「ps.a世界線より」

〇都内のとある交差点(昼)

N「世界線、マルチバースとも呼ばれる。無限に広がる世界の可能性は、時には螺旋状。時には溶け合い、複雑に絡み合う。だが、世界が誕生した時点で、それらが起こることは既に確定している。故に過去を改変しようと、何ら問題はない」

202×年 6月20日 午後3時。

交差点の中心で倒れ血を流している女性、宝田望未(19)を抱きかかえて泣いている少年、宝田来斗(16)。

そこに未来人(29くらい)が現れる。

未来人「ねーちゃん、助けたいか?」

キョトンと不思議そうに男を見つめる来斗。

〇喫茶未来

同日 午後2時40分。

誰もいない古びた喫茶店の扉の前で、ぎゅっと拳を握りしめて勢いよく扉を開ける望未。

望未「あ、あの、すいませ~ん」

返事が返ってこず、もう少し大きな声を出す望未。

望未「あの!すいません!!twittor見てきたんですけど!!」

またもや返事はない。

望未Ⅿ「そりゃそうだよね‥‥‥時間を遡ることができるだなんてありえないし、って言うか胡散臭すぎるし」
 
スマホでtwittorを開く望未。アカウント名は喫茶未来。自己紹介の所には(あなたの後悔、過去に戻って取り戻しませんか?ネットで前払い)と書かれてある。

望未「はあ、あたし何で払っちゃったんだろう」

喫茶店から出ようとする直後、勢いよく階段を駆け下りる音に驚く望未。

未来人「はいはい!ごめんなさいね遅くなって!」

階段から髪の毛ボサボサ、顎髭剃り残し、よれよれの服を着た未来人が現れる。

だらしない風貌に少し引き気味の望未。

未来人「君がDⅯくれた望未さん?」

望未「は、はい」

未来人「あ、よろしく、僕の事は未来人とでも呼んでください」

望未「は、はあ」

未来人「ささ、どうぞこちらの席に座ってくださいな」

万遍の笑みで店のカウンター席を望未に勧め、お茶を出す未来人。

未来人「どーぞ」

戸惑いながらお茶を飲む望未。

未来人「で、早速本題に入るけど、10年前に起こった飲酒運転の交通事故で亡くなった弟を生き返らせたいということでいいのかい?」

望未「はい‥‥‥お父さんとお母さんがいなくて、たった一人の家族だったので、どうしても弟を‥‥‥来斗生き返らせて、また一緒に暮らしたいんです」

俯き、両手をぐっと握る望未。

未来人「はいはいなるほど、また弟と一緒に暮らしたいと。でもお父さんとお母さんに関する依頼じゃなくても良いの?」

望未「お父さんとお母さん、誰だか分からないので‥‥‥」

未来人「あ、なんかごめんね」

望未「いえ‥‥‥」

未来人「なるほど、OK分かりました。それじゃあ早速ですが時間を遡るにあたっての注意事項と理解してほしい点を少しお話します」

メモを取りだす望未。

望未「あ、はい」

未来人「まず、君が過去に戻って弟を助けた場合、世界線が変わる。君の今までの記憶は消え、弟と過ごしてきた記憶に塗り替えられる。その影響で君の人格が大きく変わってしまう場合もある。それでも大丈夫かい?」

望未「はい、大丈夫です」

未来人「OK。そしてもう一つ注意事項。君の弟が死ぬ、つまり世界から人間が一人いなくなった。この事実は、残念ながら変えられない。弟君が生き残る代わりに必ず、世界の修正力が働いて他の誰かが必ず死ぬ。そしてそれは君かもしれない。それでも弟を助けに行くかい?」

望未「‥‥‥行きます」

未来人「OK、じゃあ早速行こうか。目を瞑って、君の弟が死んだ日を頭に思い浮かべて」

望未「え!もうですか!?」

未来人「早く弟に会いたいだろ?」

望未「いや、まあ」

未来人「さあ集中して、想像するんだ。君が弟の事故の現場にいることを」

不安そうに、辛そうに目を瞑る望未。

望未「来斗‥‥‥」

〇都内某交差点(夕方)

201×年 11月3日 午後2時36分。

交差点の横断歩道の側で目を覚ます望未

望未「!?‥‥‥さっきの喫茶店は、まさか本当に」

辺りを見回し、横断歩道の反対側で信号を待っているランドセルを背負った来斗(6)を見つける望未。

望未「‥‥‥来斗」

目に涙を浮かべて顔を伏せる望未。

直後、突然背後から少年(16)に声をかけられ驚く望未。

少年「あの子がどうかされたんですか?」

望未「ぎゃっ!?え、あ、いや、お‥‥‥弟なんです」

少年「結構歳離れてるんですね」

望未「まあ、そうですね」

望未Ⅿ「びっくりしてつい弟って言っちゃった。何なのこの人急に、もしかしてナンパ?」

少年「弟の事、どう思ってるんですか?」

望未「え?えーと‥‥‥あたしの命なんか、平気で投げ出してしまえるくらい、可愛くて大切で、愛しい弟です」

少年「‥‥‥良いお姉さんですね。僕の姉に聞かせてやりたいです」

望未「お姉さんと仲悪いんですか?」

少年「ノックせず人の部屋勝手に入ってくるし、僕の買ってきたお菓子勝手に食べるし、自分がずぼらなくせに僕には口うるさいし」

望未「ははは、でもきっとそのお姉さんは、貴方の事大好きなんだと思います」

少年「はい、さっき貴方の言葉を聞いてたらそんな気がしてきました」

望未Ⅿ「何だろうこの子。どこか懐かしいような。ずっとこうして喋っていたい‥‥‥もしかしてこれ、恋? いや、今は来斗を助けることが優先、この人には悪いけど、話を切り上げなきゃ」

辺りを見回す望未。向こうからものすごいスピードで走ってくるトラックを発見。

もう一度横断歩道の向こう側にいる来斗の方を振り返り、青になった横断歩道を渡った来斗が視界に入り、とっさに走り出そうとする望未。

望未「来斗!」

直後、謎の少年に突き飛ばされ望未はその場に倒れこむ。

少年「ごめんねーちゃん、俺も大好きだから!」

望未「!?」

望未が唖然としている間に、その少年は来斗の所に駆け寄るが、二人共一緒にトラックに轢かれてしまう。

血しぶきが少し望未の体に降りかかり、発狂する望未。

望未「い、いやああああ!!!」

発狂したまま目を瞑り、その場で気絶する望未。

〇喫茶未来

直後、喫茶未来の二階のベッドで目を覚ます望未。

望未「!?」

未来人「やあ、無事に生き返れたみたいでよかったよ」

飄々とした未来人の態度に涙を流しながら激怒する望未。

望未「生き返った?今‥‥‥たった今あたしの目の前で来斗轢かれたのに!?」

未来人「そう、来斗君は死んで、君は生き返った」

望未「‥‥‥は?」

未来人「君が子供の頃の来斗君を助けようとした時、誰かにそれを阻止されなかったかい?」

謎の少年と来斗がトラックにひかれる直前の言葉を思い出す望未。

望未「あの子、あたしの事ねーちゃんって‥‥‥まさか、」

未来人「そう、君を突き飛ばしたあの少年は未来で成長した来斗君だ」

望未「でもあたし、来斗を助けるのに失敗して‥‥‥」

未来人「いや、君は一度来斗君を助けたんだ。だが、君は世界の修正力によって来斗君の代わりにトラックに轢かれて死んでしまったんだ」

望未「でも、だからってなんで未来の来斗が‥‥‥過去に?」

未来人「君が6月20日の今日、過去に飛んで死んだからさ。あの時この世界線では、人間が一人死んだと確定した。来斗君の世界線は、君の死があってこそ存在できる。この世界と来斗君の世界は密接に絡み合っているんだ。だが、その影響で生き残った来斗君の世界の君も、6月20日に交通事故で亡くなってしまった。だから僕が、来斗君を連れて君を助けに行かせた。そして君の代わりに、来斗君が死んだ」

望未「なんでそんな、あなたは来斗が過去に飛べば、私の代わりに死ぬって事分かってたんじゃないの?」

未来人「まあ、そりゃ分かってたさ」

望未「じゃあなんで‥‥‥そんなこと」

未来人「まあ、来斗君からもお金貰えるし」

望未「‥‥‥じゃあ、もう一度過去に戻って私が死ぬ!!それで来斗の世界の私がまた死んでも、来斗には関らないで!!」

未来人「無理だね、向こうの来斗君から君を助けたいと依頼されてる」

望未「じゃあ私との依頼は!?」

未来人「向こうの世界線で君は来斗君とくらしてたじゃないか」

望未「‥‥‥私との依頼はもう完了してるってわけ?」

未来人「まあ、そうだね」

望未「‥‥‥」

椅子の上に置いたバッグを持ち喫茶店から飛び出していく望未。それを呼び止める未来人。

未来人「待ってくれ、まだ僕の仕事は終わってない」

目に涙を浮かべて未来人の方を振り返る望未。

望未「依頼は終わったんでしょ!?」

無言で手紙を望未に差し出す未来人。

望未「‥‥‥」

手紙を読む望未。

以下手紙の内容

ねーちゃんって言っても、俺とは別の世界線のねーちゃんに手紙を送るってのはなんか変な感じだな。こっちのねーちゃんは知らないかもしれないけど、最近俺とねーちゃん喧嘩が多くてさ。本当に些細なことですぐ口を利かなくなったりしてるんだ。ずっと俺は口うるさいねーちゃんの事を面倒だと思ってた。こっちのねーちゃんが車に轢かれた時も、しょうもないことで喧嘩してねーちゃんが家を出てった矢先だっだ。だから、こっちのねーちゃんに謝っても仕方ないけど、本当にごめん。俺の事を思って叱ってくれてるのは分かってんだ。でも、素直になれなかった。俺の大学に行くためってねーちゃん高校にも行かないでバイトして。いつも俺は養われる側、それが嫌だった。ねーちゃんが死んだあと、未来人のおじさんから話は聞いた。なあ姉ちゃん、もう俺の為に自分を犠牲にしなくて良いからさ。俺の事は忘れて、自分の人生を楽しんでほしい。

PS.俺やっぱり、姉ちゃんとずっと一緒にいたいよ。なんて、最後にこんな弱音聞かせちゃってごめんな、ねーちゃん。

未来人「これが残った仕事だ」

望未「‥‥‥でも、どうやって」

未来人「一つだけ、君たち二人が救われる方法がある。今、過去では幼い来斗君と成長した来斗くん、の二人が死んでいる。あの時間に死ぬ人間の枠は、同一人物が死んだことによって二人に増えた」
望未「…じゃあ」

未来人「今まで君と来斗君には、このために死んでもらった。全ては依頼をこなすためだったんだ。だからその、僕の事嫌わないでね!」



都内某交差点(夕方)

201×年 11月3日 午後2時36分。

再び過去に戻る望未。横断報道の向こうにいる幼い弟を寂しそうに見つめる。

背後から未来の来斗に話しかけられる望未。

来斗「あの子がどうかされたんですか?」

望未「弟なんです、たった一人の‥‥‥」

来斗「へー、結構歳離れてるんですね」

突如望未の目から一粒、涙が零れ落ちる。

来人「えちょ、大丈夫!?」

望未「いえ‥‥‥私、今から本当に酷いことをするんです。これまで生きてきたあの子の人生と、私の人生‥‥‥全てをないがしろにするような」

来斗「‥‥‥でも、貴方はその行動は弟への深い愛情から来るって、僕は分かりますよ‥‥‥」

望未「だけど、私のこの行動は本当に身勝手なものなの‥‥‥だから」

何か様子がおかしい、という不安そうな表情をする来斗

来斗「‥‥‥」

望未「ごめんね、来斗」

猛スピードで迫りくるトラックに向かって突っ込んでいく望未。

来斗は反射的飛び出した姉を追う。

来斗「ねーちゃん!!」

望未が横断歩道を渡っている幼い来斗を突き飛ばすと、背後から未来の来斗が望未の背後に迫り、望未を救うために突き飛ばそうとする。

望未「ごめんね‥‥‥」

望未は突き飛ばそうとする来斗の腕を払いのけ、来斗にハグをする。

来斗「ねー……ちゃん」

直後、望未と来斗は猛スピードで迫りくるトラックに突き飛ばされる。辺り一面に血が飛び散り、幼い来斗にその血が降りかかる。

幼少期来斗「‥‥‥」

〇喫茶未来人

202×年 6月20日 午後3頃

カウンターであくびをしながら開店の準備をしている未来人。

望未「すいませ~ん」

未来人「いらっしゃいませー、お席こちらにどうぞー」

来店した二人にカウンター席を案内する未来人。

来斗「え、誰もいないじゃん」

望未「ちょ、もうちょっとちっちゃい声で言ってよ」

仏のような顔をしているが内心ムカついている未来人。

未来人「‥‥‥ご注文は?」

メニューを見つめる望未と来斗。

望未「あっはい、えーと」

来斗「俺これ食いたい」

望未「それは高い」

来斗「いいじゃんたまには、いつも安いもんばっか食ってるんだし」

望未「しょうがないでしょ!お金ないんだから!!」

二人のやり取りを見て少し口元が緩む未来人。

未来人「お題は結構ですよ」

不思議そうに未来人を見上げる望未と来斗。

未来人「もう二人分、いただいてますからね」

望未と来斗は不思議そうな顔をする。

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