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S・Story② 誘い(いざない)


 血馬県魔津怒市にお住まいの会社員N・Sさんからの投稿です。

 Nさんが不思議な体験をしたのは今から約10年前のことでした。

 俗にいうブラック企業に勤めていたNさんは毎晩遅くまで残業をしていました。

 いつも会社から出るのは22時過ぎ。そこから家に帰るのにおよそ1時間半かかります。

 通勤時間が長くなってしまうのは、Nさんの自宅から最寄駅までに地元でも有名な「開かずの踏切」があるからでした。

 そこは電車の往来が多く、駅の近くで電車が低速で走るので一度遮断機が降りると10分以上待たされてしまいます。そのため短い間で渡りきれないお年寄りや子ども、待てずに入り込んで無理矢理渡ろうとする人もいるため、事故が多発している場所でした。

 Nさんは毎日その踏切を通っていますが、運が悪い時は踏切で長時間足止めされることもあり、会社を遅刻してしまうなんてこともありました。

 そんなある日、珍しく仕事が早く終わったNさんは21時ごろに会社から出ることができました。

 いつもより1時間早い帰宅なので、一刻も早く帰ってのんびりしようと思っていましたが、運悪く開かずの踏切に捕まってしまいました。

 そこにはNさんと同じように踏切待ちをしている仕事疲れて帰ってきているサラリーマンと、中学生ぐらいの子どもたちが踏切が開くのを待っています。

 サラリーマンのカバンにはその人には少し似つかわしくない可愛いクマのキーホルダーが付いていて一緒にくっついている小さな鈴がチリンチリンと鳴っています。娘さんからのプレゼントかな、なんて考えると心が少し癒された気がしました。

 子どもたちを方を見るとどうやら塾帰りなようで楽しそうにおしゃべりをしています。

 こんな時間まで勉強というのも大変だなと感心してしまいました。

 上りの列車が通り過ぎて、反対側から電車の音が聞こえてきました。

 その列車が通り過ぎれば踏切を渡ることができるはず。

 すると突然、隣にいたサラリーマンが大きな声をあげました。

 「おい!危ないぞ!!」

 びっくりしたNさんはあたりを見回しましたが誰も危ないことをしてる人はいません。 

 するとサラリーマンは遮断機にしたを潜る抜け、線路の中に飛び込んでしまいました。

 そして


 ドーーーン!!!
 グチャ!!・・・・


 数十分後、警察の現場検証が行われました。

 Nさんも警察に幾つか質問をされましたが、事故のショックが大きくてしっかりした受け答えはできませんでした。

 事故直前に叫んでいたサラリーマンの顔や事故直前の映像が頭から離れなくなってしまっていたのです。

 同じく踏切待ちしていた子どもたちもショックは大きいようでしたが、仲間と一緒にいたのが不幸中の幸いだったのか比較的大丈夫なようでした。

 警察から解放されてNさんは自宅に帰ってきましたが、何をする気にもなれずそのままベットに潜り込みました。

 結局その日は一睡もできませんでしたが、仕事があるためNさんは翌朝いつも通りに家を出ました。

 駅へと歩きながらNさんは昨日亡くなったサラリーマンのことを考えていました。

 サラリーマンが線路に飛び出したのはなぜなのか?その前に叫んだあの言葉はどういう意味だったのか?

 はじめは仕事疲れのストレスによる自殺なのではないかとも思いました。現に鬱病になって自殺してしまう人は年々増えているとニュースでも言っていました。

 実際に警察官も似たようなことを言っていて自殺だと考えているようでした。

 しかしNさんは納得できませんでした。確かにサラリーマンは疲れているようには見えましたが病的には見えませんでした。

 あのサラリーマンは線路の中の何かを見て危ないと叫んだ。そして助けようとして入り込み電車に轢かれてしまった。そのように思えてなりませんでした。

 どうしても事故の映像が頭をよぎり、もっと早起きしてでも回り道をするべきだったかと後悔するNさん。

 気分とは裏腹に運良く踏切を渡ることができました。

 チリン。

 渡っている途中、聞き覚えのある鈴の音が聞こえてきました。

 音のする足音を見ると、昨日のサラリーマンがカバンにつけていた可愛いクマのキーホルダーが足元に落ちていました。

 警察が昨日見落としたのだろう。警察を通じて遺族に渡さなければと思い、Nさんはキーホルダーを拾いました。

 カンカンカン

 それを拾うと同時に踏切の警報が鳴ったため、走って駅へと向かいました。

 事故を目撃して頭から映像が離れないことや一睡もしていないこともあり、その日のNさんは仕事に集中できず、上司から今日は早めに帰るよう指示されます。

 しかしそこはブラック企業。早いと言っても会社を出たのは20時ごろでした。

 ふらふらと自宅に向かっていたところ、駅で声を掛けられました。振り返ると学生時代の友人でした。

 家も近いので一緒に帰りつつ、友人に昨日あった事故のこと、仕事のこと、学生時代の思い出など話しました。

 久しぶりの友人との会話に癒される気持ちになりました。

 そして気がつくと例の踏切の前に来ていました。

 遮断機は降りてしまっているのでしばらく待たなければなりません。

 周囲には昨日と同じように塾帰りかと思われる子どもたちがおしゃべりをしています。

友人:「こんな時間に子どもが何してるんだろうな?」
Nさん:「塾帰りじゃないかな?」
友人:「なるほど、こんな時間まで今の子達は大変だね(笑)。」
Nさん:「俺も思ったよそれ(笑)。」

 そんなたわいも無い会話をする中、Nさんは今朝拾ったクマのキーホルダーのことを思い出しました。

 しまった。警察に届けるのをすっかり忘れていた。

 今から交番に行っても遅くないとカバンの中からキーホルダーを出そうとしましたが、いくら探してもキーホルダーは見つかりません。

 会社に置き忘れたか、どこかに落としたのか、そういえば鈴の音もしていなかったことに気づきました。すると

 チリン

 突然、聞き覚えのある鈴の音が聞こえてきました。

 その音はNさんのカバンからではなく、子どもたちの方から聞こえてきます。

 Nさんは違和感を感じました。おしゃべりしている子どもたちに混ざって1人だけ俯いている子がいるのです。

 会話に入るわけでもないのに子どもたちにピッタリくっついて立っている。そしてその子のカバンにはNさんが持っていたはずのクマのキーホルダーがついていたのです。

 近づいてきた電車の音で鈴の音が聞こえなくなってきたその時、1人で俯いていたその子が線路へと走り出したのです。

 ファーーン!!

 近づいてくる電車が見えてきて、Nさんは思わず声を上げてしまいました。

 「何やってんだ!!危ない!!!」

 しかし子どもは立ち止まりません。Nさんは子どもを助けるために自分も線路に入り込みました。

 そして

 ・・・・


 ガシっ!!

 友人:「バカ!!何やってんだよ!!!」

 友人が全力で引っ込めてくれたおかげでNさんは電車に轢かれずに済みました。

 Nさん:「子どもは?あの子は無事だったのか?」
 友人:「え?何言ってんだ?」

 Nさんは慌てて周囲を見回しましたが、飛び込んでいった子どもの姿も轢かれたような形跡もありません。

 Nさん:「今、子どもが線路に飛び出していったんだ。だから俺危ないと思って助けようと・・・・」
 友人:「だから何言ってんだよ。飛び出した子なんていなかったろ。みんな大人しく待ってたじゃないか。」

 とにかく危ないから渡ろうと友人はNさんのいうことを信じてくれませんでしたが、Nさんのことが心配だったため家まで付いてきてくれました。

 家に帰ってからNさんは悩みました。

 自分にしか見えていなかった子ども、拾ったはずのキーホルダーをその子が持っていたこと、さらにそれを昨日亡くなったサラリーマンが持っていたこと、そしてサラリーマンが電車に轢かれる直前に危ないと叫んでいたこと・・・・

 もしかしたらNさんと同じように昨日のサラリーマンにも飛び込んでいく子どもが見えたのかもしれません。

 友人がいなければ、間違いなく電車に轢かれて私も死んでいたでしょう。

 あの子どもとキーホルダーに何の関係が?あの子の正体は?その目的は何なのか?

 Nさんには分からないことだらけでした。

 翌日からNさんは早起きして、行きも帰りもあの踏切を通らずに通勤しています。

 拾ったキーホルダーも結局行方不明、その後は不思議な現象も無く普通に生活しています。

 しかし数日後、Nさんの友人が例の踏切を渡った時

 チリン

 どこからか鈴の音がした。

 友人がふと下を向くと

 その足元にはクマのキーホルダーが落ちていたという。




⭐︎追伸⭐︎
最後までご覧いただきありがとうございます。
ボウズンボーです。
ラジオのような感じが好きでこのようになりました。この話自体はフィクションです。
長編にして上手いことまた作りたいと思いますのでよろしくお願いします。
7月17日までに「note」の小説部門に投稿したい。




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