究のばかばかしさにスポットを当てることが多いのですが、ほとんどの場合は研究者本人はいたってまじめに研究をしていると思うんですね。

本書の著者であるスペンスも、イグノーベル賞の授与対象となった「ソニックチップ」。

ポテトチップスを噛むときに出るパリパリという音をコンピュータで意図的に操作し、高音を強調すると、それを聞きながらポテトチップスを食べた場合、実際よりもパリパリ・サクサクしていておいしく感じる―の研究で一躍有名になったそうですが、何もそればかりを研究しているわけではないとのこと。

ナイフやフォークなどを重くすれば食事に対する満足度が増す、縁のないボウルに食べ物を入れれば満腹感が早く得られます。

適切なBGMを流せば味に対する印象が変わって、いくら手の込んだ料理をつくっても食後に味の記憶はほとんど残らない、など、食にまつわる色々なネタや極めて興味深い問題を科学者として検証・分析しています。

まさにガストロフィジストですね。

現代における食事とは何か、どうすれば人はもっと満足のいく、健康な食生活を送ることができるのか、といった問題に真剣に取り組んでいます。

ソニックチップは、そのほんの一部分に過ぎず、本書を読めば、そのことに疑いの余地はないことがわかります。

スペンスのユニークな研究の詳細や、彼が私たちにどんな提案をしているかについては、本書を読んでもらえば一目瞭然なので、ここで繰り返すつもりはありません。

本書はイギリス人学者がおもに西洋における料理と食事について書いた本ですが、日本人にとっても非常に興味深い内容となっており、今後、本書を読んで関心をもった誰かが、『日本食版ガストロフィジクス』を書く日がくるのを待ち遠しいと思うのは、私だけでしょうか。

私も編集者として企画してみたいなと思いました。

それではまたお会いしましょう!

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