小説 はじめちゃん
夏祭りの朝。
母は娘に用意した浴衣を着せる。
けいこちゃんの着ているサンランボと梅のような浴衣ではない。
母は、赤やピンクをきらった。
男の子のような青い絣模様の浴衣に、帯をぎゅっとしめた。
はじめちゃんは、一時期けいこちゃんの家の隣の貸し屋に住んでいた。
この家の母親には問題があった。
はじめちゃんはあまり外に出してもらえず、表で見かけるときはいつもダブダブの半ズボンをはいていた。
母はカメラを取り出して、女の子ふたりを並ばせて写真を撮ったあと、
「はじめちゃんを呼んどいで」と言った。
娘はいやだったが、しぶしぶはじめちゃんの家へ行くと戸を開けてもらえなかった。
母は、自分で出かけて行ってはじめちゃんを連れてきた。
買ったばかりのカエルのお面を貸してあげなさい、と言ってはじめちゃんを真ん中にし、はじめちゃんが履いてきた大人用のサンダルを娘のサンダルに履き替えさせて写真を撮った。
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