女の話1
“あの日みた灯りが点滅していた。
それだけでなんだか、泣けてしまった自分がいた”
信号待ちになった。煌々と光る赤い信号機をぼうっと見つめた。
「…あぁ、なんか、久しぶりにラーメンが食べたい」
ぽつりと、ひとりで、軽自動車の中で私はそう呟く。聴き慣れた音楽。走り慣れた道。ワイパーの軽快な音。
思えばここはどこの通りだろうか。信号機の横を見た。見慣れた標識。見慣れた地名。
と、いうことは。理解できた私は、左横を見た。
見慣れた看板。見慣れない明かり。
「12:00〜翌3:00」そして「いつも元気に待ってます!!!!!」不必要なほどにに多いびっくりマークに全てがフラッシュバックする。
だめだ、まだだめだ。今の私じゃ、まだ入れない。
「ラーメン食べに行こ」
「…んーまたぁ?」
「ラーメンを食べるまでがルーティン」
「勝手に決めないでよ」
色んな気持ちを入り混ぜた膨れっ面を彼に向けながら、私はそう言う。彼は、襟のよれた白のTシャツを素肌に纏わせ、私の方を見た。にっと笑っている。
「なんで笑ってるの」
「なんで服着てないの?」
「もう、!今着る!」
彼に枕を投げたら、また笑う。
「このラーメン屋さんより、俺の方が元気だよな」
「…そう?」
シモの話ね、なんて彼はまた笑う。
今思えば、彼の笑った顔しか見たことがなかった。
それってまぁ、そういうことなんだろうな。
いいところしかみてなかったとか、悪いところをお互いにみせようとしなかったとか。
あの日のラーメン屋の光が点滅していた。
点いては消えて、点いては消えて。
「好きだよ」
「っ、こんな時だけ、」
「違う、っ」
「嘘つき」
消えろ、消えろ。
もうみたくはなかった。
私の思いと共に、
後ろからずっとクラクションが鳴らされていたことに気がついた。視線に映る信号は青。
大きくアクセルを踏んだ。
大きな声を出して泣きたかったけど、目を強く擦りたかったけど。
今日は、ずっと静かに流しておくことにした。
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