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中国における外国投資法の制限と規制

2016年10月に外資三法は改正されたことは前回にお伝えした通りでございます。

2016年の外資三法の改正は、外国企業にとって多大な影響を与えました。これまで、設立には政府主管部門の認可が必要だったのが、ネガティブリストに該当しない場合は届け出制となるなど、手続きの簡素化が進みました。

具体的な事例として、米国のIT大手企業、Apple Inc.が中国で新しい事業を立ち上げる際に、この法改正が有利に働きました。彼らは中国での新規事業設立を計画していたが、それがネガティブリストに該当しなかったため、彼らは政府の認可を必要とせず、速やかに事業設立の手続きを進めることができました。

また、外国投資企業のガバナンス組織について、会社法の規定に従うこととなりました。これは日本の自動車製造大手、トヨタ自動車にとっても利点となりました。彼らは中国に子会社を設立する際、日本の会社法に似たガバナンス構造を設けることができ、グローバルでの一貫性を保つことができました。

これらの改正は、中国へのビジネス進出を考える外資系企業にとって、大きな進歩をもたらしました。制度的な壁が低くなり、より多くの企業が中国市場に進出しやすくなったのです。

確かに、外資三法の改正は多くの面で外国企業にとっての利便性を高めましたが、その一方で外資に関する規制も存在します。これらは自社のビジネス計画や戦略に直結する要素であり、中国市場進出を検討する上で適切に理解し、対応する必要があります。

例えば、先述したAppleやトヨタのような大手企業は新規事業設立やガバナンス構造の設定において改正法の恩恵を受けましたが、ネガティブリストに該当する業種においては、これまで通り政府の認可が必要となるのです。また、規制緩和はあるものの、地方政府や行政機関との交渉や調整が求められるケースも少なくありません。

したがって、自社の事業内容やビジネスモデル、そして対象市場を詳細に照らし合わせて、中国進出に伴う規制環境を把握することが重要です。それは中国市場への理解を深める一歩であり、また、自社の戦略やリスク管理を適切に行うための重要な基盤となるのです。

中国への外資進出に関連する規制と特例について、以下のように整理できます。

規制業種と禁止業種
中国は「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2021年版)」にて、制限・禁止された業種を明示しています。自由貿易試験区や海南自由貿易港についても専用のネガティブリストが存在し、それぞれの地域における制限措置や禁止事項が列挙されています。

規制の根拠規定
外資企業の行うべき方向性は「外商投資方向の指導規定」、産業構造調整は「産業構造調整指導目録」に明記されています。また、「ネガティブリスト」によって登録資本金や高級管理職に関する要求も定められています。

制限業種
ネガティブリストでは、外資の出資比率の制限や制限業種への投資に関する規定が設けられています。原則として、制限業種への全額外資による投資は認められないですが、特定の許認可を得た場合には、中国内での投資が可能になります。また、投資形態についても「合弁・合作に限定」、「中国側の持分支配」、「中国側の相対的持分支配」などの条件が設けられています。

特別法の規定に基づく制限条件
国務院や各業種主管部門が制定する特別法により、「制限業種」に関する具体的な条件が設定されています。これらの特別法に定められた条件に合致していれば、「制限業種」に投資することが可能です。

これらの情報を基に、企業は自社のビジネスモデルと照らし合わせて、最適な投資計画を練ることが求められます。

出資比率

中国における外国投資の制限と規制は、様々な法律と規定によって管理されています。「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」や特別法などが重要な役割を果たしています。

2020年1月1日から施行された「外商投資法」により、「中外合資経営企業法」、「中外合作経営企業法」が廃止され、以前存在していた中外合弁企業や中外合作企業への外国投資者の出資比率の制限がなくなりました。これにより、中国国内で登記され設立した企業は、外国投資者の出資比率に関係なく、すべて外商投資企業に分類され、新しい法律とその実施細則の規制を受けることとなりました。

「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」によれば、外商投資プロジェクトには「合弁・合作に限定」、「中国側の持分支配」、「中国側の相対的持分支配」といった条件が設けられています。これは、中外合弁または中外合作企業のみが認められ、中国側投資者の外商投資プロジェクトにおける出資比率が51%以上であること、または中国側投資者の出資比率の合計が外国投資者のいずれかの出資比率を上回ることを意味します。

さらに、中国の国務院や各業種主管部門が制定する特別法には、外国投資者の出資比率に関する具体的な制限が設けられています。中国は2002年からWTO加盟に基づく約束を果たすため、外国への投資規制を段階的に緩和し、投資分野を拡大してきています。

外国企業の土地所有の可否

中国における土地の所有権は、基本的に国家または農民集団に帰属します。これにより、外国企業や外商投資企業が直接土地を所有することは認められていません。

しかしながら、外国企業や外商投資企業に対しては土地の使用権が認められています。これにより、一定の条件と制限のもとで土地を使用することができます。具体的な使用権の手続きや所有・使用の年限については、それぞれの法律や規定によって定められています。

さらに、中国には土地に関する様々な制限規定が存在します。これらは、土地の利用方法や開発の範囲などを管理し、適切な土地利用を確保するためのものです。したがって、外国企業や外商投資企業が中国で事業を展開する場合には、これらの法律や規定に従う必要があります。

資本金に関する規制

ここでは、資本金に関する規制、特に外商投資企業に対する規制について検討します。

まず、基本的な概念として登録資本金について説明します。登録資本金とは、会社の設立に際して必要な最低限の投資額を指します。この最低限の投資額は、中国の法律によって規定されていましたが、近年の法改正により、これらの規制が緩和されています。

その一つとして、2005年の会社法では有限責任公司の登録資本金の最低限度額について定められていましたが、2013年の改正により、最低限度額の規制が廃止されました。

しかし、業種や企業形態によっては特別な規定があります。たとえば、株式を発行する外商投資株式有限公司や、外国投資者が投資して設立する投資性会社の場合、登録資本金の最低限度額がそれぞれ3,000万人民元、3,000万ドルと規定されていましたが、これらも2015年の改正により廃止されました。

加えて、2014年からは、登録資本金を法律で定められた期間内に実際に払い込むことを要求する従前の規制が廃止され、登録資本金引受登記制度が導入されました。これは、出資者が引き受けた出資金額を登録資本金とし、その具体的な出資時期は出資者間で約定するというものです。

しかし、一部業種では登録資本金の減額に対する認可が必要となる場合があります。そのため、特に地方レベルでの実務運用には注意が必要です。

最後に、従来は投資総額にも規制がありましたが、これも2020年の法改正により廃止されました。その結果、外商投資企業も投資総額を登記する必要がなくなりました。

これらの変更は、中国の企業法の緩和を示すものであり、外商投資企業に対する投資環境の改善を図っています。しかし、法律の適用や解釈は地方によって異なる場合があるため、投資を検討している企業は、現地の規制や実務運用について十分に調査する必要があります。

その他規制

中国での外国投資には、多種多様な規制が存在します。それらは大きく「地域制限規制」、「事業者集中規制」、「国家安全規制」、「外貨管理規制」の4つに分けられます。

地域制限規制
外商投資プロジェクトの設立地区と業務経営範囲が規定されます。具体的には、保険業や法律サービス業、流通業、電信業などが対象となります。それぞれの規定は、業種の主管部門が制定しています。

事業者集中規制
外資による中国企業の買収に関するものです。「独占禁止法」に基づき、買収が国務院の規定する申告基準に達する場合は、事業者は事前に国務院に申告しなければならず、無申告のまま事業者集中を進めることは禁止されています。

国家安全規制
外国投資者による国内企業の買収に関する安全審査制度が確立されています。対象となるのは、軍事企業や軍事関連企業、重点・要注意軍事施設の周辺に位置する企業、国防安全にかかわるその他の企業などです。これらに対する外商投資について、安全審査を経る必要があります。審査期間は、一般審査が30営業日以内、特別審査が60営業日以内と定められています。

外貨管理規制
外貨の借入れや外貨での支払いなどが制限、管理されます。具体的には、「外貨管理条例」や「外貨の決済、売却、支払管理規定」などに基づいて規制が行われています。

これら全ての規制は、投資者が中国における投資活動を行う際の法的な枠組みを提供し、同時に中国の経済的利益と安全保障を保護しています。よって、これらの規制には厳密に従う必要があります。

合弁企業の組織形態等の変更

合弁企業の組織形態を会社法に基づく形態に変更する際、その最も大きな変更点は、最高権力機構が董事会から出資者会に移ることです。この変更は、合弁企業の運営の根本に大きな影響を与えます。

例えば、ある中外合弁企業「A社」が存在したとしましょう。A社の組織形態が会社法に基づく形態に変わると、これまで董事会が行っていた企業戦略の決定や、重大な財務決定などの業務が出資者会に移行します。これは、企業の決定がより直接的に出資者の意思に反映されるという点で、大きな変化と言えるでしょう。

この変更は、定款や合弁契約の規定を見直す必要が生じるだけでなく、出資者間の協力体制や決議の過程についても再構築する必要が出てきます。例えば、A社では、新たな出資者会での意思決定フローや投票手続き、また各出資者の発言権などについて、出資者間の協議を経て決めることになるでしょう。

さらに、会社法には中外合資経営企業法に比べて特定の規定が存在しない事項も多く、これらの点についても出資者間で協議し、合意に基づく規定を定款や合弁契約に反映させる必要があります。例えば、A社では、具体的な利益分配の方法や権利行使の仕方、解散や合併時の手続きなど、会社法に明確な規定がない事項について、出資者間で詳細な協議を行い、合意した内容を定款や合弁契約に追加することになるでしょう。

これらの変更を適切に行うことで、企業は法令を遵守しながらも、出資者の利益を最大限に反映させる運営を実現することが可能となります。これは企業の経営の透明性を高め、投資環境の安定性を保つという点で大きな意義を持ちます。

以上が、中国における外国投資法の制限と規制の現状についての概観となります。この複雑な法的枠組みの中で、外国からの投資を行う企業は、様々なハードルに直面しています。

それにもかかわらず、中国の市場はその規模と可能性から、世界の多くの企業にとって魅力的な投資先であり続けています。そのため、これらの規制や制限を理解し、適切に対応することは、成功するための絶対条件となっています。

次に、具体的な対応策として何が必要かを考えていきましょう。まず、中国の法律体系とその特性を深く理解することが不可欠です。これには、地元の専門家と連携することが有効でしょう。彼らの専門知識と経験は、外国投資法の細部に至るまでの理解を深め、企業が適切な戦略を策定する手助けとなります。

さらに、規制の変更や政策の動向に対して常に警戒感を持ち続けることも重要です。中国の法律や政策はしばしば変わりますので、その変化に対応するためには、定期的な情報収集とその分析が必要となります。

また、中国市場における成功は、パートナーシップの構築やネットワーキングに大きく依存しています。地元の企業や業界団体との関係を深めることで、ビジネス環境の理解を深め、より良いビジネス展開を図ることが可能となります。

このように、中国の外国投資法の制限と規制を理解し、それに適応することは、外国企業が中国市場で成功を収めるための重要なステップとなります。これは決して容易な課題ではありませんが、適切な知識と準備により、中国という大きな市場で成功を手にすることが可能となるのです。

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