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【短編小説】鉄塔の町:スラッシュ58

 塔矢を乗せた輸送車は第6ゲートを抜けて、飛行機の格納庫のような建物の中へ入った。建物の中には10台ほどの輸送車が整然と並んでいた。だが人影は見られない。
 輸送車が止まると塔矢は背中から小銃を突き付けられ、輸送車のステップからゆっくりと地面に足を降ろした。背中に突き付けられた小銃のほかに、左右にも黒い戦闘服の男が一人ずつ小銃を向けている。
 軍人とは違うようだ。第6ゲート入り口にいたのも迷彩服の警備兵ではなかった。黒い戦闘服の警備員だった。
 塔矢は頭の上で手を組まされ、携行していた小銃やヘルメット、装備品をすべて取り上げられた。


 塔矢は身じろぎしないで、辺りを視線だけで窺った。
 天井には多くの青白いライトが設置され真っ直ぐに下を照らしている。そのため整然と並んだ輸送車の真下以外に影は見当たらない。しんと静まりかえった建物の中は、温度も湿度も心地よい。空気は清浄さえ感じる。「まるでクリーンルームだ」と塔矢は思った。


 「歩け!」
 と、塔矢は銃口で背中を小突かれた。
 塔矢の前方、建物側面のドアへ誘導するようだ。塔矢は警備員をイラつかせない程度のゆっくりとした足取りを保ちながら必死になって辺りを窺った。そして頭をフル回転させて思いつく限りの逃走をシュミレーションする。
 目前まで迫るドア。「警備員があのドアを開けたときに…」と塔矢が決心したとき、正面のドアが勢いよく開いた。

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