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新たなトレンド ナーゲルスマンが使う2-3のビルドアップ

今回は最近のバイエルンで見られるビルドアップの形とその合理性を解説したいと思う。

既存のビルドアップの弱点

まず、フットボール界のビルドアップにおいて1番オーソドックスというか、悪い言い方をすると工夫が無いのが4バックがそのままビルドアップする形である。この形のもっともよくない点はサイドバックが本能的に広がって受けたがってしまうこと。前線からのハイプレスを志向しているチームが多い現代フットボールにおいて、相手のプレッシャーがかかるまで時間がかかる、相手より遠い場所で受けたがるのは当然である。しかし、サイドバックがサイドライン際に張って低い位置でボールを受けるとビルドアップは上手くいかない。理由は単純、作れるパスコースの少なさにある。フットボールにおいてとても大切になる「角度」。それを複数作りにくい構造になってしまう。例を挙げながら話していく。まず前線は大前提として、相手DFの位置基準の5レーンを取れていることを想定する。この状態でサイドの張った位置でサイドバックがボールを受けてしまうと、サイドの高い位置を取った選手とライン間を取る選手が相手にマークされ、アンカーや近い方のCBへのパスコースを圧縮されて消されてしまうと、ボールの出しどころはなくなってしまう。ボールの取りどころにされてしまうのである。これにより最近だと中を切りながらサイドバックにボールを誘導し、追い込み漁を行うチームも増えてきた。これは相手の守備の形が442であっても433であっても343であっても起こる事象自体はそう変わらない。これを解決するためには、パスコースを多く確保できるポジショニングというのを考えなえなければならない。

トレンドの3バック

その一つとしてトレンドだったのは3バックを形成し、その前に2人を並べ、3-2のような形でボールを前進させるやり方である。こうすると3バックの両脇がボールを持った時、角度が変わらない縦へのパスとアンカーかCBへの戻しのパスコースしかなかったのが、サイドで高い位置を取っている選手、ライン間に現れる選手、一列前の中盤、CB、GK等、さっきよりも多くのパスコースを担保でき、プレスではめられても逃げやすい構造を作り出せる。そして一列前の中盤の選手のポジション取りによっては、CFまでの一気のパスコースや自分がドリブルでボールを前進させられるスペースをも作り出すことができる。昨シーズン3バックもしくは5バックを使うチームが増えたのはこの要因が少なからずあると思う(勿論4バックの真ん中を守れる人材がいなかったり、後ろからの迎撃守備がしやすいからという理由が大半だとは思うが)。あとは前線を2トップにして2CBを捕まえようとしてくるチームが多いのに対して3CBにすることで数的優位を作れるからというのも3バックが合理的でありトレンドになっている大きな要因ではある。ここまで3-2のビルドアップの良さを説明してきたが、我らがユリアン・ナーゲルスマンはその一歩先を行っている。

新たなトレンド 2-3ビルドアップ

現在ナーゲルスマンが取り入れ、バイエルンで行われているビルドアップの形は、形上は2-3と表記できる。ひとつひとつ分解して説明していく。まず、先ほど後ろを3枚にすることで相手の2トップに対し数的優位を作れるという話をしたので、2枚にしてしまうとはめられてしまうのではと思った人も多いと思う。しかし、表記上3CBでも、実際3枚が真横に並んでいるシーンはほとんどない。なぜなら真横に並んだら、角度が出来ず、パスコースが減るからである。よって、3バックの中央の選手が少し下がり目の位置を取って角度を作ることが多い。今回説明している2-3は、この角度を後ろに作るか前に作るかの違いだけである。やってることは何ら変わらない。3バックの中央同様、アンカーの選手が連続的に角度を作り直すことで、相手が2トップでプレスしてきた場合、2CBとアンカーで実質的な数的優位をつくれるのである。この3-2と同じメリットを持ちながら、3-2よりも優れている点が2-3にはある。それが2-3の3の左右の選手の立ち位置である。この3の両脇はパスをもらいボールを持って前を向くだけで、3バックの左右どっちかがドリブルでボールを運んだ状態と同じになっているのである。つまり、もう一つ先の段階に早くたどり着けるということである。そしてこの役割をサイドバックの選手が与えられたとき必要なのが、張って受けるのではなく内側に入って受けること。ペップグアルディオラが広く浸透させた偽サイドバックはまさにこれだ。今回は低い位置でビルドアップに関わるサイドバックのポジショニングが題材だったため、サイドバック限定でこのロールを説明したが、フットボールにおいて選手の攻守における得意なポジションに置くのが最も重要であるのでこの2-3の3の両脇は必ずしもサイドバックである必要はもちろんない。第一、バイエルンも右はサイドバックのパヴァールやスタニシッチがこのポジションを取るが、左はデイヴィスにこんな器用なことをさせるのは適性ではないため、サイドでデイヴィスは高い位置を取り、2-3の3の左は初期ポジション(守備時のポジション)では左のボランチのゴレツカがやることがほとんどだ。高い身体能力で相手のカウンターを目を摘むことが期待できるゴレツカにとって適所になる配置である。そして初期ポジションで右のボランチのキミッヒが中央でアンカーのようなポジションとなり、角度を作りながら、そうやって相手のプレスをかいくぐり、ボールを前進させていくのが今のバイエルンである。433や4123のチームで、両サイドバックが上がり、中盤3枚が残る形や、ウイングが張ってサイドボックが絞る形でも勿論同じ2-3-5を作ることができる。これもまた選手の適材適所次第だ。

総括

今回は「ナーゲルスマンだけの戦術」のような紹介になってしまったが、ペップグアルディオラ率いるマンチェスターシティも同じくこの形でビルドアップをする。ハンジフリックのマンシャフトもどちらかのサイドバックが残る3-2と、残ったサイドバックが内側にポジションをとる2-3を併用しているように見えた。今後もっといろんな監督が取り入れ、トレンドになっていくと思う。

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