あの時はまだ(第二話、二度目の殺意)
彼女の言っていることは正しかった。だからこそ、衝撃を受けたのだ。わたしは頑張っていなかった。図星だからこそ腹が立つという心理。昨日は自分ではわかっていなかった。
でも、そんなことはどうでもいい。とにかく殺してやろうと思ったのだ。愚かで幼いその発想に、ただ酔っていた。
そうはいっても。
何をしたらいいのかもわからない。とりあえず、次の日の練習も、至って普通に参加した。
省みれば、準備体操やトレーニングもダラダラ。苦手なレシーブより、得意なアタックばかり練習し、なんか知らないけど、何度もトイレにいく。あんまり意味のない筋トレと朝と昼の練習だけは一人真面目に続け、たいした効果も出ていない。でも、発言だけは偉そうという、最悪な存在だった。
(どうすれば、頑張れるの?)
頑張っていない自分をどう扱えばいいかさえ、さっぱり、わからない
そのうち、顧問がやって来た。
中年のふんぞり返ったくそじじいというのがピッタリな男性体育教諭だった。レシーブ練習が始まる。顧問がボールを打ち、それをレシーブする。三人ずつコートに入った。自分の番になる。
(今まで、どうやってきたっけ?)
「とりあえず」、目の前のボールを追っていた。ひたすら、「とりあえず」、ボールを追う。来たボールをとる。疲れてくる。それでも追いかける。足が動かない。腰が浮く。何だか胸が苦しくなる。
「お前、もっと真面目にやれよ!」
突然、顧問が怒鳴った。こちらへ向かってボールが容赦なく飛んでくる。
だんだん、レシーブではなく、ボールをぶつけられるだけになっていく。
「やる気がないなら、さっさとやめろ!」
見ていた部員たちも息を飲む。異常事態だ。ボールを持ったまま、顧問が近づいてきた。間近でボールを打ち付ける。レシーブできるわけない距離で。
(どうして)
悔しさで涙が込み上げる。でも、ここで泣くはもっと悔しい。みんながハラハラと見守る中、ボールを顧問に渡していたマネージャーの、冷たい視線と目が合った。
(笑った)
彼女は笑った。じじいにボールを打ち付けられているわたしを見て。
その事実に、血の気が引くのがわかった。歯がカチカチとなり、足ががくがくと震えた。身体が冷たくなっていく。
「交代!」
顧問が言った。
わたしの顔が青くなったのを見て、「ヤバイ、やりすぎた」とでも思ったのかもしれない。
わたしは時代ハズレのこの茶番から免れた。
コートの外に立つ。わたしは下を向かなかった。涙もどこかへ消えた。
そして、もう一度、あの言葉が心に刻まれる。
(殺してやろう。彼女を。ついでに顧問も)
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