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シンパシーは来世に。


当時、結婚して五年目。
詳細は伏せるが、私は夫に嫌悪感しかなく夫婦生活に関して不幸だった。
夫が嫌いだったが、夫を選んだ自分も憎かったし、状況を改善出来ない自分に落胆する日々だった。
仕事と不幸な家庭との往復。これが私の人生だった。
ほんの少しの出来心で、某サイトに立ち寄るようになり、ほんのひと時でも今の生活を忘れさせてくれて自分を認めてくれる人を探すようになった。
大半は体目的の男ばかりで、なにも消化出来ない日々だったが、ある日彼が訪れた。
彼と私はチャット上ですぐに打ち解けて、私の要求する要望に彼は応えてくれた。私が求めたのは、自分は既婚者だが気分転換に付き合ってほしい。体の関係は求めていない。さらに、常識人であり話が合う人が良いということ。
文字だけのやりとりだったが、彼に強いシンパシーを感じた。
気付けば、深夜二時までやり取りを続け、勢いそのままになんと翌日にお茶をする約束をした。
事前に顔写真も交換せず、もちろん名前も知らない。(お互いに仮名でのやり取りをしていた)知っているのは年齢と職業、ざっくりとした生活状況だけ。
けれど、不思議と不安がなく、私は沸き立つ気持ちを隠しきれなかった。
表参道のカフェで待ち合わせをし、お互いになんの打ち合わせもしなかったが、先に席についていた私を見つけた彼が軽く会釈をして、お互いにお互いがこの人かとスムーズに認識をした。
この認識が後悔やギャップを生む事は無くて、初めて会話をしたあのカフェでの夜から私達は半年間関係を共にした。

結果的に私達は相思相愛となったが、それ以上に進展することはしなかった。私は既婚者、彼は独身。そして同い年。
あんな変なサイトでの出会いだったのに、おそろしく彼は真面目できちんとした職業を持ち、丁寧に日々を過ごしている人だった。
彼は100%私の求めている欲求に応えてくれて、彼と出会ってから私の心は満ち足りて溢れるほどだった。
これは、決して肉体関係のことを指しているのではなくて、完全に精神面でのこと。
彼と歩めたらどれほど幸福かと思う毎日だったが、幸福と罪悪感に苛まれた私が、これ以上彼と会い続けることが苦しくなり、関係を終える決断をした。

彼と終わってから4年になる。
彼が恋しくて関係を再開したい気持ちになることは数えきれなかった。
けれど、本当に心から大切にしたいと思うなら、今の自分の現況で彼に近寄ることは不幸しか生まれないことを自分に言い聞かせて、今日も私は生きている。
人生で、あんなにも健やかで穏やかな時間があったことを教えてくれた彼のことは、一生忘れるつもりはない。
墓場まで持っていく秘密。心だけは自由で自分のものだけでいたい。誰にも迷惑をかけないことを前提に。

来世でまた会えることを願って。お互い現実を生きていこう。




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