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淡路島の地軸の石にまつわる怪談

これは私のディジュリドゥの師匠が体験した話です。
淡路島にある紫苑(シオン)の山は存知でしょうか?
師匠はあるときそこに奉納演奏をしにいくことになったそうです。

この山を祀っている、とある女性と、
他に参加した10人ほどのグループで一時間程登り、
本尊とされている”地軸の石”に辿り着きました。
ゴウゴウとやたら強い風が吹いてきます。
”地軸の石”は松林の中にあり、地面から突き出た平べったい形の岩で、周りを石で囲って祭壇のようにしてあったそうです。
師匠が地軸の石に向かってディジュリドゥを吹くと、音がまったく跳ね返ってこなかったそうです。
(注釈:普段、ディジュリドゥを練習するときは壁や部屋の角に向かって吹きます。音がよく跳ね返ってきて自分の出している音がよく聞こえるからです。)
平べったい岩なので、よく音を反射しそうなのに、吸い込まれるように音が消えてゆくのです。
愛用のディジュリドゥもヒビが入っているかのような力のない音になり、まともに演奏できなかったそうです。
なんとか体裁だけを整えて演奏を終え、かろうじてパチパチと拍手も貰えましたが、
師匠としてはまったく納得がいきませんでした。
下山しながらさっき起きた現象はなんだったのかと思案にくれていると、
それを察してか、リーダー的な女性が
「これからは好きなときに来て頂いて構いませんよ」といってくれました。
師匠はその日の夜にまた地軸の石へ向かうことに決めました。

その晩、月明かりを頼りにディジュリドゥ一本だけを持ち山に入ると、
ギャギャギャギャギャ
ギャギャギャギャギャ
と、カラスがやたらと師匠の周囲で騒ぎ立て、夜だというのに何度も頭をかすめる様に飛んできて威嚇するのです。
風が異様に強く吹きつけ、雨も降り始めて、師匠は自分が歓迎されていないなと感じたそうです。
それでも進んで行くと、徐々に三半規管がおかしくなったように平衡感覚が失われ、歩くのも困難な状態になり何度も転びました。
しかし師匠は
「自分が出す音は世の中を良くする音だ。その行為を邪魔することは、神でも悪霊でも許されない」
と強く思い突き進みました。何回かディジュリドゥを杖にしてしまったと言っていました。
なんとか地軸の石まで辿り着き、ディジュリドゥを構えるとさらに強い風がゴオオオと吹いてきました。
音を出してみると、やはり跳ね返ってこない。カラスも相変わらず騒ぎ立てていて、自分の出す音がほぼ聞こえなかったそうです。
どういうことなんだ?と地軸の石をジッと見ながら吹いていると、石の表面が歪んできて、
苦しそうな表情の人や動物の顔が次々に浮かんできたそうです。
師匠はパッと目をつぶり、
「イカン、こんなもん見てたら演奏できない!」と音に集中することにしました。
どれくらいの時間そうして吹いたかはわかりません。
音が少し跳ね返ってきたのです。
吹き続けると跳ね返ってくる音が少しずつ強くなっていきます。
自分の出している音がしっかり聞こえるとノッてくるものです。
演奏がだんだん激しくなってゆき、やっと普段の感じで即興演奏の一曲を終えました。
途端に辺りは完全な静寂に包まれました。
雨、風はぴったりと止み、カラスの鳴き声もありません。
師匠は満足感を覚え、月明かりの中を気分良く下山したそうです。
帰り道はまったくなにも問題なく歩け、穏やかな風が吹いていたそうです。

そんな淡路島の不思議な場所のお話でした。

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