見出し画像

Bluetoothヘッドホンとコーデック

昨今、Bluetooth Headphoneの音質改善は目覚ましく、
ほんの少し前とはまさに隔世の感があります。
ここではBluetoothヘッドホンのコーデックによる音の違い、お薦めのコーデックとLinux Bluletoothシステムについてまとめました。


要約

現在のBluetoothヘッドホンはとても素晴らしい音となっています。残念ながら微細部まで美しい有線接続の音には勝てませんが、それ単体で聴きますと相当にいい音だと感じさせます。A2DPと呼ばれるBluetoothの方式にはコーデックと呼ばれる音の伝播方式がいくつかあって、なかでもソニーの開発した「LDAC」は他の追随を許していないようにも見えます。実際、私が試した限りにおいて、他のコーデックとは全く別物と言っていいくらい素晴らしい音と感じられました。Linuxオーディオで「BlueALSA」というダイレクト出力再生方式にするとその音の違いがはっきりと耳にわかります。Bluetooth再生ではLDACとLinuxオーディオのBlueALSAが最強です。これまでのBluetoothヘッドホンに関する音の常識を一変させます。



ワイヤレスヘッドホンについて自分の考え方を少し見直そうと思ったきっかけがありました。それは私にオーディオの楽しさを知るきっかけを与えてくれた米国のMark Levinsonが先ごろ発売したヘッドホンです(*)。このヘッドホン、Mark Levinsonが発売する最初のヘッドホンのようです(*)。それにもかかわらずなんとこのヘッドホン、Bluetooth接続が基本となっているではありませんか。え?どうして?あんなに音の悪い音質劣化の著しいBluetoothシステムを介した音だなんて。あのMark Levinsonがいったいどうして?と感じたのはおそらく私だけではないと思います。しかしMark Levinsonが勧めるくらいだから、きっとBluetoothでもいい音がするんだろう、と思ったのがまさにそのきっかけでした。

 Bluetooth経由で音が出るということでヘッドホンを購入して使ってみたことがありました。しかしその音には正直がっかりしました。音に伸びがなく艶や迫力といったものが殆どありません。ガチャガチャとしたつまらない音に感じられました。確かにちゃんと音は出ているがまさにそれだけでした。以来、Bluetoothヘッドホンあるいはイヤホンは試してみようとさえ考えませんでした。ところがどうでしょう。あのMark Levinsonが勧めるくらいなのだからBluetoothもよほど進化したのかあるいはその製品が素晴らしいのか。ここでもう一度、Bluetoothヘッドホン、イヤホンを試すべきかもしないと考えたのです。

 Mark Levinsonが発売しているヘッドホンはいい音なのかもしれませんが、価格もMark Levinsonです(*)。そうそう簡単には購入にまでは踏ん切れませんでした。そこで色々探して見つけ出したのが、伝説の800シリーズを頂点とする英国のスピーカーメーカーB&W(*)が販売しているBluetoothヘッドホンでした。それだと価格はまま高いけどなんとか買ってみることも不可能ではなさそうと考え、思い切ってPx7を購入してみました。そして、それを使ってびっくり。その時の感想をこのnoteのサイトにもまとめました(*)。音の伸びや艶、迫力といったものが自分が想像したものをひとまわりもふたまわりも超えていたのです。今のBluetoothって結構いけるじゃん。なにせ再生装置が手元になくてもいいし、あのうるさいコードもありません。やがてさらなる音の改善を求め、他のBluetoothヘッドホンやイヤホンを購入、やがてLinuxでのBluetooth再生にチャレンジしたのでした。

 まず試したのがふるさと納税でいただいたBluetoothイヤホン
ag-TWS04Kです(*)。

TWS04K

 このイヤホン、小ぶりながらなかなかしっかりとしたいい音がいたしまします。思ったよりも高音が響き、耳をしっかりと密閉するように押し込めば低音もまずまず良好に聞こえました。音質全般悪くありません。ただ、どうしてもその音に硬い印象があり豊かさや艶といったものは乏しいようでした。Px7やAKG有線ヘッドホン愛機K550MKIIなどとはちょっと比べるべくもありません。しかし小さく軽く、コードがないのは誠に便利です。その時はまあこんなものか、と思いましたが、移動中に聴くにはこれで十分。出張の時などAndroidスマホを使って再生して聴いておりました。でも、これを使ってじっくりと音楽を鑑賞するという気持ちにはちょっとなれませんでした。

TWS04の次になにかおもしろいイヤホンはないかなと思ってみていて見つけたのが、同軸スピーカーで有名な音響メーカーTannoyの作ったBluetoothイヤホン:LIFE BUDDSでした。こがとても入手しやすい価格で売られているのです。値段が安いしメーカーが素晴らしい。タンノイの同軸は何度購入しようかと思ったかしれないほどの素晴らしい音のするスピーカー、それを作っているメーカーの品。とてもおもしろうそうだからとSound Houseでえいやっと注文しました。


Tannoy LIFE BUDDS

Androidを使って再生して聴いてみますと、とっても面白い音がするんです。音自体は伸びや艶があまりなくしかも全体にシャーっというノイズが入るのですが、何故かいつまでも聴いていたいという気分にさせてくれるから不思議です。これを購入してからはすっかりTWS04Kは使わなくなっていました。移動中に音楽を聴くのがとても楽しみになる、そんな不思議なワイヤレスイヤホンでした。 いまでもAndroidで聴くにはこれが一番!とさえ思います。ほんとにいったいどこがどうなっているのでしょう。いまだによくわかりませんが、この製品は音ではなく音楽を楽しませてくれるイヤホンです。さすがタンノイ!と思います。

移動中とはいえやっぱりもっといい音で聴きたい。これが次のヘッドホンを購入した理由でした。そこで選んだのはAKGのN60NCです(*)。といってもその時すでに販売終了となっていて手に入りませんでした。ならば中古をと思って探していたら、新古品が売られていたので思い切ってこれを購入。


AKG N60NC

そもそも愛機がK550MKIIとAKG好きの私です。これを買うに躊躇はほとんどありませんでした。そして実際AKGらしい、音場感がしっかりとしており、伸びと艶のあるとてもいい音がいたします。出張がさらに楽しみとなりました。タンノイのイヤホンも面白いけど、これは音楽を楽しく美しく聴かせてくれます。しかも移動中に。


 ところでBluetoothにはいろいろな「コーデック」と呼ばれる伝播方式があります。実はこのことを実感したのは、Linux Audioを使ってBlutoothで超音質再生する方法を確立できてからのことです。はっきり言ってAndroidスマホやWindows機器あるいはMacなどを使ってBluetooth再生していた時はコーデックによる音の違いなど殆ど気にしたこともありませんでした。同一のヘッドホン、イヤホンでそれぞれコーデックを変えてみて聴き比べてみることなどまったく考えたこともなく興味もありませんでした。まさにその程度のレベルの音と音の違いと思いました。


 ところが超高音質Linuxオーディオを有線接続ヘッドホンで聴き、その素晴らしさにどっぷりと浸るにつれ、その音と同程度の音をBluetooth経由でも聴きたいと考えたのです。移動中とはいえ少しでもいい音で聴きたいじゃあありませんか。


 さて、LinuxオーディオでBluetoothを使うにはどうしたら良いか。まずはそこからです。私の愛用しているXubuntu CoreですとBluetoothシステムさえ基本備えられていません。言い換えればそれくらいスリムなシステムです。もちろん音は最高です。調べてみますと直にALSAではなくPulseAudio経由だと比較的簡単にできるらしいということがわかりました。ネットで方法を探しXubuntu Coreにインストール、そして再生してみました。最初はペアリング方法など多少戸惑いましたが、次第にすんなりできるようになりました。詳細は別に譲るとして、ちゃんと上手く使えるようになりPx7を使ってじっくりと聴いてみました。結構いい音がいたします。MacやAndroidのBluetooth接続などとは比べ物にならない音です。ただ、聴いているうちに、音が少し硬直気味で少し肩が凝る、そして音楽がそこまで面白くないと感じ始めたのです。音の伸びや艶がもの足らず少し突き刺す感じがあって聴いていて疲れを感じました。いつまでも聴いていたいという気持ちの音ではありませんでした。でも移動中ではそれなりに「いい音」と感じながら聴いておりました。そしてその時以来Androidスマホでは聴くことがなくなってしまいました。

 いろいろ調べてみますと、LinuxのALSAという、音をそのままダイレクトに出す方式をPulse Audioなど介さずに直接経由してBluetooth出力する方法があるということがわかりました。それが「BlueALSA」です。なんとしてもこれを使ってみたい、使っていい音で聴きたい。有線接続同様にBluetoothでもALSAダイレクトでいい音を聴きたい!

 そこでBlueALSAの確立に挑戦しました。しかし、そもそも形からしか入っていないLinuxユーザーの私にとってこれはかなりの難題でした。Linuxオーディオを扱ってきその勢いでなんとかいけると思ったのが大間違い。途中、何度あきらめようとしたことか。ここで使用するPCは当然MacBookProあるいはAirでなければなりません。もしかするとMacだとBlueALSAはインストールできないのか?と悲観的になったこともありました。でもその都度なんとか思い直し、なんどもなんども挑戦してやっとのことでMacBookへBlueALSAを導入することに成功しました!その時の嬉しかったこと。

 実は途中、なぜかうまく稼働しかけたことがあったのですが、インストールの再現ができない。再現性がないのは科学じゃない。それを雛形にしたりして挑戦し続け、今ようやく安定してこれを作成することができるようになりました。そのあたりの経緯と結果はFc2のブログページに書き込みました。そのうちnoteにまとめたいと思います。そして、BlueALSAインストールの実技は「Pure PC Audioのページ」で別に作成するのでそちらに譲るとして、今回は運用方法として、コーデックに焦点をあててまとめます。

 多くの困難を乗り越えてやっとの思いで完成したBlueALSAです。これを使って初めて「コーデック」による音の違いというのもを耳で実感し、その重要性がわかりました。その結果、私のLDAC至上主義となったのです。さて、コーデックには基本的なものからざっと

SBC(Sub Band Codec)
AAC(Advanced Audio Coding)
AptX
AptX-HD
AptX-Adaptive
LDAC

などがあります。他にもAptX-LLやLHDCなどもありますがBlueALSAはそれらに対応していないのでここでは言及しません。残念なことに利権の関係でAptX-AdaptiveにもBlueALSAは対応できないので割愛します。これらはすべてA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)と呼ばれるプロトコールに基づいたBluetoothの伝播方式:コーデックです。A2DP以外にもサムスン独自のものやHWAなど違った伝播方式もありますがここでは触れません。

 BlueALSAを使うときはヘッドホンのペアリングにあたっていちいちコーデックなど指定して開始しなければなりません。この点が面倒なところのひとつではありますが、逆にコーデックと音の違いについて知るにはとてもいいことでした。ではこのコーデックで聴いてみようと確認しつつヘッドホンから音を出しますから。

 BlueALSAを確立できてまもない頃、コーデックのことなど考えず音楽を聴いていて、うん、これはすばらしい音だ!さすがBlueALSAだと感動したものが、実はそれがSBC経由だったと知りBlueALSAの実力にびっくりしたりもしました。すなわちBlueALSAを使えばSBCでもすごくいい音がするということです。コーデックを指定してちゃんと聴き分けることができるようになってからは、嫌がうえにもこのコーデックの方がいいぞとか、この方式が最高!などと聴き比べるようになりました。そしてその結果、確かに世間一般でも言われているような違いがこの耳でしっかりと確かめられたのです。

すなわち
SBCは基本的コーデックでそれなりのいい音
AACはさらにいい音だがすこしぼやけている
AptXやAptX-HDはとても美しいがやや硬く聴き疲れする音
LDACは焦点のしっかりした豊かで艶のある音で聴き疲れしない
というものです。

 ちなみにBlueALSAでは音のサンプリング周波数も指定できます。デフォルトではSBCを含め44.1 kHzではなく48 kHzとなっています。つまりBluetooth経由では一般に音のリサンプリングが行われているのです。例えばAptXで指定せずに再生すると48 kHzとなり、少し硬くなってすこしギクシャクした感じになります。これをAndroidなどで聴いたらくっきりしたいい音に感じられますがBlueALSAの音とは比較になりません。もしかするとAndroidなどではそもそもすこし音のフォーカスが甘いのでそれを逆にくっきりさせる効果があってちょうどいいのかもしれません。写真で考えてみますと、そもそもフォーカスの甘い写真にシャープネスをしっかりかけても決してフォーカスのしっかりした美しい写真にはなりません。そのようにフォーカスの甘い音をアップサンプリングしてシャープネスをかけても決して元の美しい音にはなりません。サンプリング周波数を考えながらコーデックを試した結果、以下の結論となりました。すなわち、

SBCは48 kHzのデフォルトがちょうどいい
AACもそれと同様
AptXあるいはAptX-HDでは44.1 kHzに戻すのがいい。48 kHzでは音が硬い
LDACはデフォルトのままの96 kHzがいい。美しくて素晴らしい音楽を聴かせてくれると感動した上記AKG N60NCですが、BlueALSAを使ってじっくりと聴いてみますともAptXではどうしても音が硬めで肩にほんの少し緊張感がでます。LDACの素晴らしさを確認したのはソニーのMDR-1000Xというヘッドホンです。でもこれだと大きさのため移動中使うにはちょっと不向きです。どうしても小型LDACのヘッドホンが欲しくなり、財布と相談しつつ色々探して購入したのが同じソニーのWH-H810でした。程度の良い中古品を購入しました。


SONY WH-H810

 これを使って聴きますとほぼ期待通りでした。さすがにMDR-1000Xにはちょっと敵いませんがAKGのN60NCの音をも凌ぐ焦点のくっきりとした豊かで美しい音を聴かせてくれます。音楽を聴いているという感じです。これをつかって移動中もしっかりと音楽鑑賞しています。LDACはすごいです。素晴らしいです。このことを教えてくれたのはXubuntu Core-BlueALSAシステムです。皆様も是非、お試しあれ。


謝辞
BlueALSAを作成されたArkadiusz Bokowy氏にこころより感謝いたします。


Arkq氏のロゴ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?