妊活記録5.検討からの転院 A病院→B病院

移植失敗時から、いやその前の採卵終了直後から、私はA病院の処置で二度と採卵はしたくない、と思っていたので、2か月ほど、ネット上の不妊治療に関するありとあらゆる情報を集めていた。

治療が始まったらその病院の指示に身をゆだねるしかないのに、患者にとって大事な情報は行ってみなければわからないことが多すぎる。

実際に通っている方の情報も、どうも保険適用前後で状況が変わっていることも多く(特に麻酔の程度)、全然わからなくて頭がパンクしそうだった。

以下、調べたことの列挙。
〇病院の技術の差はたしかにある。
卵巣刺激や採卵、移植のタイミング見極めは医師の手技と経験だが、培養施設、設備、培養士の技術は病院の経営力で左右されている。
最先端の病院は培養士や、培養設備にものすごく力を入れていて、培養液も、精子を2000倍に拡大して頭部に空胞がない精子を選び出せるIMSI(イムジー)や、卵子に負担をかけないよう、超微細動パルスをかけながらそっと膜を破って顕微授精させるPIEZZOICCSI(ピエゾイクシー)や、3日目で培養液を変える操作など、それはもう色々な設備や手技が登場しているらしい。

〇保険適用内で静脈麻酔採用の病院は多くない。
安静時間がある程度必要な静脈麻酔を使用すると、回転率が悪くなるので、自費診療の時代は静脈麻酔採用だった病院も保険適用下だと局所麻酔に変更されている。
子宮には局所麻酔が効くが、卵巣は麻酔は効かない。
ひどいとまったくの無麻酔らしい。
えぇ…内臓に針刺すんだぜ。拷問かよ。

〇採卵には激痛を伴うが、痛みを感じない(と、病院は言っている)極細の針を使っている病院もある。
が、針は太いほうが卵胞を吸い取る際には有利。細いと分離?する可能性もある。

〇男性不妊外来があるところなんかは、男性側のアプローチもできる。
だが、精子はなにせ母数さえあれば、正常な一匹を選ぶことさえできればいいので、男性不妊由来の原因を重視しない病院がほとんど。

〇人気のところは待ち時間がえぐい。
人気でなくてもほかに選択肢がなくて5時間待ちのところもあるそうだ。

〇休診日も重要。A病院は日曜祝日が休診日で、平日のうち何日か午後のみの診療の曜日もある。
ホルモン上重要な日が年末年始、祝日の連続休日にあたると、その月頑張ってきたすべてが台無しになるのでは。
なるべく長期の休みがない病院が望ましい。

〇自分たちの場合は男性不妊原因がはっきりしているので、精子選別のアプローチも重要。
遠心分離にかけてる段階で精子は相当ダメージを受けて死ぬかDNA損傷をさせちゃってるんだそうで、それが嫌ならZYMOTなる膜をつかった選別技術を使わなければならないらしい。
さらにより抜く技術として、ヒアルロン酸に吸着する精子を選ぶPICSI、超高拡大顕微鏡をもって選別するIMSIの先進技術があるけど、そういうのを駆使してやっと着床率を上げられて流産率を下げられる。

〇厚労省で先進医療技術提供医療機関の一覧があるので、これでどの病院が認可を受けて先進医療技術をできるのかを調べることができる。
更新があまり頻繁ではなさそうなので、漏れてる病院多数…?

…と色々調べ、自分の重視する点としては、
①先進医療があり、培養技術が高い
②私の大事な周期にあたるときに病院が休まない
③仕事あとにも万一の時は行けるかどうかということと
④医師が高圧的でなくて私の要望を聞いてくれるか、もしくはそのような医師を選ぶことができるか

という点になった。

自分にとっては採卵時に静脈麻酔適用かどうかがかなり病院選びでは大事だったのだが、A病院も静脈麻酔だったのにあんなことになったし、採卵の目的はよい卵を採ることが第一なので、断腸の思いで静脈麻酔の有無は転院先選定の条件からは外した。

ちなみに、気持ちよく意識が落ちて、比較的予後も悪くない麻酔薬の名前はプロポフォールだそうだ。
手術体験ブログなどで、気絶して目覚めたら何もかも終わっていた!何も辛くなかった!一瞬だった!と言っている場合は、大体プロポフォールを使用した場合だと思われる。
不妊治療の第一人者の医師ブログなどを読み込んでいると、プロポフォールを採用していることをアピールポイントとしてはっきり載せている場合もあったので、読めば読むほどうらやましかった。
あの惜しまれながら早逝してしまった世界的アーティストも、プロポフォール乱用のせいでなくなってしまうほと、気持ちよくふわっと気絶できる麻酔薬だというじゃないか…。
だが、高価らしい。
ちなみに、私が使われたケタミンは動物にも使われるぐらいだから、たぶん安い。ハハッ
冗談は置いておいて、ケタラールは鎮痛作用があるようで、流産手術の際にも使われることが多いらしい。
流産手術の方の体験記で、カラフルでサイケデリック、とかジェットコースターが、なんていうキーワードがあると、たいていケタミンだなとピンとくる。
私の夢も一部そんな感じだった。

静脈麻酔と全身麻酔は混同されることが多いようだが、全身麻酔は呼吸も含めたすべての体の機能が抑制されてしまい、厳密なモニタリングと気管挿管が必要だそうで、基本的には麻酔科医が常駐している時間の総合病院での手術でしか行われていない。
静脈麻酔は一瞬眠りにつかせるようなもので、意識以外の体は動けるし呼吸もできるので、麻酔科医がいない状態の、医師一人でやっている歯科医や婦人科医でも比較的安全に使用できる。

何が言いたいのかというと、静脈麻酔の場合、患者の意識はなくても体は痛みを感じているので、無意識に動いてしまったり、痛みから逃げようと腰を浮かせてしまうことがあるそうだ。
だから足にベルトを厳重に巻かれたんだな。
実験動物が拘束されるようでちょっと怖かったけど。
ケタミンは珍しく鎮痛作用があるそうで、その無意識の動きも多少ましにできるそうだ。
私は痛くて一回起きてさらに地獄味わっちゃったけど。

まーた麻酔の話が不妊治療の体験より長くなってしまった。

色々と悩んだ末に、職場及び自宅から1時間半ほどかかるB病院に決まった。
決めたというよりは、夫も自分もたまたま休みが重なった日に、HPを見るとちょうど初診予約が空いており、すんなりと初診に入れそうだったから決めた。
もう一つここでもいいなと思っている病院があったが、そこは全国に名前がとどろく病院で、初診予約は一か月先までいっぱいだった。

B病院は、低刺激手法をとることで有名な病院の系列病院で、その本院は培養技術が高いことで知られている。
だが、本院ほど混雑していないようで、口コミを見ると待ち時間は耐えられる程度だそうだ。
HPの情報提供がしっかりしており、採卵針はその系列グループの優れた技術を結集した細い針なので痛くない!と謳っている。
低刺激なので非常に作用が穏やかな薬剤を使用するということで、母体にやさしいと言っている。
高刺激のように激しく刺激すると、無理をした卵巣が急速に機能低下することもあるそうで、その部分でも安心だ。

保険適用でできる間に、しかも私の年齢と体質では低刺激はもったいないのではないか、とも思ったが、PCOS気味であることを利用すれば低刺激でもいくつかの卵が育つのではないかと思ったし、
高刺激で多くの卵ができたとしたら、それを採る時間を局所麻酔だけで耐え忍ぶのは、耐えられないんじゃないかという心配もあった。
この系列の病院は無麻酔ということも多いようだが、それはおそらく採る卵の個数が少ないからだろう。
麻酔とて針を刺すから、その一回分採卵してしまったほうが早いということなのでは。
先進医療の部分はTRIO検査やPICSIとIMSIしかないようなので、やや物足りないが、精子選別のアプローチがあることが第一条件なので、ギリギリ条件を満たしている。

そんなわけで、気が早いもので移植判定日から1週間もたたないうちにB病院の初診に行ってきた。
お恥ずかしい話だが、B病院はA病院より都会にあるので、めったに人ごみに出ない私としては、夫とデート気分でちょっと楽しかったしわくわくした。
A病院は片田舎にあり、正直なところ明日通院日だと思うと気が重かったのである。近いんだけども。

B病院に到着し、まだ一つの病院しかかかったことがない私でさえ、それなりに問診表に書くことが多く、大変だった。
受付で丁寧な案内を受け、病院の説明を聞く。
ここで驚いたが、なんと採卵周期の採血ありの通院日は午前指定だった。
しまった、診療時間はかなり調べたが、指定時間があることは盲点だったし、誰も口コミに書いてなかった…!
そんな大事なこと指定にするなら、それ、HPに書いといて…!!
なるほどだから患者が殺到してなくて待ち時間が比較的短いのか!
午後に休みを取ってから行く気満々だったので、かなり痛かった。
朝から行くとなると、丸々半日休むことになるか…?3時間で済むか…?
さすがに私でもそんなに頻繁に休み取れるかな…?
まあ、仕方がない。ここまで来てしまったので、最大限の努力をして従うしかない。

そのあと、院長先生と対面して、B病院の方針と、低刺激法はすぐに結果が結びつくものではないこと、どうしても採卵回数がかさみがちであること、でもあきらめなければ数多くの成功経験がある、という旨のお話を聞いた。

デメリットを隠さず教えてくれる姿勢に感心し、また、院長先生が穏やかな口調で高圧的ではなさそうな人柄なことにほっとした。

今日は私のほうでできる検査は特にないが、夫の検査をやってみようという話になり、精子検査を受けることになった。
結果を見て、
「確かに少ないですね…。でも、顕微授精なら大丈夫ですよ。なにせ精子は数が多いですからね」
(プライドへの配慮でとてもやさしく夫に言っていたが、当の本人は割とけろっとしている。だから私が腹を立てる)

この日は私たちが最後の患者だったようで、出てトイレに行って戻ったら、すぐにシャッターが落とされたようだった。
ここでは感じが悪いと思わせる対応をする職員はおらず、ギリギリの患者を急かす素振りも一切ないどころか、全員が全員慈愛に満ちていて優しかった。
都会の病院は違うべな~!!

そんなわけで、A病院に半年通ったのちに、3月からこの病院に転院して通うことになった。


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