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なぜ団粒構造が大切なのか?

前回は、土づくりの基礎「育てたい植物のための理想のベッドを作る」と題して土づくりにおける必要な要素について解説させていただきました。

土壌が植物の生育に重要な役割を果たす要素の一つとして、必要な栄養分を保持する能力があります。土壌内には、植物の成長に必要な多量要素(窒素、リン、カリウムなど)や微量要素(鉄、銅、マンガンなど)が存在し、植物はこれらの要素を土壌から吸収します。液肥や追肥を与えることで栄養を補うこともありますが、それらがなくても、適切な土壌はこれらの要素を自然に保持します。

土壌がこれらの要素を保持し、植物に供給する能力は、その構造、特に「団粒構造」に大きく依存しています。団粒構造を持つ土壌では、水分とともに溶け出した養分が流れ落ちにくく、植物の根が吸収することが可能になります。

しかし、土の粒子が細かすぎると、団粒構造が崩れてしまい、水分とともに養分が流れてしまう可能性があります。細かい土の粒子は、水分を保持する傾向があり、団粒構造を保つのが難しくなります。そのため、適度な大きさの土の粒子が必要となります。また、細かすぎる土の粒子は、土壌内の空間を減らし、根が呼吸するための酸素を十分に供給するのが難しくなります。

したがって、土壌作りにおいては、土の粒子の大きさと団粒構造の保持が重要となります。適切な大きさの土の粒子を持つ団粒構造の土壌は、植物が必要とする養分と酸素を適切に供給し、植物の健康な生育を支えることができます。

土壌の「カチオン交換容量」についても説明しておきます。カチオン交換容量(Cation Exchange Capacity、CEC)とは、土壌が肥料成分(特にカチオン、すなわちプラスの電荷を持つイオン)を保持し、植物が必要な時にそれを提供できる能力のことを指します。

土壌粒子、特に粘土鉱物や有機物は、自然に負の電荷を帯びています。この負の電荷は、プラスの電荷を持つ栄養イオン(カチオン)を引きつけ、保持します。このカチオンは、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの栄養素を含んでいます。これらの栄養素は、土壌粒子の表面に引き付けられ、植物の根が必要とするときに利用可能になります。

土壌のCECが高いほど、より多くの栄養を保持し、長期的に植物に提供できます。そのため、土壌のCECは、土壌の肥沃さと植物の栄養供給能力の重要な指標となります。

一方で、団粒構造の土壌は、大きな粒子が互いにくっついて団子のようになった構造を持っています。これにより、土壌内部に小さな隙間やポア(孔)が形成され、これが土壌の水保持力と酸素供給能力に寄与します。つまり、団粒構造の土壌は、植物の成長に必要な水分、酸素、栄養の三つをバランスよく供給することができるのです。

塩基置換容量(別の名称でカチオン交換容量とも呼ばれます)と土の保水性についても言及したいと思います。

まず、塩基置換容量についてですが、これは土壌がカチオンというプラス電荷を持つ栄養分をどれだけ保持できるかを示す指標です。これが高いほど、より多くの栄養分を土壌が保持でき、植物に対して長期的に栄養を提供することが可能となります。この指標は土の種類や構造によって大きく異なり、一般的には、粘土質の土や有機質の多い土の塩基置換容量は高いとされています。

一方、土の保水性とは、土壌がどれだけの水分を保持できるかを示す指標です。これは土壌の粒度や構造により大きく影響を受けます。団粒構造の土は、粒子間に良好な空間(ポア)が形成されるため、一定の水分を保持することができます。これにより、乾燥による水分不足を防ぎつつ、適度な湿度を保ち、植物の根への適切な水分供給が可能となります。

この2つの要素、すなわち塩基置換容量と保水性の両方が高い土は、植物にとって理想的な成育環境を提供します。根が呼吸できる適度な隙間、適切な乾湿状態、そして必要な養分を持つことができる土壌は、植物がより健康に成長するための条件を満たしています。

イメージとしてはホームセンターなどで売られている園芸用の土は、様々な種類の植物が育つための最適な条件を満たすように調整されています。

まず、その土は一般的に団粒構造を持っています。これはつまり、粒子と粒子の間に適度な隙間があり、これにより植物の根が空気を吸収し、呼吸できる環境が整っていることを示しています。また、この隙間により水は土の中を自然に通り抜けることができ、根が冠水することなく、適度な湿度を維持することが可能となります。

さらに、これらの園芸用の土は通常、植物が必要とする各種栄養分を適度に含んでいます。これにより、植物は土から直接必要な栄養を吸収することができます。また、これらの土には一般的に高い塩基置換容量があり、長期的に栄養を提供できる能力があります。

これらの理由から、園芸用の土を使用すると、植物は健康に成長し、すくすくと育つことができます。ただし、植物の種類によっては特定の土壌条件を好むものもあるため、具体的な植物の育て方を始める前には、その植物に最適な土壌環境についても調査しておくことが重要です。

一見すると、排水性と保水性を同時に実現することは矛盾しているように思えます。だって排水性があるということは、水がよく通る、つまり水が流れやすい土ということですよね。一方で保水性があるということは、水分をうまく保持する、つまり水が逃げにくい土ということです。しかし、これらの特性は実は団粒構造の土であれば両立可能です。

団粒構造の土は、一つ一つの粒子がくっつき合って「団粒」を形成し、その間には微細な隙間が存在します。この隙間が、水分と空気が通り抜ける経路となるのです。だからこそ、団粒構造の土は水はけがよく(排水性)、と同時に適度な水分を保つ(保水性)という、一見相反する性質を併せ持つことができるのです。

排水性が高いということは、適度な湿度を保ちながらも根が水に溺れることなく、水分と酸素を適度に供給できる環境を維持できます。一方で、保水性があるということは、植物が乾燥に弱い場合や、炎天下などで蒸発が激しい時でも、一定の水分を確保できることを意味します。

同様に、団粒構造の土は、通気性と保肥性も高いです。通気性とは、土の隙間を通って空気が行き来することができる程度のことを指し、植物の根が呼吸をするためには必要不可欠な条件です。保肥性とは、土が肥料成分を保持し、植物に供給できる能力のことで、これも植物の生育にとって重要な要素です。

それぞれが独立して重要であるだけでなく、これらの要素がバランスよく備わって初めて、植物は最適な環境で育つことが可能となるのです。

ここで自然界がどのように植物に対して恒常的な水分供給を保証しているかという話についても触れておきます。実際に、植物が成長するには水分が非常に重要で、その供給源は主に雨水ですが、雨が常に一定量降るわけではありません。そこで自然界では、雨水が供給される間隔や量にかかわらず、植物が適切な水分を取り込めるような仕組みが存在しています。

その一つが、前述したように、団粒構造の土の存在です。この種類の土は、水分を保持し、過剰な水分を排出する能力があります。雨が降ったとき、土は雨水を吸収し、保持します。その後、雨が降らない期間でも、この保持した水分が徐々に植物の根へと供給されるのです。

また、植物自体にも水分調節のためのメカニズムがあります。例えば、植物の葉は水分の蒸散を制御する働きを持つ気孔を有しています。乾燥した状況では、これらの気孔は閉じて水分の蒸散を抑え、湿度が高いときは開いて水分の排出を助けます。

更に、植物は深く広がった根系を形成することで、乾燥した時期でも地下深くから水分を吸収できます。逆に、雨が多い時期には水分を吸収しすぎないように、表層部の根を活用します。

これらの仕組みにより、自然界では植物が適切な水分を常に取り込むことが可能となっているのです。

土壌の団粒構造は、植物の生育にとって理想的な状態を作り出します。団粒構造の土壌では、各粒子間に適切な空隙が存在し、これが植物の根が呼吸に必要な酸素を取り込む空間となります。同時に、この団粒構造は栄養素の保持にも寄与します。粒子の内部や表面には栄養素が結びつき、植物が必要とするときに利用できます。

土壌を団粒構造にするためには、小さな土の粒子を結びつける役割を果たす要素が必要となります。この役割を担うのが有機物で、特に腐葉土や堆肥などが重要です。これらの有機物は、微生物の活動を通じて分解され、ヒューマスと呼ばれる物質を生成します。ヒューマスは粘り気があり、土の粒子を接着剤のように結びつけ、団粒構造を形成します。同時にヒューマスは、土壌の保水性や養分保持能力を向上させる役割も果たします。

有機物の添加は、土壌の物理的性質を改善するだけでなく、土壌生物の食物源となり、生物活動を刺激します。これにより土壌の生物多様性が増し、土壌の健康状態が向上するとともに、植物の生育環境が改善します。したがって、腐葉土や堆肥のような有機物の添加は、土壌改良において非常に重要な手段となります。

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