短編小説を読む⑪ピアス『いのちの半ばに』一話につき一人必ず死ぬ短篇集
パルです。
薄い文庫本が好きで、見つけたら買い集めてました。こんな本買ったっけー?と思いながら読み始めたのが今回読んだ本です。
『いのちの半ばに』
ピアス著 西川正身訳
岩波文庫
薄くて薄くて。あとがき入れても104ページ。
作者の方、この方どなたかは知らないけど、本の薄さにときめいて購入したと思われます。
この薄い本の中に7篇もの作品が収まっています。
感傷的な言葉は一つもなく、端正で余分な修飾語などない文章。それもそのはず、作者であるアンブロウズ・ピアスはもともとジャーナリストだったそうです。
題名通り、命半ば限りなく死に近づいた者達がどういう情景をみるのか、意識が混濁して死にかけた者のある意味滑稽ともいえる感情、でも切実な感情を鋭く冷静に書いています。そして最後の一行で落ちがあります。
訳者によるとこの短篇集は1891年に出版された『兵隊と市民の物語』という合計26篇の作品から成るもので、その内の7篇を一冊にまとめたそうです。
一話目の『空飛ぶ騎手』は1861年のこと、ヴァージニア州生まれの青年が北軍に志願し、やがて兵士となり、巨岩の上に立つ堂々とした南軍の兵士の馬を射撃し、馬もろとも落下させます。上官に「馬を撃ち落とした」と報告し「誰が乗っていたのだ」と聞かれ「父でした、私の」というと上官は立ち上がってその場を離れて言う。「なんということを」
「なんということを」この最後の一行で私は作中の人物にようやく共感し、感情移入し、ほっと息がつけました。それほど緊張感のある文章です。
読み進めるのに時間を要しました。
ピアスが書いた兵士の物語とは南北戦争の時の話です。リンカーン大統領の偉人伝に小学生の頃涙したものでしたが、大人になって思うのはアメリカ人て白黒ハッキリと決着をつけようとする民族なんだなーということでした。でもこの問題はいまも続いています。
そして作者であるアンブロウズ・ピアスも白黒ハッキリさせたい人で、禁酒令や婦人参政権に揺れるアメリカという国に嫌気がさしメキシコに渡り、そのまま行方知れずになったそうです。
薄い本だからと侮ってはいけない、知らない人の小説は覚悟がいる、と思った次第です。
ここまで
お読みくださり
ありがとうございました🍑
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