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『短編』心臓のない木こり

鬱蒼と茂る森にはブリキでできた木こりが住んでいました。
彼はオイルで動きブリキでできた手を使い、斧で木を切るのが仕事でした。
そこに人間の少女がやってきました。
「木こりさん、木こりさん、私のお家を知りませんか?」
ブリキの木こりは首を横に降りました。
「私はお家に帰るために旅をしているの、エメラルドの道がある国に行けばなんでも願いを叶えられるって聞いたの。知らない?」
エメラルドの国・・北東にそんな国があると聞いたことがあります。昔ここに迷いこんだ旅人が言っていたような気がします。でも、どんな国かは知りません。
木こりは斧を北東にかざしました。
「ありがとう!・・ねぇ一緒にこない?私一人じゃこの先不安で・・ほら、この先ライオンもいるって噂よ」
木こりは悩みました。木こりには木を切る仕事があるからです。それはブリキの木こりを作った人に命じられた大切な約束だからです。
木こりは斧を持って木を指しました。
「木こりさんは木を切っていて満足なの?願いがないの?」
木こりは考えました。満足とはなんなのか。役目はこなせてるから満足なのではないか。
木こりは首を傾げました。
「満足というのは心が満たされることよ!」
心とはなんのか。理解できない言葉の連続に首を傾げ続ける木こりでした。
「あなたはブリキでできているから心がなんなのかわからないのね。そうね・・心って心臓のことなんだけど・・説明が難しいわね。そうだ!心臓を貰いにエメラルドの国へ行きましょう!」
心臓・・確かにブリキの木こりに心臓はありません。
そして心とはなんなのか。心があれば何ができるのか。
ブリキの木こりを作った人がこう言っていた気がします。
「おまえには私にはない頑丈な身体がある。それで私の代わりに木を切ってくれ。私が死んだら自由に生きていいぞ」
もう彼が亡くなって十年。自由といっても木を切ることしか知らなかった木こりはずっと木を切ってきました。貯蓄されていたオイルももうすぐなくなります。
「やっぱりダメかな?」
木こりは首を振って北東へ歩きだしました。
「ありがとう!!」
少女はお礼を言って木こりに駆け寄ります。

少女とブリキの木こりはエメラルドの国を目指し歩き出しました。

ーーーーーー

旅を終えてはや一年。
ブリキの木こりは木を切っていました。
旅を終えても木こりにできたのは木を切ることでした。
切ろうとしていた木に小鳥が住んでいました。
木こりはその小鳥を眺めてそっと撫で、その木を後にしました。

今は心がなんなのかわかります。
少女の温もりを胸に受け、木こりは歩き出しました。
オイル以外で動くブリキの木こりは今日も木を切ります。









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