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【非麺エッセイ】漢字四字の駅名

 漢字四文字の駅名が好きだ。 
 ということに最近気がついた。 

 「関目高殿」とか「鴻池新田」とかいう名前を聞くと、なんだか心の琴線が震えてしまうのだ。 
「なんかいいな」という気持ちになってしまう。 

 しかし、漢字四文字の駅名なら何でも良いというわけではない。 
 例えば「甲子園口」とか「北鈴蘭台」とかはよろしくない。
 一字+三字とか三字+一字の構成はいけない。グッと来るものがない。 
 それに比べると漢字四文字の地名がそのまま駅名になってるものは、しっかりまとまっているので安定している。「武庫之荘」とか。 
 が、しかし僕的には、やはり二字+二字の構成が一番良いように思う。バランス的にもしっくりくるものがある。 

 じゃあ二字+二字の駅名ならばどこでも良いのかというとそうでもない。二字+二字の駅名にも色々ある。自分なりにカテゴライズしてみた。

①鉄道会社の名前に地名がついている。 
「近鉄難波」「高速長田」とか。 

②地名に方向を指す言葉がつく。 
「西宮北口」「甲南山手」とか。 

③旧地名に現在の地名がつく。 
「摂津富田」「河内天美」とか。 

④地名に施設の名前がつく。 
「王子公園」「鶴見緑地」とか。 

 まあ細かく分けたら他にもあると思うが、大まかに分類するとこんな感じではないだろうか。 
 で、上記のパターンはまあいいんだけど、「ああ、なんだかよろしいなあ」と心が震わされるほどのものは感じない。 
 僕が一番心を躍らされるのは 

⑤単純に地名+地名

のパターンなのである。 

 「千林大宮」とか「今福鶴見」とか「喜連瓜破」とかがそれにあたる。 
 語感の心地よさもあるが、「OO地区と△△地区の間ぐらいに駅作っちゃったから、じゃあまあOO△△駅でいっかー。」みたいな安易さが(あくまでも僕の推測だが)何とも言えず親しげではないか。 
 こういった観点からすると、一番最初に書いた「鴻池新田」などは④のパターンではないのか、と指摘を受けそうだが、そこはまあ所詮僕のたわごとであるから、その点はさらりと流していただきたい。 

 で、そんな駅名の中でも僕が最も心震わす駅名が、

 「野江内代」 

である。 

 これ、そもそも読めますか。 
 「のえうちんだい」と読むのです。 
 関西圏の人々には馴染みもあるだろうが、他の地方の方々にとってはなかなかの難読地名である。 

 この地名に初めて出会った時には「あ、なんかいいな」どころのフィーリングでは済まなかった。 
 「やった! ハラショー! ユーレカ!」と、なんだかもう僕の心の中が賛辞やら発見の喜びでノーベル西谷学賞の式典が開催されるような騒ぎになってしまった。 

 まず言葉の響きが良い。 
 「のえうちんだい」 
 とりわけ後半の「うちんだい」である。 
 チャーミングだ。かわいい。 
 そのくせ「だい」で終わることで、ただかわいいだけじゃないぞ。意地もあるぞ。という意志の強さも感じさせる。 
 「うちんだい!」と、何だか主張しているではないか。 

 またバランスの悪さというか、違和感を感じさせる構成も、深い印象を与える事に一役買っている。 
 最初の二字「野江」で「のえ」の2音。後半の2字「内代」で「うちんだい」の5音。何とも後半比重の読み方になっている。 
 このお尻でっかちな感じが、心に触れる。 

 こんな感じで、野江内代という地名の虜になってしまった僕である。 
 折に触れ、「のえうちんだい」と口に出さずにはいられない。そしてふふっ、と微笑みを口元にこぼしてしまう。最近はこんな車上(自転車)の僕である。 

 ちなみに野江内代と僕個人、親類一同、全く接点はない。

 近辺にチェックしているつけ麺店があるわけでもない。

 だから、僕が野江内代に住むことは、おそらく無いだろう。 

 僕にとっての野江内代は、言葉の響きとしての理想郷(エルドラド)にすぎない。僕の居るべき場所では、ないのだ。 

 ここまで書いてみて、さらに読み返して思ったが。

 なんてどうでもいい文章なんだろう。 

 最後まで読んでくれたあなた。 

 時間の無駄になってしまったね。 

 すまないね。


<追記>
 この文章、僕が2010年ごろ書いた文章に手を加えたものだが、書いた当時は色々な人から好評をいただき、さらに僕が気にいるであろう漢字四字の駅名を教えていただいた。
 その中から、特に僕の心を魅了した2つの駅名を紹介したい。

 1.「関目成育」(せきめせいいく・大阪市城東区)
 これはもちろん「成育」である。
 育むぞ、と。絶対に青少年育んでやるぞ、という町としての意気込みを十二分に感じさせる駅名である。
 ここで育った子どもたちは発育よく、文武両道成す青年続出であろう。

 2.「浮間舟渡」(うきまふなど・東京都北区)
 西谷的に「野江内代」と取って代わるほどの衝撃を受けた駅名がこれである。
 粋。これが江戸の粋(いき)というものか。
 浮世という川の間を、舟で渡るのである。無常観さえ漂う、あまりにも美しい駅名ではないか。
 そのくせ、音にすると「うきまふなど」と「ど」で終わるのである。なにやら田舎臭さというか、垢抜けなさというか、そういったものを感じさせる響きが含まれている。
 これが、単純に洗練されただけのものではない、深みのある駅名へと昇華させている。
 あまりにもよくできた、四字駅名である。

 さて、ここまで読んでくれた方。今回も長文にお付き合いいただき感謝である。
 麺の曲のためにnoteをはじめてみたのだが、文章を書くことの面白さに再び出会えた気がする。
 もちろん麺のことを中心に投稿することにはなるだろうが、せっかくなのでそれ以外のことも、思いつくまま色々と書き綴ってみたいと思う。昔書いたお気に入りの文も、手を加えつつどしどし投稿するつもりだ。

 今後も読んでいただける方がいらっしゃれば幸いである。

 ラボレムス - さあ、仕事を続けよう。

#駅名 #地名 #四字熟語 #エッセイ

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