【短編小説】鉄塔の町:中と外

 真っ直ぐ左右に遠く延びているフェンスの終わりは薄暮の中に消えていた。
 微かに聞こえ始めた車のエンジンの音がみるみる大きくなるにつれて、地響きも混じり始める。
 ヘッドライトが2つ、4つ、6つ、8つ…。馬淵塔矢まぶち とうやは、警備に就いている収容施設の第3ゲートに避難民の輸送車の長い車列が向かってきているのを目視すると、上官から直接塔矢だけが受けた命令を独り言のように繰り返した。「58は第6ゲートへ誘導せよ、58は第6ゲートへ誘導せよ、58は第6ゲートへ誘導せよ…」


 次々と第3ゲートを通り抜けていく輸送車。塔矢は目的の車両を見つけると大きく手を振って運転手に止まれと合図を送った。
 土煙を巻き上げながら、ギギーッと高い不快な金属音を立て1台の輸送車が塔矢の前で急停車した。塔矢はヘッドライトの眩しさに目を細めて、助手席ドア下のステップに飛び乗り、正面の第6ゲートのはるか右側を指差して
 「この車両は第6ゲートに行ってくれ」


 第6ゲート前で輸送車が止まると小銃を構えた警備員が駆け足で近づいて
 「避難民は第3ゲートだ」
 「特命の58だ」
 と塔矢は返した。
 それを聞いた警備員の顔は一瞬こわばり、あわてて第6ゲートに戻って行く。
 第6ゲートが開き、さきほどの警備員が手招きすると輸送車はゆっくりと動き出した。塔矢は自分の役目はここまでと、輸送車のステップから飛び降りようとしたとき、助手席ドアの窓枠にかけていた左腕をギュッと強い力で掴まれた。
 「お前も一緒に来るんだ」
 助手席の男は表情の無い目で塔矢を見て言った。
 腕を掴んだ男の顔を見て、塔矢はもう外へは戻れないと直感した。

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