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中国における外国投資法とチャイナリスク

前回は中国に進出しようとする会社における事業部担当者向けの情報としてザックリとした概要について説明させていただきました。

今回はその中国における会社法や外国投資法についてもう少し深掘りしながら解説を進めていきます。

中国の経済社会の成長により、30年以上前に制定された現在の外資三法は、全面的な改革の深化や開放の拡大といったニーズに対応するには十分ではなくなってきました。

そのため、この外資三法を見直し、外国からの投資を一元的に管理する新たな基本法を立法することが検討されています。

このような状況を考慮し、2015年1月19日、商務部は「中華人民共和国外国投資法(草案)」を公開し、その年の2月17日までパブリックコメントを募集しました。

この提案は、全170条からなり、一般規則、外国投資者と外国投資、進入管理、国家安全性の審査、情報報告、投資の促進、投資の保護、苦情の調整処理、監督検査、法的責任、そして付則の11章に分かれています。

中国では、これまで外商投資企業に対しては外資三法(企業の組織形態や経営活動に関する基本法)と会社法が並行して適用されてきました。しかしこの二つの法律の間には重複部分が多く、またその内容には相違も見られます。

たとえば、外資三法における外資企業の内部経営管理機構に関する規定は会社法とは異なり、特に中外合弁企業では株主会の設置が見送られ、代わりに董事会が最高の意思決定機関とされています。このため、企業の設立や変更、解散、資本の増減、合併や分割などの重大な決定を行う際には董事会全員の一致が求められ、これは会社法の規定とは大きく異なります。これらの事実を初めて理解する際には、中国における法人設立に際して多くの疑問が生じることでしょう。

そこで提出された新しい法案では、外国投資企業(全体または一部が外国投資者によって設立された中国国内の企業。外商投資企業もこれに含まれる)に対する特別な組織運営規定はなく、企業形態(合弁、独資、有限責任会社、株式会社)も区別されていません。このため、新しい法律が施行されると、中外合弁企業を含む外商投資企業は、内資企業と同じ機関構成となる可能性があります。

また、新たな法律の施行により、外資三法は廃止される予定であり、新法施行前に既に設立されている外国投資企業に対しては、原認可の経営範囲、期間、その他の条件下での経営継続が可能とされています(草案155条)。

さらに、外資三法の廃止に伴い、外国投資企業の組織機構は内資企業と同様に会社法等に従うことになりますが、それに伴う組織構成の変更については既存の外国投資企業に対して3年間の猶予期間が与えられています(草案157条)。

この草案は公開後に意見募集が行われ、既に2018年の2月には3年が経過し、中国の投資政策や環境にも変化が生じています。特に2016年の外資三法と関連法令の改正、公布により、草案で規定されている外国投資企業への参入特別管理措置がすでに施行されているため、大幅な調整が必要とされています。

この草案の立法化の過程を今後も引き続き追っていきたいと思います。

現地進出における、3つの「チャイナリスク」

ここからは広がる中国市場とチャイナリスクについて考察していきたいと思います。

2017年、中国の経済規模は12兆ドルに達し、これにより世界で2番目に大きなGDPを誇る国となりました。成長にピリオドが打たれたとも言える日本市場と比較して、中国市場はその躍進の度合いを増しています。これは数多くの企業がビジネスチャンスを見いだしている場所です。しかしながら、日本法人が中国市場に足を踏み入れると、多岐にわたるリスクが待ち構えています。

最初に挙げられるリスクは規制と法律の変動性です。中国の経済発展は驚異的ではありますが、その一方で発展途上国の一面を持ち合わせているため、政策や法規制は頻繁に変化します。このような変動性に適応することは容易なことではなく、企業にとって大きなリスクをもたらします。

「チャイナリスク」と呼ばれる現地進出のリスクは、大きく3つに分けられます。

1.『オペレーションリスク』生産管理の課題とその解決策

中国市場への参入に際しては、「オペレーションリスク」も大きな懸念要素となります。これは、生産管理の過程での問題が起源となり、企業の評価や販売に影響を及ぼす可能性があるリスクを指します。食品産業でよく見られる問題には、古い材料の使用や食品への農薬混入などがあります。

例として挙げられるのが、2013年に中国で起きたKFCの鶏肉スキャンダルです。この時、KFCは一部の鶏肉供給業者が過度の抗生物質を使用していることが明らかになりました。この事件は広範に報道され、KFCのブランドイメージを大きく損なう結果となりました。事態を収束させるためにKFCは数多くの対策を実施しましたが、その費用やイメージの回復には時間と労力を要しました。

また、2014年にはマクドナルドも似たような問題に直面しました。同社の供給業者が期限切れの肉を使用していることが明らかになったのです。この問題により、マクドナルドは店舗の一部を閉鎖せざるを得ず、また売上が大きく減少する結果となりました。

これらの事例は、オペレーションリスクがどのように企業に深刻な影響を及ぼすかを示しています。製品の品質管理やサプライチェーンの監視を怠ると、企業は信用失墜や販売低下といった結果を招く可能性があります。そのため、中国市場に参入する企業は、これらのリスクを適切に管理し、不適切な行為が発生しないようにする必要があります。特に食品産業では、品質管理は消費者の健康と直結しているため、その重要性は一層高まります。

2.『セキュリティリスク』人間の安全を脅かす潜在的な危険

中国市場でビジネスを展開する上での一つの大きな問題点は、人間の安全を脅かす可能性のある「セキュリティリスク」です。これは、中国国内で発生するさまざまな事象によって人々に直接的な危害が及ぶリスクを指します。

具体的な例として、2012年に起きた尖閣諸島問題の時に発生した反日デモが記憶に新しいでしょう。この時、日本の企業や店舗に対して破壊行為が行われ、一部では日本人スタッフの身の安全が脅かされる事件も起きました。また、これらの政治的な問題がきっかけとなり、日本製品の不買運動が広がることもあります。

さらに、中国は大陸であるため、新たな感染病が発生する可能性も常にあります。過去には鳥インフルエンザや新型コロナウイルスなど、中国が発生源とされる病気が世界に広がり、人々の生命と健康を脅かしました。これらの病気は、特に従業員の安全や生産活動に直接的な影響を及ぼし、企業活動に大きなリスクをもたらします。

これらのセキュリティリスクに対処するためには、現地の政治状況や感染病の情報に敏感であることが求められます。また、事態が予見できない場合に備えて、適切な危機管理体制を整えておくことが重要となります。

3.『カントリーリスク』 中国市場への参入とその課題

中国の特異な市場環境を操ることは「カントリーリスク」として知られています。この大きなリスクカテゴリは、一国全体の政策、法律、および規範の影響を包括します。中国の企業環境における最たる例は、政府による市場への深い介入です。中国政府は自国の経済状況を監視し、必要に応じて市場環境に大きな影響を及ぼす政策を迅速に実施することがあります。このような政策の変化は、為替レートの急激な変動や不意の規制変更など、企業にとって直接的な経済的影響をもたらします。

また、中国の文化と慣習の違いも「カントリーリスク」に含まれます。例えば、ビジネスにおける礼儀作法や、コミュニケーションのスタイルは、日本とは大きく異なります。これらの違いを理解し適応することが、成功的な中国市場進出には必要不可欠です。たとえば、中国ではビジネスの会議では、往々にして丁寧な挨拶や贈り物の交換が重視されます。これらの儀式を理解して適切に行うことができなければ、ビジネスのパートナーシップを築くのが難しくなる可能性があります。

このように、中国市場への参入は、市場の大きさと成長の可能性を享受する一方で、多くのリスクと課題をもたらします。これらのリスクと課題に対処し、対策を練る能力が、成功的な中国市場進出には求められます。

中国市場への進出は、特に初めての場合、その複雑性から多大な時間と労力を必要とします。ビザの取得や法人設立は、一見すると単純なプロセスに見えますが、実際には多数の手続きと調整が求められます。

たとえば、ビザの取得は中国の外事局と日本の中国大使館または領事館とのやり取りを必要とします。どちらの機関でも細かな要件があり、そのすべてを満たさなければならないのです。このプロセスは申請書類の準備から開始し、適切な申請料金の支払い、そして最終的なビザの承認まで、一連のステップを経なければなりません。

同様に、法人設立もまた難解なプロセスで、多くの法的要件と複数の行政機関との交渉が必要となります。このプロセスは事業計画の提出から始まり、各種許可の取得、そして最終的な登録まで、多くの手続きを経なければなりません。

しかし、そのような難題にもかかわらず、多くの日本企業が中国市場で成功を収めています。例えば、ユニクロはその独特なビジネスモデルと戦略的な店舗展開により、中国における大規模な市場シェアを確保しています。

また、これらの難題を解決するためには、専門的な知識と経験を持つ専門家の支援を受けることが最善の策です。多くの企業は法律事務所やコンサルティング会社に依頼し、彼らの専門知識と経験を活用して、これらのプロセスを効率的かつ迅速に進めることが可能となります。例えば、デロイトやPwCなどの大手コンサルティングファームは、中国市場への進出を支援する幅広いサービスを提供しています。

それゆえ、中国進出のハードルは確かに高いですが、専門的な支援を活用することにより、その難題を乗り越えることが可能となります。これが「専門家に頼ればとても簡単である」という意味です。

中国市場撤退時の隠れた『複雑な法制度と人的リスク』

中国市場からの撤退は、その複雑なプロセスとリスクから「進出以上に難しい」と評されることがあります。これらの難題は、裁判所の許可の取得や人的リスクといった形で現れます。

一つの事例としては、日本の大手電機メーカーのパナソニックが中国市場から撤退を決めたケースが挙げられます。パナソニックは中国で大規模な製造業を展開していましたが、業績の低下や市場環境の変化を受けて撤退を決めました。しかし、その撤退には裁判所の許可が必要であり、結果的に許可を得るためには現地法人を象徴的な額で現地企業に譲渡するという選択を余儀なくされました。これは大規模な事業を展開する企業が中国市場から撤退する際に陥りやすい問題です。

また、人的リスクも非常に重要な問題です。中国で事業を行っていた日本の製造業者が撤退を決めたとき、現地従業員からの強い抵抗に遭いました。この抵抗は暴力にまでエスカレートし、結果的には経営者が軟禁状態となり、事業の清算や撤退の手続きが困難となる状況を招きました。最終的に経営者は、撤退に伴う莫大な負債を背負いつつ日本に逃げ帰るという選択を余儀なくされました。

これらの事例から、「チャイナリスク」はビジネス設立や事業運営の段階だけでなく、撤退時にもしっかりと考慮するべきリスクであることが理解できます。そしてこれらのリスクは、市場の大きさや成長の機会といった中国市場の魅力とは切り離して考えることはできません。

まとめ

中国の経済規模は2017年には12兆ドルにも達し、世界第2位のGDPを誇る一方で、日本企業にとっては進出に際して多くのリスクを伴います。具体的にはオペレーションリスク、セキュリティリスク、カントリーリスクといった各種のリスクが存在します。それぞれ具体的には、製品安全性に関する問題、人的セキュリティ問題、政府の政策変更による影響といった形で現れます。

それにもかかわらず、14億人近い人口を持つ中国市場は大きな機会を秘めています。企業はこれらのリスクを適切に管理し、慎重に進出計画を立てる必要があります。ビザ取得や法人設立など、初期の手続きは複雑であり、専門家の助けを借りることが有効です。

しかしながら、最終的には中国市場でのビジネスは撤退が最も難しい部分であり、その際にも法的な課題や人的なリスクが伴います。日本企業が中国市場で成功を収めるためには、これら全てのリスクを熟慮し、適切な対策を講じることが求められます。中国市場進出はリスクとチャンスが混在する舞台であり、その両面を理解した上で臨むことが重要となります。

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