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CRISPR遺伝子について解説。

CRISPR遺伝子は、細菌や古細菌のゲノムに存在する、反復配列と呼ばれる短いDNA配列の集まりです。CRISPR遺伝子は、ウイルスやプラスミドなどの外来DNAから切り出した断片を挿入することで、免疫の記憶を形成します。
CRISPR遺伝子は、Casと呼ばれるタンパク質と組み合わさって、CRISPR-Casシステムを構成します。CRISPR-Casシステムは、外来DNAを認識して切断することで、細菌や古細菌の防御機構として働きます。

CRISPR-Casシステムは、ゲノム編集技術としても利用されています。ゲノム編集技術とは、特定のDNA配列を切断、挿入、置換、修復などの操作を行うことで、遺伝子の機能を変化させる技術です。ゲノム編集技術は、生命科学の基礎研究や、医療、農業、工業などの応用分野において、多くの可能性を秘めています。

CRISPR-Casシステムには、さまざまなタイプやクラスがありますが、最も広く使われているのは、タイプⅡのCRISPR-Cas9です。CRISPR-Cas9は、Cas9と呼ばれるヌクレアーゼと、crRNAとtracrRNAと呼ばれる2種類のRNAからなります。crRNAは、狙ったDNA配列に結合するガイドRNAとして機能し、tracrRNAは、crRNAとCas9を結合させる役割を果たします。crRNAとtracrRNAは、一つの分子に結合したsgRNAとしても利用できます。
CRISPR-Cas9は、sgRNAのガイドに従って、狙ったDNA配列の両方の鎖を同時に切断します。この切断によって、DNAの自然な修復機構を利用して、遺伝子のノックアウトやノックインなどの操作が可能になります。

CRISPR-Cas9に関する最新の研究成果の一つは、2020年のノーベル化学賞を受賞した、エマニュエル・シャルパンティエ氏とジェニファー・ダウドナ氏によるものです。彼らは、大腸菌由来のCRISPR-Cas9システムをin vitroで再構築し、その機能とメカニズムを解明しました。さらに、sgRNAの配列を人工的に設計することで、任意のDNA配列を切断できることを示しました。
この研究成果は、CRISPR-Cas9をヒト細胞や他の生物の細胞に適用することを可能にし、ゲノム編集技術の革新的な発展に寄与しました。

CRISPR-Cas9に関する最新の研究成果のもう一つは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療法の開発に向けたものです2。三菱電機の研究チームは、CRISPR-Cas9を用いて、新型コロナウイルスに対する抗体を作るようにB細胞のゲノムを改変する方法を提案しました。B細胞は、免疫系の細胞の一種で、抗体を産生する能力を持ちます。
CRISPR-Cas9を用いて、B細胞の抗体遺伝子の一部を新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合する配列に置き換えることで、B細胞は新型コロナウイルスに特異的な抗体を作るようになります。このように改変したB細胞を投与することで、患者は抗体を獲得することができると考えられます。
この研究成果は、CRISPR-Cas9を用いた新たな免疫療法の開発につながるものと期待されます。

以上のように、CRISPR-Cas9に関する最新の研究成果は、ゲノム編集技術の原理や応用に関する重要な知見を提供しています。今後の研究によって、CRISPR-Cas9の効率や精度、安全性をさらに向上させることや、他のタイプやクラスのCRISPR-Casシステムの特性や利用法を明らかにすることが期待されます。

CRISPR-Cas9を用いたHLAゲノム編集iPS細胞の作製方法と臨床応用に向けた詳細評価 | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3が二本鎖DNAを切断する仕組みを解明 ―社会利用が可能なゲノム編集法として期待―|東京大学医科学研究所 (u-tokyo.ac.jp)

MIT Tech Review: ゲノム編集活性を高めた改変型「CRISPR-Cas12」=東大など (technologyreview.jp)

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